エピソード545『三流不良、ベーカリーにあらわる』


目次


エピソード545『三流不良、ベーカリーにあらわる』

来訪者は不良

ベーカリー楠、店の前にて。見るからに不良っぽい制服姿の男三人がたむろっている。

友紀(不良1)
「よく……ここに出没してるらしいな……」
不良2
「……お前さ……いいかげんあきらめろよ」
不良3
「相手が悪すぎるぞ……人妻だぜ、あのねーちゃん」
友紀
「俺だって……できるんならそーしたいんだか……」
不良3
「やめとけよ、いくらなんでも」
友紀
「あたって砕けろだ、いっそ砕けた方が気が楽になる……
遠い目)」

カランカラン

観楠
「あ、いらっしゃ……い……ませ」

元気よく挨拶をかけ……ようとして尻すぼみになってしまう観楠。

観楠
「(あぁ? ……不良共めが……鬱陶しいわい)
……ご注文は?」
友紀
「(きょろきょろ) いないな……少し待つか……」
不良2
「(げっそり) 待つのか」
不良3
「(あきらめ) はぁ」
友紀
「コーヒー3つで」
観楠
「……コーヒー3つ……」

仏頂面で注文を受ける観楠。そんな観楠を知ってか知らずか不機嫌そうに外を見つめる不良達。

友紀
「(あの姉ちゃん……くるか?)」
観楠
「(あぁ、鬱陶しい! とっとと帰れ!)」

黒いサングラスの男

と、その時。
 からんころん。
 レスラーのような体格にダークスーツ、真っ黒のサングラス。ヤバいものが入ってそうなアルミニウムのアタッシュ。
 本職のヤクザでさえ目をそらし道をあける。その男、御影武史。

御影
「どーも。暑いねぇ」
観楠
「あぁ、御影さん、いらっしゃい(な〜いすタイミング)」
御影
「いつもどうりに」
観楠
「紅茶ですね」
御影
「そ。アイスでよろしく」
不良2
「ぁ……」
不良3
「ぅ……(本物のヤクザじゃねーかぁっ!)」
友紀
「ん?(……げっ)」
御影
「(見ない顔だな)」

お気に入りの場所である窓際のテーブル席を占めている3人組を見やって、御影はカウンター席に腰を下ろす。

不良2
「(うわぁぁぁっ! こっち見てるこっち見てるぅっ!)」
不良3
「(バ、バカ! 見るな見るんじゃない! 目ェあわすと 死ぬぞ!)」
友紀
「(あああああっ、睨んでる……睨んでるぅ)」

泣きそう&冷や汗だらだら状態の不良×3。
 自分の視線が彼らをパニックに追い込んだことなど少しも気づかず、アイスティーを飲む御影。

ジャングルブーツの男

ずしゃっ……重厚な足音がベーカリーのドアの前で止まる。
 がちゃっ……重厚な音を立てドアが開く。
 全身黒ずくめの服装にジャングルブーツ、ミラータイプのサングラスに巨大なダッフルバッグ、そしてガンケース。その男、岩沙琢磨呂。

琢磨呂
「……ふうううううううううううう」
不良2
「ひっ!」
琢磨呂
「(重低音を響かせて)……暑い」
不良3
「(げげー! なんなんだこいつはぁぁぁぁっ!)」
琢磨呂
「アイスでアールグレイだ」
観楠
「毎度ぉー(わたりに船! らっきー)」

がちがちになってしまう不良達。つつつと額を汗がつたう。

友紀
「(さ……さすが、あの姉ちゃんが入り浸るだけのことは あるな)」
不良3
「(ンなもん関係あるかぁっ!)」
不良2
「(やばい、やばすぎるぞ……さっきのヤクザといい…… こいつら半端じゃねえ、マジもんだぞっ!)」
友紀
「(いや、こんなことで……びびってたまるか)」
足がくがく)

