- 一十(にのまえ・みつる)
- 吹利学校大学部農学部院生。風水師。
- 岩田教授
- 十の担当教授
- 柳直紀(やぎ・なおき)
- 十と良い仲なOL
- 小滝ユラ(こたき・ゆら)
- 十を実験台にする植物療法師。
- 豊中雅孝(とよなか・まさたか)
- 十の友人。
- 平塚花澄(ひらつか・かすみ)
- 本屋の店員。周囲を春にする異能を持つ。
- 譲羽(ゆずりは)
- 人形に宿る木霊。
とある杉林の中。
- 岩田教授
- 「だめだね、ここの杉は。手入れしてないからなぁ」
- 十
- 「そうですね、風通しも悪いし……」
十の研究室の実習旅行、と言うことになっているが、ほかの人間は演習林の手伝いに刈り出されている。この林にいるのは十と岩田教授のみ。
林に生えた杉はみな、病的に細く、うなだれるように頭を垂れているものもある。無秩序に生えた枝は風に折れいじけてねじ曲がっている。
- 十
- 「手入れさえすりゃいい林になったんでしょうね」
- 岩田教授
- 「手入れをする人間がいなくなる、そのことを見抜けなかっ
た、私たちの責任さ。間伐、除伐をすることが前提なんだ。造林は。三十年かけて失敗か」
- 十
- 「でも、林は林であるだけで役割があるでしょう」
- 岩田教授
- 「金にならなければね、持ち主は困ってるよ」
と、十の足元で朽ちた杉の枝ががさりと鳴った。一匹のマムシだった。大きい。
- 岩田教授
- 「主かな?」
- 十
- 「いいえ、違います」
十はふっとマムシに息を吹きかける。とそれは枯れ枝に変わった。
- 岩田教授
- 「幻?」
ざんと、林が鳴った。
- 十
- 「嫌われてますね。林に」
- 岩田教授
- 「無理もない」
かすかに、十はいじけた杉の怨唆の声を聞いた気がした。
数日後。
からからん。
- 直紀
- 「あれ、一さん久しぶり! どこへって……」
途中で声が止まったのは、鼻を摘んでいるからだ。
- 十
- 「あれ、そんなにひどい? 駅で歯は磨いたんだけどな」
- ユラ
- 「その匂いでここにいるのは商売のじゃまよ、とっとと出
ていきなさい」
- 十
- 「……クリームパンを楽しみに帰ってきたのに」
- 花澄
- 「あら、一さん登山ですか?」
- 十
- 「ええ、ちょっと。大学の用事で。わぁ、押すな豊中」
からからん。
- 花澄
- 「何かあったんですか?」
- 直紀
- 「花澄さん臭いません」
- ユラ
- 「熊みたいな臭いだったわね」
- 花澄
- 「そうかしら?」
- 豊中
- 「もう少しいて下さい。臭い消えるまで」
- 譲羽
- 『花澄ぃ……』
- 花澄
- 「どうしたの? ゆず」
- 譲羽
- 『悲鳴が聞こえたの』
- 花澄
- 「え?」
- 譲羽
- 『あのおにいちゃんから、山の木の悲鳴が……』
松陰堂に向かう道、風の中に十は怨さの声をまた聞いた。木霊がついてきたらしい。舌打ちする。
- 十
- 「しまったな、もしかしたら。ゆずちゃんこわがらせちまっ
たかも」
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