エピソード628『銭湯でポン!』


目次


エピソード628『銭湯でポン!』

登場人物

一十(にのまえ・みつる)
風水師で修験者な大学生
小松訪雪(こまつ・ほうせつ)
骨董屋松陰堂の若主人
長沢凍雲(ながさわ・とううん)
松陰堂の元主人。隠居している。
キノエ
ミツルの式神。
キノト
ミツルの式神。キノエの弟
如月尊(きさらぎ・みこと)
花屋の店長。
柳直紀(やぎ・なおき)
操水術士のOL。
湊川かなみ(みなとがわ・−)
直紀の隣の部屋に住む小学生。
湊川観楠(みなとがわ・かなみ)
かなみの父。ベーカリー楠店長。
能義茜(のぎ・あかね)
テレポーター
豊中雅孝(とよなか・まさたか)
茜のいとこ。接触テレパス。

風呂がない……

松蔭堂、午後6時。

SE
「ばたんっ」

勝手口の木戸が勢いよく鳴って、外廊下の入り口から十が駆け込んでくる。

「うぃっすぅ、今帰りやしたぁ。若大家、風呂、先に頂き ますよ汗でぐっしょりだ」

訪雪の返事も聞かずに、脱衣所に飛び込む十。ばさりばさりと服を脱ぎ捨てる音が聞こえてくる。

SE
「がらり」 「ばしゃぁああああっ!」(掛け湯の音)
「うひょえわああああっ!?」

奇声を上げて、弾かれたように飛び出す。浴槽の中身は冷水だった。

「……南無金剛、六根清浄。じゃなーいっ! なんでこん な時に水垢離しなきゃならないんだぁっ!」

縁側から中庭に出ていた訪雪が、その声でひょい、と廊下に顔を出す。

訪雪
「何をやっとるのかね一君。全く気の早い……沸いとると はひとことも言っとらんだろうが」
「(足を拭きながら) ああ、びっくりした。いつもはこの 時間には沸いてるじゃないですか」
訪雪
「まあね。でも今日は、何時になっても沸きゃせんよ」
「へ?」

脱いだばかりのジーンズをまた穿きながら、十は縁側を覗き込む。

訪雪
「この通りだ。釜が使い物にならん」
「なんだか……えらいことがあったようですね」

風呂場の外壁についているはずの釜は、跡形も無く消し飛んで、周囲の植木や手水鉢、そして壁が、真っ黒に焼けこげていた。

「一体何があったんですか」
訪雪
「うむ。釜が爆発した」
「表通りで妙な音を聞いたと思ったが、これだったのか…… どうやったら風呂釜が爆発するんですか」
訪雪
「別に爆発させたくてやったわけじゃない。
さっき風呂を焚こうとして、客間のごみ箱の紙くずを放り込んで、マッチで火をつけたら、こうなった」
「紙くずに何か混ざってませんでしたか」
訪雪
「いいや、別に……ああ、そういや午前中、小滝さんが茶 を飲みにいらして、ついでにバッグの中のゴミを捨てていかれたな」
「……それですよ。多分。あれの捨てたもんだ、たとえ紙 屑でも、なにがついてるかわかったもんじゃない」
訪雪
「ふうむ、そういうもんかね……とにかく、直るまでは内 風呂は使えそうにないね。儂は見ての通り煤だらけだし、君もその汗じゃ気持ち悪かろうし、今日はいまから銭湯へ行こうか」
「はぁ……そうですね」

しばらく後。桶を抱えた訪雪と十、そして凍雲が、吹利本町の大通りを歩いている。銭湯へ向かう道すがら、十が抱えた桶の中から、二匹のオコジョが顔を出す。

「やけに桶の中身が多いと思ったら……(ごそごそ) 手回 しよく服まで持ってきたのか。部屋でおとなしく留守番してろと言ったはずだぞ」
キノエ
『ミツルだけ大きいお風呂、ずるーい』
キノト
『普通の小さいお風呂にだって、時々入れてくれるの忘れ るのに』
凍雲
「何を言っておるのかね? 一君」
「いや……こいつらも銭湯に入りたいと」
訪雪
「人間形態なら問題ないんじゃないか」
「しかしなあ……二人分の入湯料と、あと牛乳を飲む分ま で合わせたら、一体何食食えるやら(嘆息)」
キノエ
『ちょっとミツル、あたしたちのお風呂と食費、どっちが 大事なわけ?』
「食費(どきっぱり)」
訪雪
「万年欠食成人の言うことだ、おおかたそんなこったろう と思ったよ。まあいい、今日の分は、全員分儂が出そう」

胸を張ってそう言った訪雪が、懐をぽん、と叩いてみせて……顔色を変える。

「どうかしましたか、若大家」
訪雪
「いや、どうやら財布を忘れて来ちまったらしい。先生。 済みませんが、うちに帰るまで立て替えといて頂けますか」
キノエ
『大家さんかっこ悪ぅい』
凍雲
「ふうむ……銭湯に行くのも久しぶりだの」
「俺はずっと通ってましたよ。研究室に住んでた頃」
訪雪
「だろうね(苦笑) 儂はいまでも、散歩の帰りに寄って汗 を流すことがあるよ」
「そりゃ知らなかったな。この辺にもあるんですか」
訪雪
「うむ。『宙廼湯』といってな。このすぐ近くだ」
凍雲
「なんじゃ、あの風呂屋、まだ潰れとらんかったのか」
訪雪
「そういう言い方はないでしょう。ほら、あそこだ」

