エピソード538『水・そして血と涙と』


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エピソード538『水・そして血と涙と』

吹利・真鶴公園。らぶらぶ公園の名で親しまれるこの地も、時には争いの地となってしまう……。
 だが、そんなことがわかるわけもなく、歩くカップル一組、二組。

夏和流
「(大きく伸びをして)うぅーん!いい風だね」
「そうね(くす)」
夏和流
「うにゃ?何か、面白いことがあった?」
「(くすくす)ないしょ」
夏和流
「ずるいよぉ、教えてよ」
「自分で考えなさい」
平和である。だがその平和を乱す者も、世の中多い。いまも、争いの元が前方よりふらふらと歩いてきた。

夏和流
「……どうしたんだろ、あの女の人?」
「そうね」
その他の通行人も、何となく見ているが、すぐに関わらない方がいいと判断し、その場を離れていく。

夏和流
「……どーしよ(悩)」
「どうって……?放っておけばいいんじゃない」
夏和流
「それはそうだけれど……」
(ばたっ)
夏和流
「……倒れた」
「ね、行きましょう?」
夏和流
「(悩)彩さん、ピッチ持っているよね?救急車呼んで」
「ピッチじゃ、救急車は呼べないわよ(呆)……もう、お人
好しなんだから」
夏和流
「これぐらいじゃ、ベーカリーのみんなにはかなわないよ
(笑)
(倒れた女の人に近寄って)大丈夫ですか?」
「み……」
夏和流
「み?」
「みず……」
夏和流
「(なんかお約束だなぁ)えっと……(きょろきょろ)あ、
あった」
水飲み場を見つけ、そこへ走っていく。

夏和流
「携帯用のコップはっと……」
ウエストポーチから携帯用のコップを持ち出し、水をくむ。こぼさないように慎重に歩きながら、なんとか倒れた女の人へとたどり着く。

夏和流
「はい、どうぞ」
「(こくこく)ありがと。それからあたしを水飲み場まで
連れていって」
夏和流
「はいはい(女を抱える)」
「救急車、呼んだわよ」
夏和流
「サンクス、彩さん。
(女に向かって)ところで、どうしたんですか?」
「……関係ないでしょ」
夏和流
「……ふうん(なんか、事情があるんだなぁ)」
三人が、水飲み場へついたその時。辺り一面に、殺気が満ちた。

「!来た」
夏和流&彩
「え?」
ごうっ!すさまじい音と共に、その場に火炎が降り注ぐ。どんな体術の持ち主でも、絶対に避けようがないほど圧倒的な量が。

「きゃぁぁぁ!」
夏和流
「彩さん!(とっさに庇う)」
だが、熱はいつまで経っても伝わってこなかった。夏和流が振り向くと、そこには水飲み場からあふれる水があった。そして、その水は壁だった。水の壁が、炎を阻む。

夏和流
「……操水術?」
「(ぴく)あんた、なんで知っているのさ」
夏和流
「え……いや、知り合いが同じ様なコトしてるの見たこと
あるから」
「知り合い?まさか、柳直紀?」
夏和流
「(教えてもいいかな?)うん」
「そう……元気でやってるんだ(安堵する)」
その時、炎がぴたりと止んだ。気が抜けたのか、その場に女は倒れた。

夏和流
「あ……ちょっと!だぁ……能力者なら、救急車に乗せ
るわけにもいかないし!敵がまだいるに決まってるのに!」
同時刻、ベーカリー内ずきんうっすらと白い線を残す古傷に激痛がはしる。

直紀
「………ん、くぅっ!」
観楠
「直紀さん?どうしたんです??」
いきなり手首を抑えてカウンターに突っ伏す。

直紀
「…へーき…だから(この感じ…何かが共鳴してる。だけど
そんなはず…ない)」
観楠
「青い顔して何言ってるんですか!」
直紀
「ほんとに大丈夫…だから。観楠さん、ここに代金おくね」
観楠
「無理しないで下さいよ(心配)」
カラン、カラン

直紀
「無理…か。こんなの医者に見せるわけにもいかないしね(くす)」
抑えていた手を離す。白く痕が残っていた傷は熱を帯び、表皮に透けて赫い球体が静かに脈打っていた。球体は一定の間隔で自己の存在を告げる。

直紀
「同じ血の契約を交したもの…あいつしかいないよね。
生きてたんだ…凛」
そっと自分の中に息づく凛の球体を触る。

直紀
「…こっちね」
わめく夏和流。だが、こうしてはいられない。

夏和流
「……はぁ。しゃーない。力を使いますか……」
「ちょ……なに、いまの?」
夏和流
「(うっ、彩さんには知らせていなかったんだ……)ええと、
説明は後。とりあえず、逃げよう」
「でも、普通じゃないわよ!なぜ、水がいきなり噴き出
したりしたの!?」
夏和流
「(……ごまかすかなぁ)ちょっとした、兵器ってとこ。僕
の知り合いに、同じ事する人知ってる。だから、とにかく
敵から逃げなきゃ」
「(しぶしぶ)……わかったわ」
夏和流
(恋人同士で、巻き込まれても平気な人に会えますように!)
ここで少し時間が前後させよう。公園の入り口近くを二人の男女が通りかかった。

「マサヒロ〜、ここでパン食べようよ〜」
大河
「わかったから大きな声出さないでくれ」
「あれ?火が出たよ」
大河
「(空を仰ぐ)神よ…、俺が一体何をした…」
「言ってみようよ」
大河
「(嘆息)メイ、千分の一で減速かけて倉庫に入れといて」
メイ
『(大河に)OK』
で、もどる。

大河
「あれ?夏和流君じゃないか。どうしたんだ?その人」
夏和流
「ぱんぱかぱーん!ぱんぱんぱん、ぱんぱんぱかぱーん!」
大河
「?」
夏和流
「おめでとーございます!本日のベストカップル賞は、
大河さん達お二人に決定しました!」
「やったぁ、ベストカップルだって、マサヒロ〜(喜)」
夏和流
「賞品としてもれなく、『戦闘に巻き込まれる』をプレゼ
ント!」
大河&萌
「……え?」
ちゅどぉぉぉん!二人の呟きとほぼ同時に、爆発する火球がその場に降り注ぐ!

