エピソード597『友、遠方より来る』


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エピソード597『友、遠方より来る』

吹利駅で列車を降りると、途端に熱気が押し寄せてきた。

英人
「うを」

スーツの上着を脱ぐ英人。

英人
「もう夕方なんだがなあ」

ぶつくさ言いながら、改札を出る。出たところで、Tシャツにブラックジーンズの大柄な男が待っている。片手になにか棒のようなものの入っているらしい袋。

伴緒
「よう、能義」
英人
「出迎え御苦労」
伴緒
「それを言うなら、『出迎え、大義であった』くらいは言 えよ」
英人
「お前相手にそれを言っても、あんまり冗談に聞こえないぞ」

和服の方が似合いそうな友人を見上げ(英人は170センチに満たない背しかなかった)、英人は苦笑。

伴緒
「しっかし、暑そうな格好してるな。そのまま飲みに行く か?」
英人
「済まんが、まず荷物だけお前んとこに置かせてくれ」
伴緒
「ついでに水でも浴びたらどうだ」
英人
「ありがたい」
伴緒
「乗れよ」

バイクの後部シートに収まり、半ヘルをかぶる。

英人
「(騒音に負けないように怒鳴る)おい長谷川、刀をどこか によけてくれ! 邪魔だ!」
(むか)
伴緒
「我慢しろよ、すぐに着くから」

確かにすぐ着いた……が。

英人
「……サンハイツ吹利ぃ?」
伴緒
「それがどうかしたか?」
英人
「(郵便受けが並んでいるのを確認して)やっぱり。俺の従 弟もここに住人じゃないか」
伴緒
「世間は狭い(すたすた)」
英人
「いやまったく(すたすた)」

出張荷物(スポーツバッグ一個)を下ろし、シャワーを浴びる。カッターシャツとコットンパンツに着替える。

英人
「いくらか涼しいかな。……‥エアコンは無しか(苦笑)」
伴緒
「うむ。フロンが抜けてるそうだ」
英人
「……‥入れろ(呆)」
伴緒
「(平然として) 飲み屋ならいくらか涼しいだろう」
英人
「そうか(疑惑の眼差し)? ……‥ま、いいか、行こう。 ぽん酒の旨い店がいい。おい、刀は置いていけよ」
伴緒
「う〜む。たしかに不粋な話ではあるな。鰯丸、大人しく 留守番していろよ」
(むかむか)
英人
「赤鰯か(笑い)?」
(むかむかむか)

結局置いていかれた霊刀『封』。が、英人は幸か不幸か(好運だ)、『封』の感情を読みとる術など知らなかった。
 飲みながらの話は、自然、大学時代の友人の話とそしてお互いの現在の状況のことに収束する。

伴緒
「お前が国家公務員ねえ。世も末だ」
英人
「お役人様と呼びたまえ(威張る)」
伴緒
「リベートは取るなよ(にやり)」
英人
「安月給でこき使われてるんだぞ(苦笑)。で、おまえはぷー たろーか。くにには戻らんのか?」
伴緒
「あんな田舎に戻って何するんだ(苦笑)」
英人
「お前に連絡が取りたいって連中、結構いるんだがね。栃 木の方に問い合わせた奴もいるぞ」
伴緒
「う〜む」
英人
「とにかく、今度東京に来ることがあったら顔を出せよ。 元クラ(*1)の連中で飲もう」
伴緒
「今、ちょいと忙しいんで、しばらくあっちには行か ん(*2)(笑)」
英人
「しっかり稼げ(*3)(笑)」
*1
 東大内部用語。教養学部のクラス(第二外国語履修のため にクラス分けがされている)を指す。元同じクラス、という意味であり、つながりが強い仲間が生まれやすい。
*2
もちろん、霞が池の件で忙しいのである。
*3
他人の仕事、とくに長谷川伴緒の仕事内容は知りたくもな いらしい。

酒の後は、当然カラオケ。

英人
「野郎二人で歌うのもなんだかなあ」
伴緒
「野郎だけというなら、あと一人は欲しいところだが」
英人
「(考えてから)うむ、一人いたな」
伴緒
「?」
英人
(携帯を取り出す)

同時刻、豊中の部屋。
 TELTELTEL.......

豊中
『……‥なんだうるさいな』
留守電
「(かしゃっ) こちらはXXXX-XX-XXXX番です。御用の方は メッセージを……」
英人
『お〜い雅孝、いるのは分かってるんだ、カラオケ行くか らつき合え』
豊中
「(手を伸ばし、受話器をとる)英人? 今どこだよ」
英人
『それが吹利にいるんだな、これが。カラオケだカラオケ〜』
豊中
「……俺、今すっげー眠いんだけど」
英人
『歌えば目が醒める! 来たらお酒おごったげるから、来 るんだよ雅孝君』
豊中
「……へいへいへい、わかった年寄りにつき合ってやるよ」
英人
『そんじゃーまっとるけんねー(笑)』

ぷちっ。つーつーつー……

豊中
「うが〜、眠い」

ミドルハイベッドから墜落する豊中。顔面を畳にぶつけて、いくらか目が醒める。
 もそもそと着替え、顔を洗い、向かえに来た英人にひきずられるようにカラオケボックスへ。
 二時間経過。

英人
「お〜い、お前の番だぞ雅孝」
豊中
(ぐ〜、す〜)
伴緒
「……寝とるな(呆)」
英人
「若いくせにしょうがない奴だ(苦笑)」



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