松蔭堂、訪雪の四畳半。訪雪は客の来ない店から自室に引っ込んで、本を読んでいる。
店の間の方から小さな足音が近付いて、開け放った障子からいつもの訪問者が現れる。
- 譲羽
- 「ぢぃぢぃ(遊び、来たの)」
- 訪雪
- 「いらっしゃい、ゆずさん。本でも読む?」
木霊はとてとてと本棚に登り、一冊の本を抜き出す。
- 譲羽
- 「ぢぃ(これ)」
普段は大型本の後ろに隠されている、スライド本棚の奥の一隅。小さく薄い本の背表紙には、何の題も書かれていない。
- 訪雪
- 「あ……(うわやべ、目隠しがどけっぱなしだったか)
ゆずさん、それはあまり面白くないと思うよ(汗)」
- 譲羽
- 「ぢいぃ(なんで? 表紙、きれいだよ)」
- 訪雪
- 「あのね……それは、儂がむかし書いたやつなの。文とか
下手くそだから、出来たら読まんで欲しいなぁ」
- 譲羽
- 「ぢぃ!?(尊敬の眼差し)」
- 訪雪
- 「……ますます誤解されたようだな(滝汗)」
取り繕おうとするほどに、墓穴は深くなる。譲羽は訪雪に構わずに、その本を広げて読み始める。
- 譲羽
- 「ぢぃ(なんだか絵ばっかり)……
(絵を指して) ぢいぢぃっ(これ、誰?)」
- 訪雪
- 「ええと……それは、人」
- 譲羽
- 「ぢいいっ(何してるの)?」
無邪気な好奇心でいっぱいの眼差し。
- 訪雪
- 「(滝汗) あのね……ゆずさん。世の中には、知らなくて
もいいことってのがあるんだよ。そこんとこ、判ってくれるかなぁ」
困っていることだけは判ってもらえたらしい。
- 譲羽
- 「ぢぃ……ぢぃっ(この本、ゆずが知らなくていい本?)」
- 訪雪
- 「いいかね? この本のことは、誰にも秘密だよ。花澄さ
んにも、キノエちゃんにも、キノト君にも、うちのタイチ達……はもうとっくに知っとるか。とにかく、他の人には絶対話しちゃいかん。約束だよ」
- 譲羽
- 「ぢぃっ(うん、秘密)!」
夕方、花澄が迎えに来て。
- 譲羽
- 『あのね、今日は、大家さんの部屋で本読んだの。大家さ
ん、昔本書いてたの。絵がいっぱいあるの。
ゆずにわかんない、すごい秘密の本なの』
- 花澄
- 「そうなの、よかったわね……
大家さん、昔本を書いてらしたんですって?
なんだかすごい作品だって、ゆずが言ってるんですが……今度よかったら見せて下さいません?」
- 訪雪
- 「え……いや……昔の恥を曝すのもナンですから(滝汗)」
- 花澄
- 「そんな勿体ないことをおっしゃらないで。何か困ること
でもおありなんですか?」
- 訪雪
- 「いや別に、そういうことは……(助けてくれぇ)」
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