エピソード570『草原の音楽会』


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エピソード570『草原の音楽会』

ベーカリーにて……。
 お茶を飲みつつくつろぐフラナと本宮、普段の光景。しかし……いつも一緒の佐古田がいない。

本宮
「佐古田……今日、どうしたんだろな、途中まで一緒だっ たのに……」
フラナ
「佐古田? 佐古田は今日デートだよ」
本宮
「でーとぉ!? 佐古田が?」
「なにぃ、あの佐古田が! 誰と?」
花澄
「(くす) ゆずですよ」
本宮
「え、あの……ゆずちゃんですか?」
「なるほどな……ゆずちゃんか」
本宮
「なんだか、妙に説得力があるのはなぜだろう……」

その頃、……草原。さわさわ……と涼しい風が吹き抜け、生い茂った草がうねり揺れ踊る。
 草の海の中、ギターを片手に、ぼさっとした上着につば付き帽子をかぶった、金髪の少年。傍らには、行儀良く座った赤いワンピース姿の小さな女の子が座っている。

譲羽
「ぢぃ……ぢぃ」
佐古田
「じゃじゃじゃん」

ギターをかき鳴らし、かたや音を鳴らし。なにやら……語り合っている。何を語り合っているか……は、当人達にしかわからないだろう。

譲羽
「ぢぃ」

佐古田の上着の裾をひっぱり、顔を見上げる譲羽。何かをねだる子供のように……。小さく首をかしげ、譲羽の目を見詰める佐古田。小さな手足をぱたぱたと動かし、訴える視線で何かを主張する。

佐古田
「じゃじゃん」

小さくうなずく佐古田。どうやら意味は通じたらしい。
 ギターをとり、つま弾きはじめる。ゆるやかな優しい音色がうねる草原に響く……。
 静かにギターを奏でる傍らで、佐古田に寄りかかり、じっと音色に耳(?)を傾ける譲羽。
 さわさわと……夕暮れの涼しい風が吹き抜ける。そこへ……
 わらわらわら

譲羽
「ぢぃ?」

いつしか、二人(?)周りがざわついて来る。
 あの、草原の小人がいる……一人、二人とどんどんまわりに集まって来る。ギターの音色にあわせ、歌を歌っている……小さく……ささやくような……

譲羽
「ぢぃ」

にぎやかになった周りを見つめる譲羽。しっかりと佐古田の服の裾をつかむ手に力を入れる……

佐古田
「……」

不意に、手を止めギターをおろす佐古田。すかさず、ひょいっと佐古田の膝の上に登る譲羽。小人達の歌声は……まだ続いている。小人達を見つめ佐古田に問い掛ける譲羽。

譲羽
「ぢぃ(見えないの?)」
佐古田
「じゃん……じゃかじゃん(ああ、見えない……でも歌は 聞こえる)」
譲羽
「ぢぃ(よかった……)」

顔を上げ……佐古田の緑の瞳を見つめる譲羽。

佐古田
「じゃん(なに? ゆず)」
譲羽
「ぢぃ……(歌、歌って)」
佐古田
「……じゃじゃん(……いいよ)」

譲羽を膝からおろし、ギターをかき鳴らしながら……歌う……飾りも何もない……素朴な歌。懐かしいような……暖かいような歌声。
 三人でいよう
 楽しいとき、さみしいとき
 三人でいよう
 つらいとき、嬉しいとき、いつも一緒に
 一人ではつらいから、二人では甘えてしまうから
 だから、三人でいよう
 いつも、わかちあおう
 一人では、弱いかもしれないけど、三人いれば強くなれる
 三人でいよう、誰よりも強くなろう
 ぼくらは、いつだって、ここにいるから
 瞳を閉じ……歌う佐古田。草を鳴らし伴奏をつける小人、小石を打ち鳴らし、合いの手を入れる小人、一緒に高く低く歌う小人。そして……最後の歌声が喉にひきとられていく。

譲羽
「……ぢぃ(うらやましい)」
佐古田
「じゃん……じゃじゃん(どうして?)」

ぽふ
 佐古田の問いに答えず、膝に顔を埋めてしまう譲羽。ぽんぽんと……優しく頭をなでる佐古田。

譲羽
「……ぢぃ(声……聞こえた。歌、聞いてて)」
佐古田
「じゃん(声?)」
譲羽
「ぢぃ(大好き、大切、仲間……みんなの声が)」
佐古田
「じゃん……じゃん(みんなで作った……歌だから)」
譲羽
「ぢぃ……(みんな……)」
佐古田
「じゃん……(これからゆずも)」
譲羽
「ぢぃ?(ゆずも?)」

顔を上げる譲羽。微笑んで、すい……と譲羽に手を差しだす佐古田。その手に握られたのは……
 小さな白い花……

譲羽
「ぢぃ」

佐古田を見上げ、首をかしげる譲羽。佐古田は黙ったまま、小さく微笑んだだけ。

譲羽
「……ぢぃ」

差し出された花を小さな手で受け取る。

譲羽
「ぢぃ……」
佐古田
「……」

何時の間にか……大勢いた小人達は姿を消し、静かになっていた。しかし……そこへ……

フラナ
「あ、佐古田ぁ! ここにいたっ」
本宮
「もう遅い、帰るぞ」

二人に手を振り、膝から譲羽を抱え上げ歩き出す佐古田。抱え上げる間際……

譲羽
「ぢぃ(また、歌って)」

答えの代りに、優しく微笑む佐古田。二人と一緒に歩き出す。小さな草原は、すっかり夜になっていた。



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