想い募れば……怖いものなど……だが、そう言いつつも滝のような汗がしたたっている友紀。健気といえば健気だ。

友紀
「(負けんな、気ぃ抜くな、気合だ)」

琢麿呂達の雰囲気に圧倒されないよう、必死に気合いを込めふんばる不良達。そこへ……

琢磨呂
「おい」
不良達
「(びっくぅ) はっはいぃっ(大汗)」

いきなりドスのききまくった声で話し掛けてくる琢麿呂、思わず椅子から数センチ浮き上がってしまう。

琢磨呂
「にーちゃん、ちょっとそこの荷物邪魔だ。通路塞いでる ぞ」
不良達
「あっ、ああああっ、すっすっすいませんっすいませんっ
滝汗)」

わさわさわさ、さっきまでの気合はどこへやら、あわくって鞄を隅に寄せる不良達。結構……情けないかもしれない……

御影
「おいおい、あんまり脅かすな」

琢麿呂に負けず劣らずドスのきいた声でたしなめる御影。ハッキリ言って琢麿呂より怖い……

不良2
「(怖え、怖すぎるぞこいつら……シャレならんぞ!)」
不良3
「(出よう、もー出ようぜ、おいっ! ここは魔界だ)」
友紀
「(いーや、まだだ! あの姉ちゃんが来るまで耐えて見 せる)」
琢磨呂
「脅かす? ちょっと注意しただけだが」
御影
「怯えまくっとるぞ、ほれ」

あごをしゃくる、その先には何時の間にか店の隅っこにこじんまりと引っ込んでしまった不良三人。

観楠
「(充分……脅しになってると思うなぁ)」
友紀
「(だ、誰か来てくれぇ)」

平凡そうな二人連れ

友紀の祈りが天に通じたのか。かららん。
 ドアが開き、男女二人連れが入ってきた。暑い盛りに長袖を着ていることを除けばごく普通の青年と、ちょっと可愛いけれどごくごく普通の女の子。

友紀
「(普通の客だぁ)」(喜涙)
豊中
「あれ、旦那がカウンターにいるなんて、珍しいですね」
御影
「ま、しゃあないな」
友紀
「(げげっ、ヤクザと喋ってるよ)」(大汗)
「(琢磨呂を見て)あ、この人銃持ってる〜♪」
友紀
「(うげげげげっ!)」
不良2
「(やばいっ、この店はやばすぎるっ!)」
不良3
「(ちっ、ちがうっ! こ……ここ日本とちがうぅぅっ!  どっか外国……サウスブロンクスだ絶対ぃぃぃぃっ)」
琢磨呂
「ふっ、俺の愛銃なんでね」
「かっこい〜(はぁと)」
不良3
(大瀑布汗)
豊中
「危ない趣味だなおまえも……茜、食いたいもの選んで来 い」
「もう決まってるもん。プリンアラモードね」
豊中
「太るぞ。俺にはドーナツとってくれ」
「自分でやればいいでしょ、まーちゃん」
豊中
「(渋面) だからその呼び方はよせって。(観楠に向かって) いくらですか」
観楠
「270円です」
豊中
「それプラス紅茶代の250円、と」

茜はカウンター席ではなく、琢磨呂のいるテーブル席へ。豊中は御影のとなり。

友紀
「(ああっ、あいつヤクザと平気で)」
不良2
「(やっぱりバックれようぜ!!)」

これだけ焦りまくっていれば、シールドしていない限り否応なしに感情探知は可能である。

豊中
『ちょっとあいつらをからかってやるか、相棒』
居候
『罪のない未成年をからかうとは人が悪いのう』
豊中
『俺は罪のある未成年をおちょくるのは大好きなんだ。
(声に出して御影に) そういえば旦那、実銃の所持許可をとろうと思っているんですが、お詳しいですか」
御影
「ん〜?」

ちらりと豊中の視線を追って、御影は人の悪い笑みをうかべた。

御影
「(ははぁ、なるほどな)実銃な……。
とりあえず公安のやってる講習を受けて筆記試験に合格する必要があるんだが……。しかし豊中、おまえの欲しいのは猟銃とか競技用のではなくて、岩沙の持ってるようなヤツじゃないのか?(にや)」
豊中
「それは言わない約束ですよ、ダンナ(にや)」
友紀
「(ああああああっ!! しかし、ここで帰ったらあのねえ ちゃんに会えない!!)」

