エピソード555『おすそわけ』


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エピソード555『おすそわけ』

夕暮れ……まだ早く。一人、散策する訪雪。川辺をゆっくりと歩いていく。
 初夏、肌に吸い付くような湿気。しかし、緩やかな風には、少し肌寒さを感じる。

訪雪
「おや」

ふと、足を止める訪雪。そこには、一人、川に釣り糸を垂れる少年。羽の付いたつばの広い草色の帽子、同じ草色の長いぼそっとした上着……年の頃十五・六といったところか。

訪雪
「釣りですか……」

裾を捌きながら、男に近づく。そばまで寄っていき、声をかける。

訪雪
「どうです、釣れますか?」

声をかけられ、振り向く少年。見上げた瞳は淡い緑色、さらりとこぼれる裾長の金髪、透き通るような白い肌の彫刻のように整った顔、無表情に訪雪を見つめている。

佐古田
「……」

無言で魚篭を指差す少年、魚篭の中に二匹ほどの魚が泳いでいる。

訪雪
「ほう、釣れてますね」
佐古田
「……!」

ばしゃばしゃっ。またかかったらしい、軽く引き上げると、15・6センチの魚が釣れている。
 無造作に魚を魚篭にほうり込み、再び餌をつけ竿を投げる。
 ひゅっ……

訪雪
「少し、拝見させてもらいますか」

手近なところに腰を下ろし、眺める訪雪。
 また一匹、再び一匹、吊り上げる。なかなか鮮やかな手並みである。

訪雪
「これは……なかなか見事なものですね」

少々感心したように佐古田を見る。

佐古田
「……(ちょっと照れたようにうつむく)」

そして、しばらくして……

フラナ
「さーぁこーたーぁ」
本宮
「おーい」

向こうから、二人。手を振り、呼ぶ声が聞こえて来る。顔を上げ、小さく二人に手を振る佐古田。そして、釣りの道具を片付けだす。

訪雪
「終わりですか。いや見事なものを見させてもらいました」
佐古田
「……」

訪雪を一瞥し、すっ……と、魚篭を訪雪に差し出す。

訪雪
「私に? これを」
佐古田
「(無表情)」

小さくうなずき、きびすを返す。魚篭を覗き込む、中には四匹の魚がぴちぴちと跳ねている。

訪雪
「ほう、これは。結構なものを」
佐古田
「……(小さく会釈)」

無言で訪雪に小さく会釈し、歩き去っていく佐古田。

訪雪  
「さて、と。いい夕飯が手に入ったなぁ。多い分は 一君におすそ分けといこうか」

魚篭を片手に、初夏の淡い茜色に染まった夕暮れを歩く訪雪、涼しい風が……吹いていた。



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