日常の中に非日常が存在する、ここはそんな世界。すべての人がそれを認識している、ここはそんな世界。
そして今、また『非日常』が始まろうとしている……。
- 琢磨呂
- 「(PHSが震える) はいこちら岩沙」
- 声
- 「私だ。識別コードを」
- 琢磨呂
- 「***」←秘密機関のため
- 声
- 「うむ。OK」
- 琢磨呂
- 「あの、king一佐殿」
- 声
- 「任務だ」
- 琢磨呂
- 「あのぉ〜」
- 声
- 「なんだ」
- 琢磨呂
- 「俺、此れからコンパなんすけど……」
- 声
- 「緊急の任務だ」
- 琢磨呂
- 「う……ぐぅ!」
- 声
- 「実行部隊員の中で貴様が一番距離的に近い」
- 琢磨呂
- 「畜生!」
- 声
- 「例の奴が操作網にかかった。いましがた警察から連絡が
あった。阪吹道路のP16で検問中だった交機がCheckしたんだがまんまと逃げられたそうだ」
- 琢磨呂
- 「無理も無いか、相手があれだからな」
- 声
- 「いいかよく聞け」
- 琢磨呂
- 「聞きたくなくても受信音量最大だよ」
- 声
- 「……阪吹道路のP16から、一直線に吹利市街地へ向かっ
ている。人込みに紛れるつもりだ」
- 琢磨呂
- 「げっ!」
- 声
- 「こっちの静止衛星が捕らえている。データ、送るぞ」
- 琢磨呂
- 「OK(電波受信中)」
- 声
- 「行ったか?」
- 琢磨呂
- 「くっきり見える」
- 声
- 「一人でやれるか?」
- 琢磨呂
- 「決戦ポイントに俺が先に着ければな」
- 声
- 「何処を選ぶ?」
- 琢磨呂
- 「奴が人気の無いところを通るとはおもえんが、でかい公
園を横切らざるを得ないだろう。人目に付くかも知れんが最小限だし、隠れられる。そこでやる。セクタPB64」
- 声
- 「……射殺許可を与える。特捜9課の確認済みだ」
- 琢磨呂
- 「マジだろうな? 俺はそれでこの前犯罪者にされかかっ
たんだからなっ!」
- 声
- 「大丈夫だ」
- 琢磨呂
- 「OK、だが俺は二次会からでもコンパに出る。1700までに
片付けるから、1700直後に、処理部隊をよこしてくれ。あと、念のためメディカルチームもよろしく」
- 声
- 「応援はいらんのだな?」
- 琢磨呂
- 「相手が奴だと、1発で勝負が決まる。そんなものかえっ
て役立たずだ」
- 声
- 「Roger。幸運を祈る」
- 琢磨呂
- 「外線1チャンネル開けておいてくれ」
- 声
- 「了解」
- 琢磨呂
- 「結構人は少ないな。OKだ、やれる!」
脳に直接流れ込んでくる位置データを参考に、潜む場所を探す琢磨呂を、意外な人物が呼び止めた。
- 豊中
- 「琢磨呂くんじゃないか」
- 琢磨呂
- 「!!」
- 豊中
- 「どうした、なぜそこでひきつる」
- 琢磨呂
- 「豊中さん、今俺に触るなよ」
- 豊中
- 「解った。だが独りでここへ来るようなタイプではあるま
い。何があったのだ?」
- 琢磨呂
- 「いや、えと……豊中さんこそ、何でこんなとこにいるん
だ?」
- 豊中
- 「研究の合間の気晴らしに、よくここで昼食を摂るんだが」
琢磨呂の頭に声が響く。正確には電波だが。
- 声
- (奴が公園の敷地に入るぞ)
- 琢磨呂
- (わーってる!)
- 豊中
- 「どうした、青ざめた顔をして」
- 琢磨呂
- 「俺、ちょっと忙しいから、また!(猛ダッシュ)」
- 豊中
- 「琢磨呂君?(おかしいな)」
追う豊中。
- 琢磨呂
- 「……(覚悟を決めるしかないな)」
大外刈りをかけて思いっきり豊中を押し倒す。
- 豊中
- 「何を……す……うげっ」
その上に覆い被さる琢磨呂。端から見ていればただの強姦である。
- 琢磨呂
- 「(小声で) 息を殺して、ちょっとそこで待っていてくれ」
- 豊中
- 「!」
瞬間的に思考を読んでしまう豊中。
- 豊中
- 「……わかった」
- 琢磨呂
- 「物分かりがいいんだかどうだかわからねぇぜ(苦笑)」
琢磨呂の脳に再び声が響く。
- 声
- (状況が変わったぞ。奴が自転車を奪った!)
- 琢磨呂
- (げげっ!)
- 声
- (3分以内にそっちへ行くぞ)
- 琢磨呂
- (了解!)
