- 小松訪雪(こまつ・ほうせつ)
- 松陰堂の若旦那。
- 本宮和久(もとみや・かずひさ)
- スナフキン愛好会のひとり。苦労人。
- 富良名裕也(ふらな・ゆうや)
- 通称フラナ。スナフキン愛好会のひとり。
- 佐古田真一(さこた・しんいち)
- スナフキン愛好会の会長。ギターで語る。
- 長沢凍雲(ながさわ・とううん)
- 松陰堂の先代。
- 譲羽(ゆずりは)
- 人形に宿る木霊。松陰堂に良く遊びに来る。
- 柳直紀(やぎ・なおき)
- 松陰堂に良く遊びに来るOL。
夏の午後。愛用のママチャリで、吹利の街を飛ばす訪雪。歩道を歩く三つの後ろ姿を見つけて、追い越したところでブレーキをかける。
- SE
- 「ききぃぃぃっ」
- 訪雪
- 「や、こんにちは。本宮君にフラナ君に佐古田君」
- 本宮
- 「こんにちは。訪雪さん」
- フラナ
- 「こんにちはっ!」
- 佐古田
- 「じゃんっ」
- 訪雪
- 「相変わらず元気そうだね、三人とも。ベーカリーへ行く
ところかね?」
- フラナ
- 「ううん、ベーカリーはいま出てきたとこ」
- 本宮
- 「公園でだべってから、ゲーセンでも行こうかと思って」
- 訪雪
- 「ふうむ。この天気だ、しばらく散歩でもするかね?
まあ、ちと暑くはあるが、ジュースくらいは奢ろう」
他愛ない話をしながら、四人で連れ立って、人気の少ない道を歩む。めいめいの手には、冷えた缶がひとつずつ握られている。
- フラナ
- 「訪雪さんって、彼女とかいないんですか?」
- 訪雪
- 「彼女、か……ううむ、難しい話ではあるな」
- 本宮
- 「難しいって、どういうことですか」
- 訪雪
- 「君はまた、そういう突っ込みを。説明できるならとっく
に話しとるわい」
- 佐古田
- 「じゃがじゃん(気になるう〜)」
桜並木の続く、閑静な通りの入口に来たところで、自転車を押していた訪雪がぴたりと足を止める。
- 訪雪
- 「ここは……やめよう(踵を返そうとする)」
- フラナ
- 「訪雪さんどうかしたんですか?」
- 佐古田
- 「じゃじゃん(いい場所なのに)」
- 本宮
- 「別に怪しいところじゃないですよ」
- 訪雪
- 「一見したとこじゃね。でも、駄目だ」
- 佐古田
- 「……?」
こんもりと茂った枝を、敵でも見るような目で睨め据える訪雪。広い額を、ひとすじの汗が流れる。
- 訪雪
- 「あの木には、奴らが、巣食っとる」
- フラナ
- 「奴ら?」
- 本宮
- 「別にそういう気配はしませんが」
- 訪雪
- 「そうか、君たちには判らんか。だが儂には判る。妙に赤
茶けた下の路面、枝葉の間に見え隠れする白い塊……ここの桜には、奴らが……アメリカシロヒトリが、いる」
沈黙。
- 本宮
- 「アメリカシロヒトリって……聞いたことあるけど、何だっ
たっけ」
- フラナ
- 「アメシロのことでしょ? あの白くて、枝んとこにうじゃ
うじゃ固まって網張ってる毛虫」
- 佐古田
- 「じゃんじゃがらん(夏になるといっぱい増える)」
- 本宮
- 「訪雪さん、毛虫……そんなに、嫌いですか」
遠くの桜の枝から、小さく白いものが路面に落ちる。
- 訪雪
- 「嫌いなんてもんじゃない。
六つの歳にチャドクガに全身ぶつぶつにされて以来、連中とは極力遭遇しないようにしとる。
連中を避ける術を探して、辞書を片手に害虫学の原書まで読んだくらいだ」
- フラナ
- 「……なにもそこまで嫌わなくても(汗)」
- 本宮
- 「好きな人でも、そこまで執着できないよな、普通」
- 佐古田
- 「……(毛虫の歌を考えているらしい)」
- 訪雪
- 「……駄目だ。連中のことを考えただけで、全身痒いよう
な気がしてきた。道を変えよう」
- フラナ
- 「じゃあ、こっち(先に立って歩き出す)」
- 訪雪
- 「そこのニシキギにはイラガの繭がついとる」
- 佐古田
- 「じゃんっ(こっちは?)」
- 訪雪
- 「先の角の松、ありゃ去年、マツケムシの大発生で枯れか
けた木だ」
- 三人
- 「じゃあ……どっちへ行けっていうんですか!」
三人と別れて、松蔭堂へ戻ったあと。
- 凍雲
- 「お帰り、訪雪。譲羽ちゃんが遊びに来ておるぞ」
- 訪雪
- 「はいはい。私の部屋ですね?」
障子を開けると、木霊は広くもない部屋を全速で横切って駆けてきた。
- 訪雪
- 「ただいま、ゆずさん。待たせてすまんね」
- 譲羽
- 「ぢいぢぃっ(ゆず、いいものみつけたの)!」
- 訪雪
- 「その顔、何か報告のある顔だね。見せてごらん」
譲羽は元気よく頷いて、後に回していた手を訪雪のほうに突き出す。
- 譲羽
- 「ぢいっ(ほら、これ)!」
次の瞬間。
- 訪雪
- 「う……ぐぎゃああああああああっ!」
木綿を引き裂くような茶色い悲鳴が、松蔭堂に響きわたった。
そして。
ばたばたばた。
- 直紀
- 「こんにちわぁっ! ほーせつさん、ゆずちゃん遊びに来
てますかぁ?
(ばたばた、がらっ) あれ……寝てるのかな。(つんつん) 起きないや。どうしたんだろ……」
顔の上に乗っているものに気付く。
- 直紀
- 「わぁ、しゃくとりむし。ゆずちゃん見つけたの?」
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