エピソード574『記憶喚起〜チョコパフェ』


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エピソード574『記憶喚起〜チョコパフェ』

某日、吹利商店街にて。

瑞希
「やほっ、花澄さん」
花澄
「あ、こんにちは」
瑞希
「珍しいですね、この時間帯に」
花澄
「今日は、非番ですから」

午後二時。かなり、暑い。

花澄
「瑞希さん、お暇ですか?」
瑞希
「ええ、暇って言えば暇ですけど?」
花澄
「じゃ、チョコパフェ付き合って下さいな」
瑞希
「チョコパフェ、ですか?」
花澄
「先刻、ベーカリーで誰かが連呼してたもので(苦笑)」
瑞希
「いいですよぉ。行きましょっ」

喫茶店も、この時刻だとまだ空いている。

花澄
「チョコパフェって、以前は三月に必ず食べていたんです けどね」
瑞希
「三月に? 寒いでしょ」
花澄
「多少、思い入れがありまして」

とん、とパフェの上部のクリームを突き崩す。

花澄
「高校二年の春に、転入試験を受けたんですよ。父は一年 単身赴任して、すっかり懲りたみたいで、私が高校受かろうが落ちようが、絶対引っ越すぞ、って、言い張ってて」
瑞希
「で……?」
花澄
「とにかく、受けられるだけの学校受けるつもりで用意し て、試験受けに行ったんです」

まだ肌寒い日。やはり不安げな生徒達が、正門をくぐってゆく。学校の前には、喫茶店があった。

花澄
「それでね、転入試験が受かったら、帰りにチョコパフェ を食べさせてやる、って父から言われたんです」
瑞希
「で、受かりました?」
花澄
「桜散る、でした。(苦笑)」

結果はその日の午後には分かった。ふわふわと、足元が頼りないような気がした。そのまま、喫茶店に入った。

花澄
「父は厳しい人で、言い出したら必ずそうする人なんです。 だからあの時は、高校途中で浪人することもあるのかな、なんて本気で考えてて。で、試験落ちたから今日はコーヒーだな、と思ってたら父がチョコパフェ頼んでくれたんです」
瑞希
「ううん……普通はそうするような気がしますけどね」
花澄
「そうなんですけど、パフェ食べれるなんて思わなかった から、……何だかよく憶えてるんです」

次の試験に何とか合格することが出来、浪人することも無くなった。

花澄
「今考えると、いくら父でも高校止めさせることはしなかっ ただろう、と思うんですけどね。あの時は本気で信じてたからなあ」
瑞希
「親の心、子知らず(くすくす)」
花澄
「全くです(苦笑)」

以来数年、三月の度にチョコパフェを食べた。忘れない為に? 何を? 

瑞希
「花澄さん、溶けますよ」
花澄
「あ」



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