エピソード559『春風活用法』


目次


エピソード559『春風活用法』

瑞鶴、午後三時。からから、と扉が開く。若干溶けかけた状態で入ってきた一名。

豊中
「……こんにちは」
店長
「ああ……そんなに外は暑いか?」
豊中
「暑いですが……?」

レジの前の定位置に花澄がいない。代わりにいつもは店の中を動き回っている店長が立っている。
 涼しい風がどこからか吹いてくる。

豊中
「今日は店長がレジやってるんですか」
店長
「夏の間はな」

店長の視線を辿ってゆくと、本棚の間の脚立に腰掛けて本を整理している花澄と目が合った。
 心なしか憮然、とした表情で、それでも花澄はぺこり、と頭を下げた。

豊中
「……店長、もしかして」
店長
「おう。冷房よりも気持ちいいだろう」
豊中
「まあ、そうですが……」
店長
「周囲数メートルしか影響が無いらしいんで、レジに居座 られると店内全体が涼しくならないんでな。夏の間は交代ってことで」
花澄
「……(溜息)」

瑞鶴内部は、只今春である。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部