エピソード581『2DKに住もう』


目次


エピソード581『2DKに住もう』

お昼過ぎ、自宅にて旦那と電話中の瑞希。

瑞希
「うん……わかった、夕ご飯までに帰るんだね。うん…… おっけい、腕によりをかけちゃうぞぉ」

電話を置く。食料の買い置きはあるし安売りの品もない、今日は特に買い物には行かなくても平気だ。

瑞希
「ふぅ……なんか手持ちぶさたになってしまった……」

手持ちぶさたながら、平和な充足感。いつからだろう、こんな風な生活を意識しだしたのは……いつしか……記憶をめぐらせていた……
 「結婚」というものを意識するようになった時のこと……
 (回想)〜就職二年目の時〜
 2DKの部屋に住もう……。
 結婚前、22歳の時。当時、恋人だった旦那に言われた言葉。

瑞希
「2DK……か」

ぼんやり天井を見つめる。色々な想いが心に渦巻く……
 とるるるるるるっ

瑞希
「やほー」
友人1
「なんだ瑞希じゃない、どしたの?」
瑞希
「うん、特に用事があるわけではないんだけどね、ちょっ と……どうしてるかなぁと思って」
友人1
「嘘ね、なんかあったでしょ」
瑞希
「むぅ、鋭い」
友人1
「まあね、で、なんなの?」
瑞希
「実は……ね、彼氏に言われたの」

聞いて欲しかった、いや反対して欲しかった、ただ、漠然と。まだ早いって言って欲しかった。それは自分が言いたい言葉だったから……。

瑞希
「2DKの部屋に一緒に住まないか? とね」
友人1
「それってつまり、あれよね」
瑞希
「まあ……その、つまりはね」

一緒に住もう……つまりは……結婚を前提に、二人で暮らそうという事。

友人1
「ふぅん、もう年貢を納めるか」
瑞希
「んーまだ、先のことだけどね。お金溜まってから」
友人1
「それで……そのことについて?」
瑞希
「おとーさんやおかーさん、なんて言うかな……と思って」
友人1
「まぁ……反対するでしょうね」
瑞希
「でしょ……あんたは?」
友人1
「どして?」
瑞希
「いや……うー、その……まだ……早いかなぁとかさ……」
友人1
「瑞希……あんた、反対してほしいの?」
瑞希
「……それは」

反対して欲しい、お父さんなら、お母さんなら反対してくれる。こいつなら反対してくれる……一方的に信じていた。
 でも……どうして? 反対して欲しくないはずなのに……心の奥底で反対される事を望んでる。
 まだ、子供でいたい。
 まだ、このままでいたい。
 まだ、考えたくない。
 でも、いつまでもそのままでいられない……

瑞希
「なんか……その……あの……さ、いやはや……こう、 今……あうぅぅぅ! って状態でさ」
友人1
「……あんたさ、今混乱してる?」
瑞希
「うー、あー、うん。のーみそひっくり返って、土砂崩れ〜っ てぐらい混乱してる……と思う」
友人1
「そんな唐突に言われたの?」
瑞希
「前から、そんな話はしてたけどね……」

就職する前あたりから、一緒に住もうかという話はしていた。
 でも、まだまだ先の事だと思ってた。いつかはそんな日がくるとは思ってたのに……いつかって日がいつくるか、なんて……考えてもいなかった。

瑞希
「考えてないわけじゃないけど……はっきり言って、ろく すっぽ考えてなかった……」
友人1
「でもさ、早すぎるってわけでもないでしょ。今から考え てもおかしくはないわよ。考える奴は考える」
瑞希
「みゅう、考えても……おかしくない歳になってしまった のか」

考えてもおかしくない……結婚を考えてもおかしくない歳。もう、そんな歳なのだろうか……歳って、あやふやだ……

友人1
「なに老け込んでるのよ」
瑞希
「なんか……もう子供じゃないのね……というお母さんの 心境」
友人1
「阿呆か」
瑞希
「みゅう〜」
友人1
「ともかく、結論から言う、頭冷やして考えろ」
瑞希
「おう」
友人1
「何を考えていいかわからなかったら、何を考えればいい かをまず、考えろ」
瑞希
「うん……さんきゅ」
友人1
「もし、まとまったら……式には……呼んでよね」
瑞希
「うん……ありがと」
友人1
「まぁったく、人騒がせなんだから……」

(回想終り)

瑞希
「そういや……元気かな……あいつ」

くすっと笑い、受話器に手を伸ばす……瑞希。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部