エピソード583『琢磨呂の仕事』


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エピソード583『琢磨呂の仕事』

日常の中に非日常が存在する、ここはそんな世界。すべての人がそれを認識している、ここはそんな世界。
 そして今、また『非日常』が始まろうとしている……。

琢磨呂
「(PHSが震える) はいこちら岩沙」
「私だ。識別コードを」
琢磨呂
***」←秘密機関のため
「うむ。OK」
琢磨呂
「あの、king一佐殿」
「任務だ」
琢磨呂
「あのぉ〜」
「なんだ」
琢磨呂
「俺、此れからコンパなんすけど……」
「緊急の任務だ」
琢磨呂
「う……ぐぅ!」
「実行部隊員の中で貴様が一番距離的に近い」
琢磨呂
「畜生!」
「例の奴が操作網にかかった。いましがた警察から連絡が あった。阪吹道路のP16で検問中だった交機がCheckしたんだがまんまと逃げられたそうだ」
琢磨呂
「無理も無いか、相手があれだからな」
「いいかよく聞け」
琢磨呂
「聞きたくなくても受信音量最大だよ」
「……阪吹道路のP16から、一直線に吹利市街地へ向かっ ている。人込みに紛れるつもりだ」
琢磨呂
「げっ!」
「こっちの静止衛星が捕らえている。データ、送るぞ」
琢磨呂
「OK(電波受信中)」
「行ったか?」
琢磨呂
「くっきり見える」
「一人でやれるか?」
琢磨呂
「決戦ポイントに俺が先に着ければな」
「何処を選ぶ?」
琢磨呂
「奴が人気の無いところを通るとはおもえんが、でかい公 園を横切らざるを得ないだろう。人目に付くかも知れんが最小限だし、隠れられる。そこでやる。セクタPB64」
「……射殺許可を与える。特捜9課の確認済みだ」
琢磨呂
「マジだろうな? 俺はそれでこの前犯罪者にされかかっ たんだからなっ!」
「大丈夫だ」
琢磨呂
「OK、だが俺は二次会からでもコンパに出る。1700までに 片付けるから、1700直後に、処理部隊をよこしてくれ。あと、念のためメディカルチームもよろしく」
「応援はいらんのだな?」
琢磨呂
「相手が奴だと、1発で勝負が決まる。そんなものかえっ て役立たずだ」
「Roger。幸運を祈る」
琢磨呂
「外線1チャンネル開けておいてくれ」
「了解」

公園にて

琢磨呂
「結構人は少ないな。OKだ、やれる!」

脳に直接流れ込んでくる位置データを参考に、潜む場所を探す琢磨呂を、意外な人物が呼び止めた。

豊中
「琢磨呂くんじゃないか」
琢磨呂
「!!」
豊中
「どうした、なぜそこでひきつる」
琢磨呂
「豊中さん、今俺に触るなよ」
豊中
「解った。だが独りでここへ来るようなタイプではあるま い。何があったのだ?」
琢磨呂
「いや、えと……豊中さんこそ、何でこんなとこにいるん だ?」
豊中
「研究の合間の気晴らしに、よくここで昼食を摂るんだが」

琢磨呂の頭に声が響く。正確には電波だが。

(奴が公園の敷地に入るぞ)
琢磨呂
(わーってる!)
豊中
「どうした、青ざめた顔をして」
琢磨呂
「俺、ちょっと忙しいから、また!(猛ダッシュ)」
豊中
「琢磨呂君?(おかしいな)」

追う豊中。

琢磨呂
「……(覚悟を決めるしかないな)」

大外刈りをかけて思いっきり豊中を押し倒す。

豊中
「何を……す……うげっ」

その上に覆い被さる琢磨呂。端から見ていればただの強姦である。

琢磨呂
「(小声で) 息を殺して、ちょっとそこで待っていてくれ」
豊中
「!」

瞬間的に思考を読んでしまう豊中。

豊中
「……わかった」
琢磨呂
「物分かりがいいんだかどうだかわからねぇぜ(苦笑)」

琢磨呂の脳に再び声が響く。

(状況が変わったぞ。奴が自転車を奪った!)
琢磨呂
(げげっ!)
(3分以内にそっちへ行くぞ)
琢磨呂
(了解!)

マガズィンは、リップに赤い線が入っているタイプ、炸裂弾。ガス圧設定は最高値。その状態の銃を抜くと茂みに伏せ、気配を消す。
 少し離れて豊中が潜む。

豊中
『決戦だとか仕事だとか射殺だとか。……サバゲじゃなさ そうだな』
居候
『? 物騒じゃのう』
豊中
『しかしいくら彼の腕でも、玩具で人は死なないぞ』
琢磨呂
(奴の異能が完全に動いていれば、勝ち目はないかもな……)

