朝、目を覚ますと、目眩がした。
布団から起き上がり、体温計を引っ張り出す。
熱は、38度を越した。
てるるるるる。
かちゃん。
目をつぶる。
脳裏に、幾つもの三角が浮かぶ。三角形を追いかけるうちに、目がくるくると回って……目が覚めた。
ふと気付くと、10時をまわっている。薬屋も開いていることだろう。ただ、薬を買いに行く気力がない。
ゆずに頼めれば。ふと、浮かんだ言葉を苦笑して打ち消す。誰かに電話すれば。その言葉も苦笑して打ち消す。人様に迷惑はかけられない。
そして次の言葉が、するりと出てきた。四大に頼めれば、と。
笑えない言葉である。塞き止める前に、その思考は自身の内奥よりずるずると引きずるようにも現れた。
四大に頼めれば。熱はすぐにも下がるだろう。誰にも迷惑はかけないだろう。
そうすれば、誰にも迷惑はかけることがない。鬼を祓うに、人の手を借りることも無い。己が好奇心の赴くままに、動くことも可能である。
自分自身が強くなると、決めたのだ。自分自身が誰かを助けることの出来るほどに。だと、いうのに。まだ、己は弱音を吐くのか。
この弱音を認めるだけの強さが、今の自分にはない。ただ、怒りだけが湧いた。
怒りの弾みをつけて、起き上がった視線の先に。泣きじゃくる自分の姿があった。
消えて、しまえ、と。口には出さぬ筈の思いは、しかし見事に伝わってしまう。
なれば、と、涙をぬぐって自分が言う。生き延びてやるまで、と。
一瞬の、間。
そして。
弾かれるような感覚。そのまま意識が揺らいだ。
目が覚めた時も、まだ熱は引かなかった。仕方がないので商店街まで歩いて薬を買いに行った。ふらふらと歩く間も、もう一度布団に逆戻りする間も、ただ一つのことが、頭にあった。
どうやら鬼を、生み出してしまったらしい。