エピソード620『豊中vs訪雪・怒涛のゲーム対決』


目次


エピソード620『豊中vs訪雪・怒涛のゲーム対決』

対戦種目選定

松蔭堂の夏の午後。網戸に止まった蝉が暑苦しく鳴く中、茶の間の窓だけが締め切られている。

直紀
「こんにちはぁ! 一さん、ほーせつさん、御隠居さん!」

玄関の扉を勢いよく開けて、ばたばたと廊下を走ってくる直紀。茶の間と廊下を隔てる障子を開けると、涼しい風が……中から、流れ出した。

直紀
「わあ、涼しい……クーラー入れたんですか?」

返事はない。部屋の中央の卓袱台を挟んで、訪雪と、そして豊中が、無言で座っている。

直紀
「あ、豊中さんも来てたんですか。こんにちはぁ」

沈黙。

直紀
「うにゅう……ほーせつさんも豊中さんも、返事もしない で一体どーしたんですか?」

隣の客間で麦茶を啜っていた凍雲が、笑って手招きする。

凍雲
「無駄じゃよ。無駄無駄。二人とも全然聞いてやせん。
それよりこっちへ来て、観戦していってはどうだの」
直紀
「はぁい(ぱたぱたぱた)
あの二人……どうかしたんですか?」
凍雲
「うむ。この間注文しておいたエアコンを、豊中君が取り つけに来てくれたんだがの。
茶を飲みながらだべくるうちに、ゲームの話になって」

卓袱台の中央に置かれた箱を掌で叩いて、訪雪が口を開く。

訪雪
「『ロック』は不可だ。これは五人以下でプレイするもん じゃない」
豊中
「俺もそれは同感です。(畳の上から箱を取り上げて) 個 人的には『孫子』か『マキャベリ』を推しますね」
訪雪
「この儂に戦略ゲームをやれと? だいいち『孫子』こそ、 七人揃わなきゃ何の面白みもないじゃないか」
豊中
「確かにね。じゃあ『タイタン』」
訪雪
「流石にそいつはやったことがないなあ。もっとスタンダー ドなのはないかね」
豊中
「じゃあぐっとポピュラーにして……『大富豪』は?」
訪雪
「トランプ系はローカルルールが多すぎる。よく売ってる やつで『身体衰弱』はどうだ」
豊中
「……野郎二人で、それ系のパーティゲームですか(汗)
それに若大家、あなたが先にへばるのは自明ですよ」

観戦席から。

直紀
「みゅう……何言ってるのか、全然判んないよう」
凍雲
「なんでも二人とも、高校大学と、あの手のゲームを遊び 倒したそうじゃからの。話が濃くなるのも無理ないて」

濃い面々は。

豊中
「若大家、チェスか将棋はおやりになりますか」
訪雪
「生憎と、皆無、だ。ダイヤモンドゲームは」
豊中
「ぬるい。いっそのこと麻雀……」
訪雪
「(客間に目をやって) ……無理だな」
豊中
「……そうですね」

数十分後。二人の手が、ゲームの山の中の小さな箱に同時に伸びる。卓袱台の下で妖しく触れ合う右手と左手(笑)
 慌てて手を引っ込めた豊中に代わって、訪雪がそれを卓の上に置く。

訪雪
「『悪の帝国』か……懐かしいな」
豊中
「しかしこんなもの、よく今まで持ってましたね。まあこ れなら、茶飲みながらさっくり終わるでしょう」
訪雪
「そうだね……しかしもうちょっと面子が欲しいな。先生 に特撮ネタは無理だろうから……どうだね柳さん、君も……」

客間の方を振り返る。直紀は空のコップを持ったまま、座卓に突っ伏して、くうくう寝ていた。

犠牲者ひとり

凍雲
「「観客なら、とっくに飽きて寝とるよ(苦笑)」
訪雪
「おや、もうこんな時間か。んじゃ豊中君、二人でとっと と始めるとするかね」
豊中
「いや、もうちょっと待ちましょう……
(玄関の開く音) ほら、面子がもう一人来ましたよ」

茶の間の障子を開けて、一が入ってくる。

「ただいまぁ、なんか冷たいモン……うおお涼しい。エア コン、着いたんですか」
訪雪
「お帰り、二の舞君。しかし実にいいところに来てくれた もんだ」
「いいところ?(室内を見回して) な……何なんですか、 このゲームの山は」
豊中
「若大家の昔のコレクションだそうだ。俺の所有物も少し は交じっているが……(目の前で箱を振って)
『悪の帝国』だ。お前さんもやらんか?」
「『悪の帝国』ぅ? うわー懐かしー……こんな趣味があっ たんですか、若大家。
しかし……明日締め切りのレポートが(苦悩)」
訪雪
「だぁーいじょうぶさくっと終わるって。れぽうとなんざ 提出日の朝にだって書けるさ(無責任)」

深夜の戦い

訪雪
「うわーっはっはっはこの幼稚園バスは我々が占拠した!  貴様らもせいぜいチンケな悪事を積み重ねるがいいわ!」
豊中
「この親父、ひとが『要人誘拐』だの『ダムに毒』だのと ちまちま点を稼いでいるうちに……ねえ一の旦那、
ハートマークのヒーローカード持ってませんか」
「ハートマーク?(にやり) そうかそういうことか。じゃ あ次は俺の番、『ねえ正義のお嬢さん、あのスケベ親父がひでえことしてますぜ』……
で、『電撃娘』に『ウルトラインカム』(ピンク色のカードを訪雪の前に出す)」
訪雪
「何ぃ……まだそんなものを残してやがったのか」
豊中
「よく言うでしょう、『出る杭は打たれる』と。
でもって俺からも……『必殺技』に『パンチラアクション』っと(訪雪の前に追加)」
訪雪
「この野郎、最強のヒーロー、もといヒロインを送り込ん で来やがったな。しかぁし(カードを出す)『貴様の真の敵は、貴様を育てたあの男なのだ!』
ってことで、最強少女をお返しするよ、二の舞君」
「うあああ……手元に戦闘員がいないときに限って」
豊中
「因果応報、というやつだ。(カードを出す)
でこっちが『殺人アライグマ』で……あと5点、と」
訪雪
「ふふふ……勝ったな(カードを卓に叩きつける)
『悪の歌流行作戦』成功……くくくくくこれで100点、世界の覇者はこの私なのだ!」
豊中
「やけにカード回りがいいですねえ、若大家。で、95点の 俺が準優勝、と」
「だああまた最下位かよ……。
頼む、豊中に若大家、も〜〜〜〜いっぺんだけ、勝負させてくれ!」
訪雪
「おや一君、君は明日提出のレポートがあったんじゃなかっ たっけ」
豊中
「もう『今日』ですよ」
「れぽうと? ンなモン当日の朝に書きゃアいいんだ。さ、 カード切るからこっち寄越して」
訪雪
「なんかこう……余りにもお約束な展開だね(苦笑)」
直紀
「(客間で) ふにゃあ……よく寝たぁ……あれ? ここ松 蔭堂?
(時計を見て) うああああ凄い時間になっちゃった!」



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