休日、一人歩くぶらぶらと歩く瑞希。そこへ、不意に……
- 男
- 「あれ? 富良名、富良名だろ」
- 瑞希
- 「うみゅ?」
いきなり背後から声をかけられる。しかも旧姓で……
- 瑞希
- 「え(振り向く) あ(気付く) あーっ(驚く)」
- 男
- 「久しぶり、変んないな。おまえ」
- 瑞希
- 「ひっさしぶり〜誠でしょ」
そうだ……誠、川波誠。昔なじみ……腐れ縁……元恋人……色々な言葉がめぐっては消える。
- 誠
- 「結婚したんだってな。いい妻してるか、お前」
- 瑞希
- 「当たり前よ。この瑞希さんを舐めてもらっちゃ困るわね
そっちこそ、そろそろ……じゃない?」
- 誠
- 「ま、そんなもんかな。立ち話もなんだし、どっか寄って
くか?」
- 瑞希
- 「(くすくす) おごってくれる?(ちょっといたずらっぽく
笑う)」
- 誠
- 「お前さんの性格は熟知してる。おごらせてもらいましょ」
- 瑞希
- 「わぁお、らっきぃ(くすっ) ありがとっ」
そして……手近な喫茶店にて。
- 誠
- 「何年ぶりだよ」
- 瑞希
- 「卒業パーティ以来かな」
- 誠
- 「……あの時以来か……」
- 瑞希
- 「そう……だね……」
お互い、微妙に表情が変る。昔を懐かしむような、古傷を触わるような複雑な表情。
(回想)
卒業パーティ、みんな二十歳すぎということで遠慮無く飲み会になだれ込んでいた。
- 男1
- 「いや……○○さぁ、俺、結構いいなぁって思ってたんだよ」
- 女1
- 「えー、●●くんなら考えたのに」
飲み会、色恋の話で盛り上がっている。もう会えないかもしれないという思いからか、結構大胆な告白が続く。その隅っこで……
- 誠
- 「ま、ともかくおめでとさん」
- 瑞希
- 「さぁんきゅ」
- 誠
- 「……色々あったな……」
- 瑞希
- 「色々ね」
……元恋人、微妙な関係。もう恋人ではないのに……他人でもない。昔なじみの男、腐れ縁の男、なのに……付き合って半年も経たずに別れてしまった男。誰よりも話せるのに……誰よりも恋人になれない男。
- 瑞希
- 「みんな……節操ないなぁ、あっちもこっちも」
- 誠
- 「そうか? わりと相手をきっちり見てるぜ」
- 瑞希
- 「ふふ、あたしも見繕うかな(くす)」
- 誠
- 「じゃあ……もし……さ、将来相手いなかったら、俺で手
を打たんか?」
- 瑞希
- 「お、問題発言」
- 友人1
- 「そういうのって結構マジなんだよね」
- 誠
- 「勘ぐるなよ、保険だよ、保険」
- 瑞希
- 「そーか、保険くらいかけといてもいいかな〜」
- 友人1
- 「いいかもね、あんたの場合特に」
- 瑞希
- 「(ぶぅ) どーいう意味よ」
そんな感じで一次会が終わり、二次会へいくまでのしばしの間。
- 誠
- 「ちょっと、酔い覚まししてくる」
- 瑞希
- 「……あたしもいくか、ちっと日本酒飲み過ぎた」
- 誠
- 「ちっとか? ほんとに(笑)」
にぎやかながらも……暗い街、ちょっと裏路地にはいれば、人影も見えない。二人ならんで歩く。まるで、昔、恋人同士だった頃みたいに。
