エピソード604『茫々』


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エピソード604『茫々』

某日。晴天。

店長
「……非常に不安なんだが」
花澄
「何ですかそれ?」
店長
「届けものだ。……迷うな、とは言わないから、無事に帰っ てこいよ」
花澄
「……信用無いなあ(憮然)」
店長
「信用されるべき基盤がお前のどこにある?」

麗しい兄妹愛に満ちた会話の後、出かけたはいいが。

花澄
「……どうして、お兄ちゃんの言った通りになるんだろ(悩)」
譲羽
『花澄、迷ったの?』
花澄
「ゆず、追い討ちをかけないで……」

いつのまにやら市街を抜け、目の前には田んぼが広がっている。緑の穂が、ぎっしりと並んでいる。

花澄
「見事、だなあ」

と、風が二人の横を流れた。流れた風は、足元から広がる緑の穂の頭をぐいと押しては進んでゆく。

花澄
「ね、ゆず」
譲羽
『なに?』
花澄
「風が、見える」

風が、幾筋も流れてゆく様。白く光る穂。

花澄
「……忘れてたな、こういうの」

風が、見える。風は、見える。
 そして全てが拡大し、拡散される感覚。呑み込み、呑み込まれる感覚。

譲羽
『花澄?』
花澄
「気持ち、いいね」
譲羽
『うん』

日の光はそれでも水で和らげられている。緑が稲穂から染み出て来る。水の国でしか見られない風景。

譲羽
『花澄、降りて走ってもいい?』
花澄
「ええと(左右を見て) ……大丈夫でしょ」

ぴょん、と木霊が肩から降り、白茶けた道を走り出す。赤いドレスが余りに鮮やかで、花澄は少し目を細めた。
 風の見える日のことである。



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