エピソード586『追憶の競馬場』


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エピソード586『追憶の競馬場』

日曜日、とある競馬場。簡単な仕事を済ませ、帰る支度をしている御影と十。

「仕事で競馬場にくるとは思わなかったな」
御影
「ま、大した仕事でもなかったわな。そろそろ レースがはじまるな、混まないうちに出るか」
「そうですね」
身支度を済ませ、競馬場を出ようとする二人。そこへ……

フラナ
「あれぇ……ここ、どこだろ?」
きょろきょろとあたりを見回しながら歩く茶色がかった髪の小柄な少年一人。

「あれ、フラナ……か?」
フラナ
「あ、にのまえさん! 御影さんも」
御影
「おう、フラナか。どうしたこんなところに」
フラナ
「僕? 近道して、瑞鶴に行こうと思ったんだけど」
御影
「お前……おもいっきり……反対方向だぞ」
「……しょーがない奴だな」
どうやら道を間違えて競馬場に迷い込んでしまったらしい。

「ついでだ、送ってってやるぞ」
フラナ
「うん……わぁ……ここ競馬場だったんだ」
御影
「こらこら、学生は馬券を買えんぞ」
フラナ
「いいのっ、懐かしいなぁ……」
御影
「懐かしい?」
「競馬場がか?」
フラナ
「うん、僕がちっちゃい頃、お父さんがよく競馬に連れてって くれたんだよ」
小さい頃、仕事で忙しい父が、たまの日曜に、よく競馬に連れていってくれた。肩車をして馬を見せてくれたことが印象に残ってる。

「ほら、裕也。見てごらん」
フラナを軽々と肩車する父。ぐるぐると柵のまわりを回る馬を指差すフラナ。

フラナ
「わんわん!」
この頃……四つ足で動くもんはみんな「わんわん」だった。

「ははは、裕也、あれはお馬さんだよ」
フラナ
「おうまさん?」
「そうだよ、これからお馬さんが走るんだよ」
フラナ
「わぁい、おうまさんいっぱい!」
「もうすぐ、いっぱいお馬さんが走るよ見ててごらん」
フラナ
「うん! おうまさんだいすき!」
「そうか、大好きか」
御影
「ほう……それでか」
「いいお父さんじゃないか」
フラナ
「うん、日曜日のたんびに連れてってくれだんだよ」
御影
「日曜のたびにか?」
フラナ
「うん、他にもね、お舟を見に行ったり、自転車を 見に行ったり、オートバイを見に行ったりとかしたんだよ(にこ)」
「……それは」
御影
「ひょっとして……」
フラナ
「日曜日にお出かけする時はいつもそうだったよ(にこにこ)」
二人
「……(おとーさんよぉ……)」
つまり、だしに使っていたんだろう……知らないのはフラナ一人。

フラナ
「あ、はじまってる」
何時の間にか人だかりができ、レースがはじまろうとしている。フラナも必死に背伸びをして見ようとするのだが……小柄なフラナ、完全に埋もれてしまってぜんぜん見えない。

フラナ
「見えないよ〜(ぱたぱた)」
御影
「やれやれ、それ(ひょい)ほら、見えるだろう」
フラナ
「わぁ」
軽々とフラナを持ち上げ、肩車をする。ただでさえ二メートル近い御影、肩車されればもう、あたり一面見渡せてしまう。

フラナ
「うわぁ〜い、見える見える〜」
「いいなぁ、フラナ(笑)」
フラナ
「へへへへへっ」
御影
「なんだ?」
フラナ
「御影さん、おとーさんみたいだぁ(どキッパリ)」
命知らずな一言。一瞬凍り付いてしまう御影、十。

御影
「……(一時停止)」
「お、お前……(い……言うに事欠いて……御影の旦那に向かって……) おとーさんはないだろう、おとーさんは(汗)」
フラナ
「だって、本当におとーさんみたいなんだもん」
御影
「……(停止状態続く)」
「(恐れを知らんな、こいつ……)」



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