夏の宵。てとてとてと、と走る音がする。
大気にはまだ熱気が残っているのだが、この二人には余り関係が無い。と、木霊が足を止めた。
長く続く木の塀のしたに隙間がある。そこから小さな少女は中を覗き込んだ。
いつのまにやら木霊の視線は上を向いている。つられて花澄も上を見た。
明るい緑の葉の中に、隠れるように咲く白い花。
指差す方には、白い花が二つか三つ、ぽたりと落ちている。
決して小さな花ではないのだが、緑の中では案外目立たない。地に落ちて初めて人の目を引くのだろうか。
小さな体が、塀の隙間から、するり、と中へ入り込んだ。木霊はすぐ、両手に一つずつ花を抱えて出てきた。
差し出した手に、木霊は大得意で花を置いた。
譲羽はそのまま肩へと登る。それを横目に見て、花澄は不意に悪戯小僧のような表情になった。
ぢい、と木霊が盛大に鳴く。花澄がくすくす笑った。