夕暮れ……まだ早く。一人、散策する訪雪。川辺をゆっくりと歩いていく。
初夏、肌に吸い付くような湿気。しかし、緩やかな風には、少し肌寒さを感じる。
ふと、足を止める訪雪。そこには、一人、川に釣り糸を垂れる少年。羽の付いたつばの広い草色の帽子、同じ草色の長いぼそっとした上着……年の頃十五・六といったところか。
裾を捌きながら、男に近づく。そばまで寄っていき、声をかける。
声をかけられ、振り向く少年。見上げた瞳は淡い緑色、さらりとこぼれる裾長の金髪、透き通るような白い肌の彫刻のように整った顔、無表情に訪雪を見つめている。
無言で魚篭を指差す少年、魚篭の中に二匹ほどの魚が泳いでいる。
ばしゃばしゃっ。またかかったらしい、軽く引き上げると、15・6センチの魚が釣れている。
無造作に魚を魚篭にほうり込み、再び餌をつけ竿を投げる。
ひゅっ……
手近なところに腰を下ろし、眺める訪雪。
また一匹、再び一匹、吊り上げる。なかなか鮮やかな手並みである。
少々感心したように佐古田を見る。
そして、しばらくして……
向こうから、二人。手を振り、呼ぶ声が聞こえて来る。顔を上げ、小さく二人に手を振る佐古田。そして、釣りの道具を片付けだす。
訪雪を一瞥し、すっ……と、魚篭を訪雪に差し出す。
小さくうなずき、きびすを返す。魚篭を覗き込む、中には四匹の魚がぴちぴちと跳ねている。
無言で訪雪に小さく会釈し、歩き去っていく佐古田。
魚篭を片手に、初夏の淡い茜色に染まった夕暮れを歩く訪雪、涼しい風が……吹いていた。