瑞希登場

ああ三流不良、美作友紀。瑞希に会えず、ベーカリーで果てるか?! すでに足はがちがちと震え、立ち上がる事さえできない。

不良2
「(ああ……俺はここまでなのか)」
不良3
「(昔の記憶が走馬灯のように)」
友紀
「(まだだぁっ! あの姉ちゃんに会うまではっ)」

もう壊れかけの不良三人。そこへ……

瑞希
「こーんにっちはっ」
友紀
「(こっこの声はっ)」
そう、友紀にとっては待ちに待った声……

観楠
「こんにちは、瑞希さん」
御影
「どうも」
瑞希
「やっほう御影さんっ」

あやうく席から立ち上がりそうになる友紀。

友紀
「(来たっ! ねえちゃんだ)」
不良2
「(きっ来たのはいいけど……あのねーちゃん)」
不良3
「(……ヤクザが挨拶してるぞ……やっぱただ者じゃねぇ ぞ)」

友人二人の言葉を聞きながらも、そこは恋ゆえ。せかせかと襟元をただし、深呼吸ひとつ。

友紀
「よし……」
豊中
「おや? まだ立ち上がる気力があったか」
居候
『打たれ強い若者よのう』

何とか、体裁を保ちつつ。カウンターで御影らと話す瑞希に近づく。

友紀
「よぉ……ねえちゃん」
瑞希
「ん? あら、あんたこないだの」
観楠
「え、瑞希さん知り合いなんですか」
瑞希
「んー知り合いっていうか。こないだ、ケーキおごっても らった……えーと……」

思いだそうとしている……が、名前を聞いていない。

瑞希
「(ぽむ) よくいる量産型三流不良その一でしょ! 
どキッパリ)」

ずででででででっ。器用に二回転ひねりをくわえ、思いっきりずっこける友紀。

御影
「……よくいる」
琢磨呂
「……量産型三流不良」
観楠
「(言われてみれば)」

一言であっさり撃沈してしまった友紀、何とか復活する。

友紀
「あ、あ、あのなぁっ!」
瑞希
「だって、名前知らないんだもの」
友紀
「おっ俺は美作友紀だっ」

生徒手帳を高々とかざし必死に自分をアピールする友紀。必死の表情だ。

瑞希
「美作友紀……ゆきちゃんって呼んだ方が可愛いじゃない。 決まり、あんたゆきちゃん(キッパリ)」
御影
「びーさくとも読めるな」
琢磨呂
「そいつはいいや、びーさくだ、びーさく」

生徒手帳を覗き込み、無責任に呼び名をつけられてしまう友紀。

友紀
「ちょっちょっちょっと待てぇ! 俺はとものりだっ!」
瑞希
「いいじゃない、ゆきちゃんで。可愛いわよ(くす)」
友紀
「う……」

瑞希のチェシャ猫笑いになすすべもなく真っ赤になってしまう。

居候
『意外と純情よのう……』

告げる言葉は

瑞希
「ま、呼び名はゆきちゃんで決まったとして」
観楠
「決まったのかな……ほんとに(汗)」
瑞希
「あんた、何しに来たのよ」

瑞希の問いに、ますます顔を赤らめてしまう友紀。

友紀
「いや……あんたが、よく……ここにきてるって聞いたか ら……な」

耳まで真っ赤にして、やっとのこと言葉を絞り出す。ベーカリーの一同の反応は……。

豊中
「(にやり)ほぉーお、言ったか」
「ふぅん(にぱぁ)」
観楠
「(ちょっと驚き) はぁ」
御影
「(恐れを知らん奴)」
琢磨呂
「(まあ、ロングで年上……趣向は間違ってない)」
瑞希
「だから何だっての?」

……まるでわかってない奴、約一人。またもやずっこけそうになってしまう友紀。後ろで思いっきりこけてる仲間二人……

不良2
「(ねっねーちゃん……むっむごいぞ……)」
不良3
「(友紀……お前って……悲しい奴)」
友紀
「だっだから……その……ここに来れば……あんたに…… あっ会えるかなと思って」
瑞希
「ふーん、会ってどうすんの?」
友紀
「う……それは……その……」

返事に詰まってしまう友紀、無理もない。

琢磨呂
「(姉ちゃん……鈍い)」
御影
「(瑞希さん……他人の色恋には鋭いくせに)」
観楠
「(なんだか、憐れに思えてきた)」
「(わくわく)」

皆の視線を集める友紀。瑞希は不思議そうな顔。

「(へへぇ、やっぱりここは……)」
豊中
「(わ、よせ、茜!)」
「へぇぇ、び〜さく君、そのおねえさんのこと、好きなん だぁ」
豊中
「(ああったく、不良相手に混ぜっかえしやがって!)」

