お昼過ぎ、自宅にて旦那と電話中の瑞希。
- 瑞希
- 「うん……わかった、夕ご飯までに帰るんだね。うん……
おっけい、腕によりをかけちゃうぞぉ」
電話を置く。食料の買い置きはあるし安売りの品もない、今日は特に買い物には行かなくても平気だ。
- 瑞希
- 「ふぅ……なんか手持ちぶさたになってしまった……」
手持ちぶさたながら、平和な充足感。いつからだろう、こんな風な生活を意識しだしたのは……いつしか……記憶をめぐらせていた……
「結婚」というものを意識するようになった時のこと……
(回想)〜就職二年目の時〜
2DKの部屋に住もう……。
結婚前、22歳の時。当時、恋人だった旦那に言われた言葉。
- 瑞希
- 「2DK……か」
ぼんやり天井を見つめる。色々な想いが心に渦巻く……
とるるるるるるっ
- 瑞希
- 「やほー」
- 友人1
- 「なんだ瑞希じゃない、どしたの?」
- 瑞希
- 「うん、特に用事があるわけではないんだけどね、ちょっ
と……どうしてるかなぁと思って」
- 友人1
- 「嘘ね、なんかあったでしょ」
- 瑞希
- 「むぅ、鋭い」
- 友人1
- 「まあね、で、なんなの?」
- 瑞希
- 「実は……ね、彼氏に言われたの」
聞いて欲しかった、いや反対して欲しかった、ただ、漠然と。まだ早いって言って欲しかった。それは自分が言いたい言葉だったから……。
- 瑞希
- 「2DKの部屋に一緒に住まないか? とね」
- 友人1
- 「それってつまり、あれよね」
- 瑞希
- 「まあ……その、つまりはね」
一緒に住もう……つまりは……結婚を前提に、二人で暮らそうという事。
- 友人1
- 「ふぅん、もう年貢を納めるか」
- 瑞希
- 「んーまだ、先のことだけどね。お金溜まってから」
- 友人1
- 「それで……そのことについて?」
- 瑞希
- 「おとーさんやおかーさん、なんて言うかな……と思って」
- 友人1
- 「まぁ……反対するでしょうね」
- 瑞希
- 「でしょ……あんたは?」
- 友人1
- 「どして?」
- 瑞希
- 「いや……うー、その……まだ……早いかなぁとかさ……」
- 友人1
- 「瑞希……あんた、反対してほしいの?」
- 瑞希
- 「……それは」
反対して欲しい、お父さんなら、お母さんなら反対してくれる。こいつなら反対してくれる……一方的に信じていた。
でも……どうして? 反対して欲しくないはずなのに……心の奥底で反対される事を望んでる。
まだ、子供でいたい。
まだ、このままでいたい。
まだ、考えたくない。
でも、いつまでもそのままでいられない……
- 瑞希
- 「なんか……その……あの……さ、いやはや……こう、
今……あうぅぅぅ! って状態でさ」
- 友人1
- 「……あんたさ、今混乱してる?」
- 瑞希
- 「うー、あー、うん。のーみそひっくり返って、土砂崩れ〜っ
てぐらい混乱してる……と思う」
- 友人1
- 「そんな唐突に言われたの?」
- 瑞希
- 「前から、そんな話はしてたけどね……」
就職する前あたりから、一緒に住もうかという話はしていた。
でも、まだまだ先の事だと思ってた。いつかはそんな日がくるとは思ってたのに……いつかって日がいつくるか、なんて……考えてもいなかった。
- 瑞希
- 「考えてないわけじゃないけど……はっきり言って、ろく
すっぽ考えてなかった……」
- 友人1
- 「でもさ、早すぎるってわけでもないでしょ。今から考え
てもおかしくはないわよ。考える奴は考える」
- 瑞希
- 「みゅう、考えても……おかしくない歳になってしまった
のか」
考えてもおかしくない……結婚を考えてもおかしくない歳。もう、そんな歳なのだろうか……歳って、あやふやだ……
- 友人1
- 「なに老け込んでるのよ」
- 瑞希
- 「なんか……もう子供じゃないのね……というお母さんの
心境」
- 友人1
- 「阿呆か」
- 瑞希
- 「みゅう〜」
- 友人1
- 「ともかく、結論から言う、頭冷やして考えろ」
- 瑞希
- 「おう」
- 友人1
- 「何を考えていいかわからなかったら、何を考えればいい
かをまず、考えろ」
- 瑞希
- 「うん……さんきゅ」
- 友人1
- 「もし、まとまったら……式には……呼んでよね」
- 瑞希
- 「うん……ありがと」
- 友人1
- 「まぁったく、人騒がせなんだから……」
(回想終り)
- 瑞希
- 「そういや……元気かな……あいつ」
くすっと笑い、受話器に手を伸ばす……瑞希。
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