- 斎藤瑞希
- ぱわるりゃあなSEのお姉さん
- 宮本奈津
- ぶっきらぼうな総務の女の子
- 三本柱登
- 瑞希、奈津らの同僚のSE
- 浦島修一
- 瑞希らの上司、ちょっとあやしい人
瑞希の勤める、システム開発会社にて……えんえんと地道なコーディングを続けるむさ苦しいをたくな野郎ども。
そんななか、燦然と輝くロマンスグレーなおじさまが一人……
赤木武彦、営業統括部部長。会社の顔といってしかるべき人である。
落ち着いた物腰、白髪混じりながらも整った上品なヘアスタイル、きりりと着こなしたスーツ、高貴な印象を受ける落ち着いた立ち居振舞い。極めつけ、人を落ち着かせる屈託のない笑顔。
まったくの非のうちどころない……男(ひと)といっていい。
- 瑞希
- 「はぁ、素敵なのに」
- 奈津
- 「ふぅ、神様は残酷だ……」
溜め息をつく女二人……苦い想い出が胸によみがえる。
あれは、まだ会社にはいって間も無い頃。
瑞希の結婚前、お互いに若かったあの日。
- 瑞希
- 「ねぇねぇ、赤木部長ってカッコイイよね」
赤木部長、昔から渋くてカッコイイロマンスグレーな上司だった。
- 奈津
- 「うむ、あれこそナイスミドルといえよう(うんうん)」
- 瑞希
- 「渋いよねぇ〜」
きゃいきゃいとはしゃぐ女二人。そんな様子を見て……
- 三本柱
- 「女の人って、わかんないですね。自分の親ほどの人に向
かって……」
- 工藤
- 「まるで先生にきゃーきゃーはしゃぐ学生みたいですね」
- 浦島
- 「(にやにや) ま、一過性なもんだ。麻疹にかかったと思
うんだな」
- 三本柱
- 「……なんなんですか浦島さん、その笑い」
- 浦島
- 「いやいや、なんでもないさ(にや)」
そして……運命の日のこと。
- 赤木
- 「二人ともお疲れ様」
- 瑞希
- 「あの、部長」
- 奈津
- 「今日はお暇ですか?」
- 赤木
- 「私かい? ああ、暇だよ」
- 瑞希
- 「もし良かったら、飲みに行きませんか」
- 奈津
- 「いいお店知ってるんです」
- 赤木
- 「ああ、いいよ」
にっこりと魅惑の笑みを浮かべる赤木部長。
- 瑞希&奈津
- 「やったぁ!」
手に手を取ってはしゃぐ二人。
- 三本柱
- 「うらやましいなぁ……」
- 浦島
- 「やれやれ……かわいそーに」
- 三本柱
- 「何のことですか?」
- 浦島
- 「知らん方が幸せだ……」
その時の浦島のつぶやきは、はしゃぐ二人には聞こえなかった。
そして……飲み屋にて、にこやかにお猪口をもち、日本酒を口に運ぶ赤木。
- 瑞希
- 「(いいなぁ……)」
- 奈津
- 「(ううむ、様になっている)」
ドキドキわくわくしながら、おしとやかに料理を食べる二人。
- 瑞希
- 「部長、あたし注ぎますよ」
- 赤木
- 「ありがとう。嬉しいね」
- 奈津
- 「(う、ぬけがけしおって)」
- 赤木
- 「いや、会社の連中にやっかまれるね、会社の看板美人二
人と一緒に飲めるなんて」
- 瑞希
- 「そんなぁ、部長(照)」
- 奈津
- 「部長だって人気高いんですよ(照)」
- 赤木
- 「そんな、私なんかとてもとても」
- 瑞希
- 「謙遜しちゃって(くす)」
- 赤木
- 「いやいや、実はね……私には問題があって」
- 奈津
- 「問題ですか?」
- 赤木
- 「実はね、私かつらなんですよ」
- 瑞希&奈津
- 「へ?」
目が点になる二人。手を伸ばし、頭のてっぺんを押さえる赤木。
- 赤木
- 「ほら」
ぺこっ。プラスチック板を鳴らしたような……軽い音がする。甘い夢を地獄へ誘う……悪魔の音が……
そこで見た現実は……
- 瑞希&奈津
- 「い……いっやぁぁぁぁぁぁっ! ぶちょぉぉぉ(絶叫)」
そこには……見事に頭のてっぺんの禿げた……赤木部長……魅惑の……ロマンスグレー……の……あの……ぶちょおが……弁明のしようのない……目の前の現実……
- 赤木
- 「ははは、びっくりしたかい」
言葉も失ってしまった二人を尻目に罪の無い笑顔を向ける赤木部長。つやつやと光るてっぺんはげ……ああ……てっぺんはげ……削ぎとったかのようなてっぺんはげ……
どんなに……渋い物腰も、ダンディに決めたスーツも、涼しげな目元も、虚しく見えてしまう。
すべてをぶち壊すてっぺんはげ……
嗚呼、これほど無残な現実があっただろうか……
- 瑞希
- 「あ……あ……あああ」
- 奈津
- 「そ……そ……そんな……」
そして、飲み終えて……帰り道……瑞希、奈津連れ立って……さっきから吠えまくりの瑞希、放心状態の奈津……
- 瑞希
- 「ああっ! づらだったなんて……づらだったなんてぇっ!」
- 奈津
- 「夢が壊れた……」
元のダンディなイメージとのギャップが大きいだけにショックも半端でない。
- 瑞希
- 「神様ってやろーは」
- 奈津
- 「神様って奴は……」
天は人に二物与えず……
- 瑞希&奈津
- 「いぢわるだぁぁぁぁぁっ!」
二人の絶叫は虚しく夜の街に吸い込まれていった……
そして、翌日。
- 三本柱
- 「瑞希さん、奈っちゃん。昨日部長と飲みに行ったんだっ
て?」
- 瑞希&奈津
- (ぴくっ)
- 浦島
- 「(にやにや) いーなぁ、俺も行きたかったぞ(くくく)」
- 三本柱
- 「ほんと両手に花ですね(何も知らない笑顔)」
無責任に……といっても無理もなかろう……羨ましがる二人。浦島はわかっているみたいだが……
- 瑞希&奈津
- 「そ……そ……それに……触れるなぁぁぁぁっ」
- 三本柱
- 「どどどどうしたんですかっ? 二人ともっ」
- 浦島
- 「(くくく) 無理ないな」
- 瑞希&奈津
- 「笑うなぁぁぁっ(絶叫)」
嗚呼……残酷な現実が支配する。
連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部