- 誠
- 「……久しぶりだな……二人で歩くの」
- 瑞希
- 「そうだね」
- 誠
- 「……また、二人で歩けるかな……」
- 瑞希
- 「もし……さ、これから十年、お互い相手がいなかったら、
まとまっちゃおっか(くす)」
- 誠
- 「……本気にするぜ」
- 瑞希
- 「まさかぁ、さっきも結構本気だった?」
- 誠
- 「はったりかませるほど器用な男に思うか?」
- 瑞希
- 「むー(じー) 思えない」
- 誠
- 「けっ」
そのまま……歩いていく……二人並んで……
(回想終り)
そして……今、喫茶店の二人。
- 誠
- 「結局……裏切ったよな」
- 瑞希
- 「なによ、相手がいなかったらって話でしょ。そんな事言
うと今の彼女にばらすわよぉ、結婚式で(笑)」
- 誠
- 「そっ頼む、それだけはっ」
- 瑞希
- 「へへへ(ぺろっと舌をだす)」
- 誠
- 「……いつだって、はっきりいう奴だよな……お前」
- 瑞希
- 「遠回しに真綿で首を絞めるような言い方、嫌いだもん」
- 誠
- 「時にそれが……いや、なんでもない」
- 瑞希
- 「ナイフみたいに……突き刺さるんでしょ……あの時みた
いに」
(回想)
酔い覚ましに、二人歩いた……道すがら。いつしか……
- 誠
- 「俺……本気だよ……本気で……」
- 瑞希
- 「……やめよ、もう……」
- 誠
- 「なんで」
- 瑞希
- 「答え……出してあげられないから」
- 誠
- 「……俺、待つよ。答え出るまで」
- 瑞希
- 「嫌よ」
- 誠
- 「どうして」
- 瑞希
- 「嫌なのよ……待たせるの……嫌なの……」
立ち止まり、誠から目をそらす瑞希。
- 瑞希
- 「そんな……答えてあげられる……予感も無いのに……待
たせるなんて嫌よ」
- 誠
- 「答え、いそがせようなんて……思わんぞ」
- 瑞希
- 「そうじゃない! ……あたし自身が嫌なの……待つこと
が……」
- 誠
- 「瑞希……」
しっかと握り拳を作り、立ち尽くす瑞希。
- 瑞希
- 「嫌なの……待つことは……辛いのよ。わかってるから!
わかってるから……」
- 誠
- 「待っちゃだめか、迷惑か、俺は納得できない」
- 瑞希
- 「……迷惑よ……あんたの気持ち背負ったまま……平気な
顔していられない」
涙をこらえるように、しかしハッキリと答える瑞希。
- 瑞希
- 「……待たせる方だって辛いのよ……望むに関わらず……
待たせてしまうのは……辛いの」
- 誠
- 「そんな!」
- 瑞希
- 「待つのはいやよ……わかるから、待たせたくないのよ。
答えてあげられないかもしれないってわかってて、それでも待たせてしまうのは……気持ちを負ってしまうのは……辛いのよ……」
だんだん感情的になって来る瑞希、声を荒げる。昔……恋人同志と呼ばれていた頃。あの頃は幸せ……と言えた……はしゃいで、遊んで、語り合って、なのに……どうして今は、反発しあってしまうんだろう。
- 瑞希
- 「待ってたからって……どうにかなるもんじゃないでしょ!
