ある晴れた昼下がり、猫が一匹河原を歩いていた。
昼休みはたいていベーカリーにてパンを購入する時間なのだが、今日はいくらまっても来ないので探していたのだ。
で、もはやこの河原以外に探す場所はないのである。
河原のすぐそばの丈の低い草が密生している所に一人の人間が寝転んでいる。
予想通り大河だった。手を枕にし目を閉じている。
テトテトと近寄ると……。
大きなあくびをする、小学生の頃担任に「馬みたいな大あくびだね」と言われた奴だ。実際あごが小さく「かくっ」と鳴る事もある。
萌はしばらく青く澄んだ空と大川を交互に見ていたが、
と鳴き、首につけた鈴を鳴らして人間に変身し大河の真似をして横になった。
その鈴は大河が作った物で合い言葉とともに鳴らすと三秒間持ち主に向けられた視線を逸らすという物だ。
そよ風が吹き、草がそよぐ、暖かな陽の日差し、川のせせらぎ、大地の静けさ……。そんな「世界」を感じながら萌はとても安らいだ気分になっていた。
がさ。がさがさがさがさ。草をかき分ける音が近づいてくる。
起き上がろうとした萌の上に、ぬっ、と人のかたちの影が差す。
濃い灰褐色の和服を着て、長い髪を首筋で束ねた中年男。顔の縁に伸ばし放題にした髭が、なんとも暑苦しい。
そのまま、大河と萌の脇にしゃがみこんで、二人の顔をまじまじと見比べる。
あからさまに不審そうな眼差し。くつろいでいるところを知らないおやぢに乱入されたのだから、無理も無い。
視線が気にはなるが、害はなさそうなので、男のことは放っておいて、萌はまた元のようにごろりと寝転ぶ。
男は萌の視線を追って、ひとり納得したように頷くと、一人と一匹の脇に腰を下ろして、同じように空を見上げはじめた。
そして……一刻、草を踏む音が聞こえてくる。
草陰から見える、目深にかぶった帽子、草色の上着。ギターをしょって、釣竿を手にした金髪の少年。
草をかき分けて現れたのは、佐古田。二人と一匹の姿を見据えると、萌に笑顔を向け、訪雪に軽く会釈をし、大河の顔を一瞥する。
普段は無愛想で無表情な佐古田が、萌に笑いかけている。
釣竿をおろし、草の上に腰を下ろす。
ギターを置き、寝転がる。
ごろん……と、大河、佐古田にならって河原の草原に転がる。
萌もまた、元の場所に寝転がる。
空の青を網膜に灼きつけて、目を閉じる。瞼の血管の透けた赤の、そのまた向こうに、空の青がある……
周囲の草をさわさわと揺すって流れる、風の音。その風が、すこし澱んだ水の匂いを運んでくる。
どうやら一人ばかり、本格的に寝入ってしまった人間がいるらしい。上半身を起こして見回してみたが、萌の目には誰が寝ているのか、まるで区別がつかなかった。
そして更にまた一人。
つられて見上げる。
しばらく、やれ鯨に似ている、やれおいしそうなパンに見えるだの、雲の形を楽しんでいた。