マガズィンは、リップに赤い線が入っているタイプ、炸裂弾。ガス圧設定は最高値。その状態の銃を抜くと茂みに伏せ、気配を消す。
少し離れて豊中が潜む。
- 豊中
- 『決戦だとか仕事だとか射殺だとか。……サバゲじゃなさ
そうだな』
- 居候
- 『? 物騒じゃのう』
- 豊中
- 『しかしいくら彼の腕でも、玩具で人は死なないぞ』
- 琢磨呂
- (奴の異能が完全に動いていれば、勝ち目はないかもな……)
公園の奥の方から、遊歩道を通って自転車が一台。およそ公園には似合わない、スーツ姿にママチャリ。
- 琢磨呂
- 「データ照合っと……OK、顔は変えてるけど奴だ。生け捕っ
た方が一佐は喜ぶだろうな……」
……
……
……
気の遠くなるような数秒が過ぎた後、琢磨呂のベレッタM93Rが火を……もとい、圧搾ガスと弾丸を吹き出す。
200気圧という途方も無い圧力で射出された弾丸は、ターゲットに吸い込まれる。男の肩口と太股に2発の炸裂弾が命中し、そして爆発した。
血と肉が混じった赤い飛沫を中に撒きながら、男は自転車の後方へと飛ばされる。
- 琢磨呂
- (ボムレットからKingへ。ターゲット生け捕り成功。至急
回収部隊を)
- 声
- (CH46が行く。怪我はないか)
- 琢磨呂
- (今のところはね)
- 声
- (了解)
その頃……
- 居候
- 『ひょえおわぁ!?』
- 豊中
- 『違法改造か!? ……それにしたって並じゃない破壊力だ』
- 居候
- 『血、血が出とるぞっ(パニック)』
見ると、太股の部分の筋肉が引き裂かれ、ざくろのようになっている。
- 豊中
- 『動脈は切れてなさそうだぜ、相棒』
- 居候
- 『うひゃぁぁぁぁ』
- 豊中
- 『うるさい。死にゃせんさ、ほっとけよ。琢磨呂君に押し
つけよ〜ぜ……ん? まずいっ!』
男の感情に、明らかな攻撃の色が浮かぶ。ターゲット……琢磨呂!? 攻撃方法……分析を終了する暇はない。とりあえず男を殴り倒すべく、隠れていた場所を出る。手にはいつものスタンガン。
しかし素人の悲しさ、忍び寄ろうとした豊中は足元の空き缶を蹴飛ばした。
豊中に気付き、男は何がもごもごと口で唱えると、彼の掌に赤い球体が形成される。
- 琢磨呂
- 「バ……ッ! ばかやろう、動くなといったァ!」
男が、その球体を豊中に投げつけようとモーションを取ったその時、投げられた琢磨呂の紋章ナイフが、男の掌に刺さる。
- 琢磨呂
- 「(豊中に飛びつき、抱えて転がる) 頭を下げろっ」
閃光そして爆発。
- 豊中
- 「(汚れた服を見て) 一帳羅がだいなしだね……」
- 琢磨呂
- 「命より服が大事なら、言ってろよ」
琢磨呂、銃を構え直して男に突き付ける。
- 琢磨呂
- 「(チャキッ) 陸幕二部だ。貴様の身柄を拘束する! 無
駄な抵抗はよせ」
どうせ待つのは死、ならば……と思ったのであろうか、左腕を挙げて何やら唱え始めた男の左手が、血飛沫を上げる。
- 琢磨呂
- 「もう一度言う。抵抗するな!」
そして、ヘリが来た。
- 隊員
- 「ご苦労でした(敬礼)」
- 琢磨呂
- 「お宅もご苦労(敬礼)」
- 隊員
- 「お怪我は……」
- 琢磨呂
- 「ああ、すりむいただけだ。出来ればバンドエイドくれ」
- 隊員
- 「はっ!」
- 琢磨呂
- 「ああ、あとあいつの輸送は気を付けろよ。自爆するかも
しれないから」
- 隊員
- 「そこのところは十分注意されています」
- 琢磨呂
- 「OK」
- 隊員
- 「一般人には見られませんでしたか?」
- 琢磨呂
- 「(豊中がいる方をちらりと見て)見られていない。OKだ」
- 隊員
- 「了解。では、明後日に出頭してください、今回の事件に
関するミーティングがありますので」
- 琢磨呂
- 「分かった」
爆音とともに去る、CH46ヘリ。ゆっくりと旋回した機体が上昇し、晴れ渡った空に消える。それを見送って。
- 豊中
- 「なにやらずいぶんご大層なものが出てきたな。学生のバ
イト先が特殊部隊か? どこの部隊だ」
- 琢磨呂
- 「さっきのヘリに載ってた連中と一緒だよ。ただ、表の顔
があるだけだ」
- 豊中
- 「世も末だね。学生というのは偽装か?」
- 琢磨呂
- 「ちゃんと大学には行ってるよ。緊急時に出動するだけだ」
- 豊中
- 「『ちゃんと』? ……一応、信じておくとしようか(にや)」
全然信じていない顔の豊中。
- 豊中
- 「しかし、見られた一般人はいないかと聞かれたとき、俺
のことを言わなかったのは何故だ?」
- 琢磨呂
- 「フン。 信用してるからさ」
- 豊中
- 「答えになっていないと思うが」
- 琢磨呂
- 「じゃぁこう言おうか?あんたも一般人じゃないからさ(笑)」
- 豊中
- 「おいおい(苦笑)、俺は一般人だ」
- 琢磨呂
- 「人の心が読めれば立派な非一般人さ」
- 豊中
- 「……俺のまわりにこういう人間ばかりが集まるのは何故
だろう?」
- 琢磨呂
- 「類は友を呼ぶってな」
にやりと顔を見合わせる二人。
- 琢磨呂
- 「ま、この事は内密にな」
- 豊中
- 「言ったところで誰も信じはせんな」
- 琢磨呂
- 「ふふふ」
- 豊中
- 「ところで、琢磨呂くん」
- 琢磨呂
- 「?」
- 豊中
- 「さっきの銃、見せてくれないか?」
- 琢磨呂
- 「いいけど、見るだけだぜ」
- 豊中
- 「……」
- 琢磨呂
- 「商売道具は、仮令知り合いでも触らせられん。俺の命だ
からな」
- 豊中
- 「それを聞いて安心したよ。ホンモノの仕事人だな、君は」
- 琢磨呂
- 「ふん」
こうして非日常は終わりを告げ、また日常がめぐってくる。
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