某日。晴天。
- 店長
- 「……非常に不安なんだが」
- 花澄
- 「何ですかそれ?」
- 店長
- 「届けものだ。……迷うな、とは言わないから、無事に帰っ
てこいよ」
- 花澄
- 「……信用無いなあ(憮然)」
- 店長
- 「信用されるべき基盤がお前のどこにある?」
麗しい兄妹愛に満ちた会話の後、出かけたはいいが。
- 花澄
- 「……どうして、お兄ちゃんの言った通りになるんだろ(悩)」
- 譲羽
- 『花澄、迷ったの?』
- 花澄
- 「ゆず、追い討ちをかけないで……」
いつのまにやら市街を抜け、目の前には田んぼが広がっている。緑の穂が、ぎっしりと並んでいる。
- 花澄
- 「見事、だなあ」
と、風が二人の横を流れた。流れた風は、足元から広がる緑の穂の頭をぐいと押しては進んでゆく。
- 花澄
- 「ね、ゆず」
- 譲羽
- 『なに?』
- 花澄
- 「風が、見える」
風が、幾筋も流れてゆく様。白く光る穂。
- 花澄
- 「……忘れてたな、こういうの」
風が、見える。風は、見える。
そして全てが拡大し、拡散される感覚。呑み込み、呑み込まれる感覚。
- 譲羽
- 『花澄?』
- 花澄
- 「気持ち、いいね」
- 譲羽
- 『うん』
日の光はそれでも水で和らげられている。緑が稲穂から染み出て来る。水の国でしか見られない風景。
- 譲羽
- 『花澄、降りて走ってもいい?』
- 花澄
- 「ええと(左右を見て) ……大丈夫でしょ」
ぴょん、と木霊が肩から降り、白茶けた道を走り出す。赤いドレスが余りに鮮やかで、花澄は少し目を細めた。
風の見える日のことである。
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