某日、Flower Shop MIKO にて。
- 尊
- 「いらっしゃいませ……あ、花澄さん」
- 花澄
- 「こんにちは」
- 尊
- 「わ、なんか珍しい。お店の方に来られるの、初めてです
よね?」
- 花澄
- 「……はあ(苦笑)」
周囲の花を狂い咲きさせてしまう危険性がある為、花澄は滅多に花屋には来ない。
- 尊
- 「それで、今日は?」
- 花澄
- 「あの、花束作って下さいな」
- 尊
- 「はい。えっと、予算はどれくらい?」
- 花澄
- 「一万円。それで、腕いっぱいの花束って、出来ます?」
- 尊
- 「いち……出来ますよ、充分(汗)」
昨今、花の値段はかなり高いが、それにしてもその予算ならばかなりの花束が出来る。
- 尊
- 「あの、誰に……ええと、男性にですか? それとも」
- 花澄
- 「私が男の人に花を贈りそうに思います?(大真面目)」
- 尊
- 「えと、えと、(汗) ……少々お待ち下さい。あ、どうぞ
そこに座ってて」
ということは、女性向け、だろう。
- 尊
- 「何か御注文はあります?」
- 花澄
- 「尊さんが欲しくなるような花束だったらどんなのでも
にこ) 私、センスがない人間ですから」
- 尊
- 「じゃ、若い女の子、に?」
- 花澄
- 「ええ」
あちこちから花を選びながら、尊は該当者を頭の中で探してみた。
- 尊
- 「(直紀さんか……あれ、瑞希さん、誕生日いつだっけ?
あとはユラさんか、もしかしてゆずちゃんか……)」
花澄は人の好き嫌いが無い。あるのかもしれないが、少なくとも見たところからは判断できない。故に、該当者が特定できない。花澄本人は、椅子に座ったまま、のんびりとあたりを見回している。
- 花澄
- 「ここって、季節の花も置きます?」
- 尊
- 「ありますよ。いろいろ」
- 花澄
- 「もし、曼珠沙華が入ったら教えて下さいな」
- 尊
- 「曼珠……ああ、彼岸花」
- 花澄
- 「私、あの花が一番好きで」
いまいち、明るい趣味ではないだろう。
- 尊
- 「はい、どうぞ」
出来上がった花束は、淡いピンクのバラを主体とし、全体をパステルトーンでまとめたものだった。
- 花澄
- 「はい、じゃ」
代金を払い、花束を受け取り、大切そうに抱え込む。そして……花澄はそれを、尊の方に差し出した。
- 花澄
- 「はい」
- 尊
- 「……は?」
一瞬、状況を把握し損ねて、尊は花澄を見かえした。
- 花澄
- 「尊さんに、あげたかったんです」
差し出された花束を、尊は受け取るに受け取れず立ち尽くした。
- 花澄
- 「聞いたんですけど、……あの時、尊さんに電話したんで
しょう、うちの兄。それで」
- 尊
- 「花澄さん、だって、それは」
自分が、自分から巻き込まれに行ったのだ。花澄のせいではない。そう言いかけた尊の言葉を、花澄は遮った。
- 花澄
- 「うん、だから、謝罪じゃないの、これ」
ふわ、と笑うと、花澄は花束を尊に押し付けた。
- 花澄
- 「ありがとう」
- 尊
- 「……あの」
- 花澄
- 「平塚花澄の感激の印、受け取って下さいな」
勢いに押されるように尊が花を受け取る。
- 花澄
- 「……じゃ」
妙に潔く花澄は踵を返し、店から出ていった。春の風が、その後に続いた。
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