某日、吹利商店街にて。
- 瑞希
- 「やほっ、花澄さん」
- 花澄
- 「あ、こんにちは」
- 瑞希
- 「珍しいですね、この時間帯に」
- 花澄
- 「今日は、非番ですから」
午後二時。かなり、暑い。
- 花澄
- 「瑞希さん、お暇ですか?」
- 瑞希
- 「ええ、暇って言えば暇ですけど?」
- 花澄
- 「じゃ、チョコパフェ付き合って下さいな」
- 瑞希
- 「チョコパフェ、ですか?」
- 花澄
- 「先刻、ベーカリーで誰かが連呼してたもので(苦笑)」
- 瑞希
- 「いいですよぉ。行きましょっ」
喫茶店も、この時刻だとまだ空いている。
- 花澄
- 「チョコパフェって、以前は三月に必ず食べていたんです
けどね」
- 瑞希
- 「三月に? 寒いでしょ」
- 花澄
- 「多少、思い入れがありまして」
とん、とパフェの上部のクリームを突き崩す。
- 花澄
- 「高校二年の春に、転入試験を受けたんですよ。父は一年
単身赴任して、すっかり懲りたみたいで、私が高校受かろうが落ちようが、絶対引っ越すぞ、って、言い張ってて」
- 瑞希
- 「で……?」
- 花澄
- 「とにかく、受けられるだけの学校受けるつもりで用意し
て、試験受けに行ったんです」
まだ肌寒い日。やはり不安げな生徒達が、正門をくぐってゆく。学校の前には、喫茶店があった。
- 花澄
- 「それでね、転入試験が受かったら、帰りにチョコパフェ
を食べさせてやる、って父から言われたんです」
- 瑞希
- 「で、受かりました?」
- 花澄
- 「桜散る、でした。(苦笑)」
結果はその日の午後には分かった。ふわふわと、足元が頼りないような気がした。そのまま、喫茶店に入った。
- 花澄
- 「父は厳しい人で、言い出したら必ずそうする人なんです。
だからあの時は、高校途中で浪人することもあるのかな、なんて本気で考えてて。で、試験落ちたから今日はコーヒーだな、と思ってたら父がチョコパフェ頼んでくれたんです」
- 瑞希
- 「ううん……普通はそうするような気がしますけどね」
- 花澄
- 「そうなんですけど、パフェ食べれるなんて思わなかった
から、……何だかよく憶えてるんです」
次の試験に何とか合格することが出来、浪人することも無くなった。
- 花澄
- 「今考えると、いくら父でも高校止めさせることはしなかっ
ただろう、と思うんですけどね。あの時は本気で信じてたからなあ」
- 瑞希
- 「親の心、子知らず(くすくす)」
- 花澄
- 「全くです(苦笑)」
以来数年、三月の度にチョコパフェを食べた。忘れない為に? 何を?
- 瑞希
- 「花澄さん、溶けますよ」
- 花澄
- 「あ」
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