某日、夕刻少し前。グリーングラス近くにて。
- 花澄
- 「あ、ユラさん、こんにちは」
じょうろをもって出て来たユラは、その声に振り返った。
- ユラ
- 「あ、こんにちは。ゆずちゃんも」
- 譲羽
- 「ぢいっ(こんにちはっ)」
- 花澄
- 「水遣りですか?」
- ユラ
- 「ええ。……あ、どうぞ」
招かれるままに、ユラとマヤの後にくっついて店の裏手の庭に行く。と。
- 花澄
- 「何だかいろいろ一杯……トマト?」
ハーブが主流を占める中に、支柱に絡み付いたトマトが三本。
- ユラ
- 「あれ、泣きつかれたんです(苦笑)」
- 花澄
- 「え?」
- ユラ
- 「売れ残ってて、近づいたら『必ず実るから買ってくれー』
って」
- 花澄
- 「……成程」
トマトの実は、まだ青い。
- 花澄
- 「やっぱりこれは、マヤちゃんに、夜中運んでもらって」
- ユラ
- 「?」
- マヤ
- 「にゃあ?(何であたしがそんなことするの?)」
- 花澄
- 「で、扉を開けると『ああ運搬はひどいやな』と言って
入って来る」
- ユラ
- 「(ぽん) それで私が『なんだと』って怒る(笑)。あ、で
もそれならチェロがいりますよねえ」
ころころ笑う二人。何が何やら分かっていない猫と木霊。
- 花澄
- 「で、『トロイメライ』を頼まれて、『インドの虎狩り』
を弾くと」
- ユラ
- 「マヤからぱちぱち火花が散るんですね」
- 譲羽
- 「……ぢいい(ほんとにそうなるの?)」
- マヤ
- 「にゃああっ(冗談じゃないわよぅ)」
抗議の声に、ユラが笑いながら答える。
- ユラ
- 「え? ああそうか、違うのよマヤ。そういう話があるの」
- 譲羽
- 「ぢいい?(マヤさんが火花を散らす話?)」
- 花澄
- 「そうじゃないの。だいたいユラさん、チェロ持ってない
でしょ?」
……誤解を解く方向が、いまいち違うような気もする。
- ユラ
- 「そっか、でもあれって、今くらいの季節の話なんですね」
- 花澄
- 「私も実は、今気付きました(笑)」
じょうろを抱えたユラと、しゃがみこんでトマトを見ている花澄と。まだ、夏は長い。
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