エピソード614『過去の遺物』


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エピソード614『過去の遺物』

松蔭堂、訪雪の四畳半。訪雪は客の来ない店から自室に引っ込んで、本を読んでいる。
 店の間の方から小さな足音が近付いて、開け放った障子からいつもの訪問者が現れる。

譲羽
「ぢぃぢぃ(遊び、来たの)」
訪雪
「いらっしゃい、ゆずさん。本でも読む?」

木霊はとてとてと本棚に登り、一冊の本を抜き出す。

譲羽
「ぢぃ(これ)」

普段は大型本の後ろに隠されている、スライド本棚の奥の一隅。小さく薄い本の背表紙には、何の題も書かれていない。

訪雪
「あ……(うわやべ、目隠しがどけっぱなしだったか)
ゆずさん、それはあまり面白くないと思うよ(汗)」
譲羽
「ぢいぃ(なんで? 表紙、きれいだよ)」
訪雪
「あのね……それは、儂がむかし書いたやつなの。文とか 下手くそだから、出来たら読まんで欲しいなぁ」
譲羽
「ぢぃ!?(尊敬の眼差し)」
訪雪
「……ますます誤解されたようだな(滝汗)」

取り繕おうとするほどに、墓穴は深くなる。譲羽は訪雪に構わずに、その本を広げて読み始める。

譲羽
「ぢぃ(なんだか絵ばっかり)……
(絵を指して) ぢいぢぃっ(これ、誰?)」
訪雪
「ええと……それは、人」
譲羽
「ぢいいっ(何してるの)?」

無邪気な好奇心でいっぱいの眼差し。

訪雪
「(滝汗) あのね……ゆずさん。世の中には、知らなくて もいいことってのがあるんだよ。そこんとこ、判ってくれるかなぁ」

困っていることだけは判ってもらえたらしい。

譲羽
「ぢぃ……ぢぃっ(この本、ゆずが知らなくていい本?)」
訪雪
「いいかね? この本のことは、誰にも秘密だよ。花澄さ んにも、キノエちゃんにも、キノト君にも、うちのタイチ達……はもうとっくに知っとるか。とにかく、他の人には絶対話しちゃいかん。約束だよ」
譲羽
「ぢぃっ(うん、秘密)!」

夕方、花澄が迎えに来て。

譲羽
『あのね、今日は、大家さんの部屋で本読んだの。大家さ ん、昔本書いてたの。絵がいっぱいあるの。
ゆずにわかんない、すごい秘密の本なの』
花澄
「そうなの、よかったわね……
大家さん、昔本を書いてらしたんですって? 
なんだかすごい作品だって、ゆずが言ってるんですが……今度よかったら見せて下さいません?」
訪雪
「え……いや……昔の恥を曝すのもナンですから(滝汗)」
花澄
「そんな勿体ないことをおっしゃらないで。何か困ること でもおありなんですか?」
訪雪
「いや別に、そういうことは……(助けてくれぇ)」



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