大河
「なんだ一体!」
とっさに障壁をはる。霊的な視覚の持ち主なら見えるが、そうでなければ見えないだろう。火球は空中で消えた。

夏和流
「ふう……やっぱり頼るときは男の人だね」
大河
「お前だって男だろうがっ!(怒)」
夏和流
「(あさっての方を見ながら)空が赤いな……不吉だ」
大河
「さらに、ごまかすなぁぁ!」
夏和流
「(無視)彩さん、もー平気だから、安心していいよ」
「……うん」
大河
「あのなぁ!!」
そのまわりで呑気にお話しする夏和流と彩。とりあえず様子を見ている萌。そして、もう一人は。

夏和流
「おや……お気づきのようですね、お姉さん」
「……あんた達が、助けてくれたの?」
夏和流
「(胸を張って)ふっ。感謝は物でお願いします」
「何もしてないくせに……」
「……これからは、あたしが片を付ける。引っ込んでな」
夏和流
「だそーです、大河さん」
大河
「おまえってやつぁ……」
すくっと立ち上がると、火炎の飛んできた方向に睨みをきかす。

「ずいぶんと派手な真似するじゃない」
にぃと唇をつり上げ不敵な笑いを浮かべ、ぐっと右肩を掴む。掴んだ部分はにぶい光を放つと同時に、周りの水分が女の前に集まる。霧のように周りを漂っていた水分は次第に凝縮してゆく…

「これでも喰らいなっ」
圧縮した水分が相手めがけ飛んでゆく。周りの水分を取り込んでいるのか水の球体は徐々に巨大になってゆく。ごうっと球体を焼き尽くすような火炎が舞う…炎に触れた球体は霧散する事なく炎を喰らい尽くす。球体の勢いは留まることなく、術士にも牙を剥いていった。小さな森から上がる驚愕、そして悲鳴

「ふん」
夏和流
「起き抜けの割にはずいぶん元気ですね」
大河
「君も彼女と喋ってないで、逃げたほうがいいと思うぞ」
先ほどの火炎でたいていの人々は逃げたようだ。いまここにいるのは、夏和流と彩そして無理矢理巻き込まれた、大河と萌くらいか。

夏和流
「だーって、お姉さん片づけちゃったみたいだしー」
「…あれくらいでくたばる奴らじゃないけどね、ほら」
小さな森の中から、数人でてくる。雰囲気としては一見、研究員のようだ。一人の男が歩み寄る、こざっぱりした容姿の男だ。

「志津宮…柳の血液はおまえには荷が重い。我々に渡せ。
決して悪いようにはしない」
「契約時にあたしと直紀を組ませたのは、あんた達じゃない!
荷が重い?…冗談じゃない!不調もなければ、能力だって不都合
はないわ。全盛期よりいいくらいよ」
「…それが問題なんだよ。柳の血液は…精巧すぎるんだ。調べた
ところ元々の体質だと思うが、力を増幅させる傾向がある。
とてもじゃないが、このまま体内に納めておける代物じゃない。
このままじゃ…おまえのほうが保たない」
「それでも…あたしは嫌よ。たった2年間の関係だけど、それでも
直紀の血はあたしの中で生きてる!切り離したくなんて…ない!」
「(ぎりっ)いい加減にしろ!凛!!」
「ねえ、あの人達なんの話をしてるの?血液がどうとかって」
夏和流
「僕にも解らないよ(直紀さんの……血??)」
大河
「夏和流君、だいぶ騒がしくなってきたが…どうする?」
「(ぴくっ)マサヒロ!救急車がくるよ!」
夏和流
「あ(汗)さっき呼んじゃったんだっけ」
大河
「やばいな…混乱するだけだ…」
『メイ、結界をはってくれ』
メイ
『OK』
大河たちと敵(?)を包み込んで結界がはられた。ききいっと救急車が停止する

救護員
「…何だ?誰もいないじゃないか。ったく、この忙しいのに
誤報か」
夏和流
「ふーん……向こうからは見えないんですね」
大河
「ああ、だがだからといってここで長居はしたくないな」
夏和流
「同感ですね……とはいえ、向こうさんもお仕事みたいで
すし、簡単には見逃してくれないでしょうねえ……あれ?」
大河
「どうした?」
夏和流
「大河さん、結界といてもらえます? 状況を変えそうな
知り合いが来たもんで」
大河
「わかった」
直紀
「凛!」
「直紀?!」
「柳!なぜここに!」
「ねえ、一体どう言うこと?なにがおこっているの?」
夏和流
「僕にも解らないよ……けれど、一つだけはっきりしてる
かな」
「なにが?」
夏和流
「とうとう役者はそろった、ってことさ」



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