振り返り、恐げな顔を作って見せる友紀。

友紀
「るっせーんだよ、おめーは(赤面)」
「すごんだって無駄だもんね〜(にぱにぱ)」
友紀
「うるせーっつってんだろーが(赤面^2)」
(あかんべ)

一歩踏みだした友紀に、M93Rがポイントされる。

琢磨呂
「おっと、女の子あいてに暴力はいけないぜ」
友紀
(冷汗)
瑞希
「あたしも感心しないなぁ」
友紀
「(あうっ)」
「おね〜さんに嫌われちゃうよぉ、び〜さく君(にっこり)」
友紀
「(あうあう)」

さっきの威勢はどこへやら、またまた顔を真っ赤にしてわたくた慌てまくる友紀。

瑞希
「そーぉよぉ、女の子に手をあげる悪い子は、おねーさん がいぢめちゃうんだからぁ(うにうに)」
友紀
「え、あ、わうわう、」
「あはっ、びーさく君かわいー」

まるっきり子供の笑顔を浮かべて、両手で友紀のほっぺをうにうにする瑞希。完全におもちゃにされている友紀……。でも心なしか嬉しそうなのは気のせいか(笑)

不良2
「(友紀……すごく嬉しそうだぞ)」
不良3
「(ああ……こうして堕ちていくのか)」

憐れな友人の姿に、ただ涙に耐える不良二人。

観楠
「(瑞希さん……よーしゃない)」
御影
「(しかし、あいつ嬉しそうだぞ……)」
琢磨呂
「(憐れな、ねーさんの魔力に捕らわれたか)」
豊中
「(茜まで一緒になって)」

言葉も出せず見守るだけのその他の一同。下手に口を出したらよけいなとばっちりを食うだけだ……

友紀
「くぉら……こにょ、はにゃせ(こら……この、離せ)」
「(くすくす) 何言ってんだかわかんないよ〜びーさく君」
瑞希
「それ」

ぴんと、友紀の顔から手を離し、ずいっと、友紀に顔を近づけにっこりといつものチェシャ猫笑いを浮かべる瑞希。

瑞希
「あのね、ゆきちゃん(くすくす)」
友紀
「はっはははははははい、な、なんでしょう」

前髪が触れそうなほど顔を近づけられ、完全にパニック状態になってしまう友紀。
 にや……瑞希の顔がいつものチェシャ猫笑いから女豹のような挑戦的な笑いに変る。

瑞希
「人妻にちょっかいだしたかったら……」

両手で友紀の顔を挟み、額と額を寄せ、上目遣いで友紀の目を見詰める。

瑞希
「女の口説きかたくらい……わきまえなさいよ、ね」
友紀
「あう……」

絶句してしまう友紀。これは……耐えろという方が無理だ……

瑞希
「そんなんじゃ、お遊びもできないわよ(くす)」

ちょんと、友紀の鼻をつつき、いつものチェシャ猫笑いになる。まさに人妻の迫力全快。店内の誰一人、言葉も出せない。

御影
「(ああなると完全無敵だな、瑞希さん……
あの即死技、尊さんには教えないで欲しいもんだが……)」
豊中
『……やはり最強だったか、瑞希さん(汗)』
居候
『あの若いの、とーぶん立ち直れそうにないのう(大汗)』
「おねーさん、かぁっこいぃ〜」
瑞希
「へへぇ〜ん、悪女ここにありって感じ〜」

さっきとはうってかわって子供みたいにはしゃぐ瑞希。ぺたんと座り込み、呆けてしまう友紀。

不良2
「あああ、友紀ぃ〜」
不良3
「しっかりしろぉ〜傷は浅いぞ〜」

嗚呼、涙の友情。両脇を不良2・3に支えられ引きずられるように店を後にする。

瑞希
「ばいば〜い、ゆきちゃん(はぁと)」
「お大事に〜(ぱたぱた)」
ひらひらと手を振る女二人。未だに言葉を失ってしまっているその他の面々。

観楠
「(……間違っても人妻には手ぇ出さないぞ。瑞希さん みたいなタイプは絶対だ)」

解説

エピソード513『悪女? 参上』の直接の続編。
 みんなで寄ってたかっておもちゃにされた友紀くんであります……。実際の制作進行でも、よってたかって楽しんだような記憶があります。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部