エピソード606『トマト連想』


目次


エピソード606『トマト連想』

某日、夕刻少し前。グリーングラス近くにて。

花澄
「あ、ユラさん、こんにちは」

じょうろをもって出て来たユラは、その声に振り返った。

ユラ
「あ、こんにちは。ゆずちゃんも」
譲羽
「ぢいっ(こんにちはっ)」
花澄
「水遣りですか?」
ユラ
「ええ。……あ、どうぞ」

招かれるままに、ユラとマヤの後にくっついて店の裏手の庭に行く。と。

花澄
「何だかいろいろ一杯……トマト?」

ハーブが主流を占める中に、支柱に絡み付いたトマトが三本。

ユラ
「あれ、泣きつかれたんです(苦笑)」
花澄
「え?」
ユラ
「売れ残ってて、近づいたら『必ず実るから買ってくれー』 って」
花澄
「……成程」

トマトの実は、まだ青い。

花澄
「やっぱりこれは、マヤちゃんに、夜中運んでもらって」
ユラ
「?」
マヤ
「にゃあ?(何であたしがそんなことするの?)」
花澄
「で、扉を開けると『ああ運搬はひどいやな』と言って 入って来る」
ユラ
「(ぽん) それで私が『なんだと』って怒る(笑)。あ、で もそれならチェロがいりますよねえ」

ころころ笑う二人。何が何やら分かっていない猫と木霊。

花澄
「で、『トロイメライ』を頼まれて、『インドの虎狩り』 を弾くと」
ユラ
「マヤからぱちぱち火花が散るんですね」
譲羽
「……ぢいい(ほんとにそうなるの?)」
マヤ
「にゃああっ(冗談じゃないわよぅ)」

抗議の声に、ユラが笑いながら答える。

ユラ
「え? ああそうか、違うのよマヤ。そういう話があるの」
譲羽
「ぢいい?(マヤさんが火花を散らす話?)」
花澄
「そうじゃないの。だいたいユラさん、チェロ持ってない でしょ?」

……誤解を解く方向が、いまいち違うような気もする。

ユラ
「そっか、でもあれって、今くらいの季節の話なんですね」
花澄
「私も実は、今気付きました(笑)」

じょうろを抱えたユラと、しゃがみこんでトマトを見ている花澄と。まだ、夏は長い。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部