公園の奥の方から、遊歩道を通って自転車が一台。およそ公園には似合わない、スーツ姿にママチャリ。

琢磨呂
「データ照合っと……OK、顔は変えてるけど奴だ。生け捕っ た方が一佐は喜ぶだろうな……」

……
 ……
 ……
 気の遠くなるような数秒が過ぎた後、琢磨呂のベレッタM93Rが火を……もとい、圧搾ガスと弾丸を吹き出す。
 200気圧という途方も無い圧力で射出された弾丸は、ターゲットに吸い込まれる。男の肩口と太股に2発の炸裂弾が命中し、そして爆発した。
 血と肉が混じった赤い飛沫を中に撒きながら、男は自転車の後方へと飛ばされる。

琢磨呂
(ボムレットからKingへ。ターゲット生け捕り成功。至急 回収部隊を)
(CH46が行く。怪我はないか)
琢磨呂
(今のところはね)
(了解)

その頃……

居候
『ひょえおわぁ!?』
豊中
『違法改造か!? ……それにしたって並じゃない破壊力だ』
居候
『血、血が出とるぞっ(パニック)』

見ると、太股の部分の筋肉が引き裂かれ、ざくろのようになっている。

豊中
『動脈は切れてなさそうだぜ、相棒』
居候
『うひゃぁぁぁぁ』
豊中
『うるさい。死にゃせんさ、ほっとけよ。琢磨呂君に押し つけよ〜ぜ……ん? まずいっ!』

男の感情に、明らかな攻撃の色が浮かぶ。ターゲット……琢磨呂!? 攻撃方法……分析を終了する暇はない。とりあえず男を殴り倒すべく、隠れていた場所を出る。手にはいつものスタンガン。
 しかし素人の悲しさ、忍び寄ろうとした豊中は足元の空き缶を蹴飛ばした。
 豊中に気付き、男は何がもごもごと口で唱えると、彼の掌に赤い球体が形成される。

琢磨呂
「バ……ッ! ばかやろう、動くなといったァ!」

男が、その球体を豊中に投げつけようとモーションを取ったその時、投げられた琢磨呂の紋章ナイフが、男の掌に刺さる。

琢磨呂
「(豊中に飛びつき、抱えて転がる) 頭を下げろっ」

閃光そして爆発。

豊中
「(汚れた服を見て) 一帳羅がだいなしだね……」
琢磨呂
「命より服が大事なら、言ってろよ」

琢磨呂、銃を構え直して男に突き付ける。

琢磨呂
「(チャキッ) 陸幕二部だ。貴様の身柄を拘束する! 無 駄な抵抗はよせ」

どうせ待つのは死、ならば……と思ったのであろうか、左腕を挙げて何やら唱え始めた男の左手が、血飛沫を上げる。

琢磨呂
「もう一度言う。抵抗するな!」

そして、ヘリが来た。

隊員
「ご苦労でした(敬礼)」
琢磨呂
「お宅もご苦労(敬礼)」
隊員
「お怪我は……」
琢磨呂
「ああ、すりむいただけだ。出来ればバンドエイドくれ」
隊員
「はっ!」
琢磨呂
「ああ、あとあいつの輸送は気を付けろよ。自爆するかも しれないから」
隊員
「そこのところは十分注意されています」
琢磨呂
「OK」
隊員
「一般人には見られませんでしたか?」
琢磨呂
「(豊中がいる方をちらりと見て)見られていない。OKだ」
隊員
「了解。では、明後日に出頭してください、今回の事件に 関するミーティングがありますので」
琢磨呂
「分かった」

爆音とともに去る、CH46ヘリ。ゆっくりと旋回した機体が上昇し、晴れ渡った空に消える。それを見送って。

豊中
「なにやらずいぶんご大層なものが出てきたな。学生のバ イト先が特殊部隊か? どこの部隊だ」
琢磨呂
「さっきのヘリに載ってた連中と一緒だよ。ただ、表の顔 があるだけだ」
豊中
「世も末だね。学生というのは偽装か?」
琢磨呂
「ちゃんと大学には行ってるよ。緊急時に出動するだけだ」
豊中
「『ちゃんと』? ……一応、信じておくとしようか(にや)」

全然信じていない顔の豊中。

豊中
「しかし、見られた一般人はいないかと聞かれたとき、俺 のことを言わなかったのは何故だ?」
琢磨呂
「フン。 信用してるからさ」
豊中
「答えになっていないと思うが」
琢磨呂
「じゃぁこう言おうか?あんたも一般人じゃないからさ(笑)」
豊中
「おいおい(苦笑)、俺は一般人だ」
琢磨呂
「人の心が読めれば立派な非一般人さ」
豊中
「……俺のまわりにこういう人間ばかりが集まるのは何故 だろう?」
琢磨呂
「類は友を呼ぶってな」

にやりと顔を見合わせる二人。

琢磨呂
「ま、この事は内密にな」
豊中
「言ったところで誰も信じはせんな」
琢磨呂
「ふふふ」
豊中
「ところで、琢磨呂くん」
琢磨呂
「?」
豊中
「さっきの銃、見せてくれないか?」
琢磨呂
「いいけど、見るだけだぜ」
豊中
「……」
琢磨呂
「商売道具は、仮令知り合いでも触らせられん。俺の命だ からな」
豊中
「それを聞いて安心したよ。ホンモノの仕事人だな、君は」
琢磨呂
「ふん」

こうして非日常は終わりを告げ、また日常がめぐってくる。



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