わからないじゃない……わからない事で、人の想い……縛りたくない。だから……嫌」
- 誠
- 「それは……お前のワガママだろ……俺には俺のワガママ
がある……それでも……俺は待ちたい。あんたのせいになんかしない。いつまでもガキじゃねえよ……」
- 瑞希
- 「そうよ……あたしだってガキじゃないから……だから辛
いの! それに……」
- 誠
- 「それに?」
- 瑞希
- 「……だめなの……あなたじゃ」
- 誠
- 「どういうことだ」
言いたくなかった言葉……言ったら最後、完膚なきまでに誠を傷つけてしまう言葉。……でも、言わなければいけない言葉。
- 瑞希
- 「……あなたの前だとね、自分じゃないの」
- 誠
- 「瑞希?」
- 瑞希
- 「あたしが……あたしでいられないの」
いきなり、話を変えられ、戸惑う誠。誠を見つめ……辛い……血を吐くように言葉を続ける瑞希。
- 瑞希
- 「あなたといると楽しいよ、くつろげるし、屈託なく話せ
る。でも違うのよ……あなたといる時は……ほんとのあたしじゃないの……」
- 誠
- 「ほんとの自分じゃないって……」
- 瑞希
- 「意地はって、むりやり強いあたしでいようとするの。あ
たしの中に、弱いあたしがいて、強いあたしがいて……二人揃ってあたしなの……どっちがなくても……あたしじゃないの……」
- 誠
- 「俺の前だと……」
- 瑞希
- 「弱いあたし、強いあたし、どちらも等しくあたしなの。
それが、あなたの前だと……弱いあたしがいられない……自分が自分でいられないって……苦痛じゃない……」
誠、完全に黙りこくってしまう。言葉の重さに……意味の残酷さに……傷ついた誠を前に……なおも止められず、泣きそうな顔で言葉を続けてしまう瑞希。
- 瑞希
- 「だから……あなたじゃないの。どんなに待ってもらって
も、どんなに話せても、あなたじゃないの。……酷い事言ってるってわかってる。けど……答えてあげられない……だから辛い……」
- 誠
- 「……戻れないのか……もう。昔、会った時みたいに……」
- 瑞希
- 「……」
その問いに、答えられない瑞希。
すべて洗い流せてしまったら……戻れるかもしれない。初めて会った時のように。でも……
- 瑞希
- 「戻れないよ……もう、出会ってるんだもの、記憶は……
消せない」
- 誠
- 「……そうか……」
- 瑞希
- 「ごめんね……誠」
- 誠
- 「……いいさ」
謝っても……謝っても……もう……誠を癒す事はできない。
- 誠
- 「……戻ろうぜ……そろそろ二次会みてえだし」
- 瑞希
- 「……うん」
帰り、遅くなるからと、結局二次会を途中で抜け、家路につく。正確には、誠の顔を見たくなかった……
- 瑞希
- 「どうして……こう、うまくいかないのかな……」
- 友人1
- 「……誠君のこと?」
- 瑞希
- 「……どうして……好きになれないのかな……」
- 友人1
- 「こればっかりはね……」
友人の声が聞こえているのかいないのか……
- 瑞希
- 「……あんなに話せる人だったのに、一緒にいて安らげた
のに、時が経って……いつしか……本当の自分が出せなくなって……壊れちゃうのね……」
独り言のように続ける瑞希。
- 友人
- 「人って……自分の周りに垣根作ってさ、他人をいれない
ようにするじゃない。自分自身が……弱いから」
- 瑞希
- 「……うん」
- 友人
- 「だから垣根を作って、必死に自分を守ろうとする。……
でも、いつまでも、そのままじゃいられないでしょ」
- 瑞希
- 「そうよね……いつしか……」
- 友人
- 「いつしか、垣根を取っ払って、心から話せるようになる
んじゃない」
- 瑞希
- 「あたしは……できなかったのね……垣根、取っ払うこと
が」
- 友人
- 「あんたら、垣根を取っ払うタイミングが、ずれちゃった
のよ。お互い意地っ張りだから」
- 瑞希
- 「……そう……かもしれないね」
ふと、空を見上げる……そうしないと、泣いてしまいそうだから……
- 瑞希
- 「……よぉしっ!」
- 友人1
- 「なに気合入れてるのよ」
- 瑞希
- 「ん、なんとなく……ね。泣きそうになっちゃったから……」
- 友人1
- 「泣けば、こんなときくらい」
- 瑞希
- 「……いいの、もう泣かない」
- 友人1
- 「……そうか」
- 瑞希
- 「ごめんね……誠。あたし……泣かない」
空を見つめる……月が妙に奇麗だった。泣かないと心に決めた……月に、誠に……誓った……
(回想終り)
かちゃり……とティーカップを置く瑞希。
- 瑞希
- 「今にしてみても……辛い言葉だったな……」
- 誠
- 「……直撃くらった俺はどうなる」
- 瑞希
- 「(くす) 男の子でしょ! 我慢なさい(くすくす)」
- 誠
- 「ひでぇよ(笑)」
ゆっくりと……苦い記憶が……暖かい……思い出に変わっていく……そんな……休日の午後だった。
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