ビルの間に、高い煙突が見え隠れしている。黒ずんだコンクリートの表面に、『宙廼湯』という字が辛うじて読み取れた。FLOWER SHOP Miko屋上の温室---------------------------
 FLOWER SHOP Mikoの屋上。ベランダとさほど大きくは無いが温室がある。温室の中には色取り取りの熱帯の花々が咲き乱れ強い芳香を放っている。
 と、温室のドアが開いた。

「あ……暑い……(ふらふら)」

よろよろと出てきてベランダの日陰にぺたんと座り込む。夏場の温室に入っていればそりゃー暑いだろう。額からは玉のような汗が伝い落ち、結い上げた髪の後毛が汗で張り付く。Tシャツに至ってはぺったり張り付いて透ける位である。

「やだ……気持ち悪い……お風呂……はいろ」

ふらふらと二階の部屋に戻り、風呂ガマのスイッチを入れる。

「んと、御風呂沸くまでまだ時間あるわね……ふぁ……
欠伸) ちょっと……一休み……(こて)」

疲れていたのか、リビングのテーブルでこてんと寝てしまう尊。当然。
 数十分後。

SE
 ごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽ……。
「んー(寝ぼけ)……なに? ……(こて) ……すぅ(二度寝)」
SE
 ごぽごぽ……しゅぅぅぅぅぅ(風呂ガマ空炊き開始)

当たりに漂う焦げ臭い匂い。

「すぅ……(熟睡中)」
SE
しゅぅぅぅぅ(風呂ガマ加熱中)
「ん? (目が覚めた)……(約5分間このまま)……焦げ臭 い……」

ゆっくりと辺りを見回す。浴室の方から漂う白い煙。

「……なんか……燃えてる?(寝ぼけ) ……あぁっ!?(汗)」

慌てて飛び込んでスイッチを切るが、時、既に遅し。完膚なきまでに焼き付いた風呂ガマ。どう見ても『再帰不能』である。

「あっちゃー……やっちゃった(苦笑) しょうがない(吐息) たまには銭湯でも行こ」

営業のあとで

吹利本町の大通り。スーツ姿の女を半ば引きずるように、営業マンらしきスーツの男が歩いている。

直紀
「あうー、汗だくー(ぜいぜい)」
上司
「……柳、どーでもいいが。その覇気のない声で営業する のはやめろ(汗)」
直紀
「だってー、年始回りじゃあるまいし、30件も回ること無 いじゃないですか(汗) あたし営業の人間じゃないのにぃ」
上司
「仕方ないだろ、担当が急に腹を下したんだから。それに ウチで暇なの自分だけだし」
直紀
「くっそぉ! 篠軒(しののぎ)っ、あとで覚えてろぉぉぉ!!」
上司
「……往来で吼えるのはやめろとゆーに! あ、俺ここか ら用あるからおつかれさん」
直紀
「はぁーい、お疲れさまです上司(うえつか)さんーーー(ぜ いぜい)
うう、これからどーしよっかなぁ。家帰って、風呂わかして……めんどいなぁ」

上司と別れ、ぷらぷらと通りを歩いていると、視界に見慣れた姿をみつける。

直紀
「あ、尊おねーさんだっ!」
「あら、直ちゃん(にこ) こんにちは、スーツなんか着て 仕事の帰り?」
直紀
「うん、尊おねーさんはどこ行くの?」
「え? あたし? 実は……うっかり御風呂壊しちゃっ て……銭湯でも行こうと思って(苦笑)」
直紀
「お風呂屋さん? いいな、あたしもいくっ!」
「いいけど……でも直ちゃん、着替えとかは?」
直紀
「あたしの部屋、この近くなの。ね、着替えと『おふろ セット』取ってくから尊おねーさん一緒に銭湯入ろうっ
おねがいっミ☆)」
「はいはい(くすくす) じゃ、直ちゃんの部屋回って行 きましょうか(笑顔)」
直紀
「うん! こっちこっちー」

てててっとマンションの階段を上りつつ手招きする。かちゃかちゃと鍵を開けてると、隣のドアが開く。

かなみ
「あ、直紀ねえさま。おかえりっ! 尊ねえさま、こんに ちはっ」
「こんにちは、かなみちゃん(にっこり)」
直紀
「かなみちゃん、ただいまー。観楠さんはーまだお仕事だ ね(笑)」
かなみ
「うん、今から父様のところにいくのっ! 直紀ねえさま、 尊ねえさまとお出かけ?」
直紀
「そ、一緒に銭湯にいくの」
かなみ
「いいなぁ」
「よかったら、かなみちゃんも一緒に来る?」
直紀
「人数多い方が楽しいもんね(にこっ) 後でベーカリーよっ てけば、おっけーじゃないかな?」
かなみ
「わぁい! かなみ、ねえさま達とお風呂はいるっ!」
「そういえば一緒に海に行ったとき以来よねえ、大きいお 風呂って」
直紀
「かなみちゃん、背中流しっこしよーねー」
「直ちゃんたら(笑)」
直紀
「ふふっ、尊さんも洗ったげますからねっ(笑) さぁて、 じゃ荷物取ってきちゃお」

かちゃり、と部屋が開く。ふわっと甘いようなせっけんに似た香りがする。

「これが直紀さんの部屋かぁ」
直紀
「どーかした? 尊おねーさん」
「ちょっと、変わった感じの部屋だなーって思って」
直紀
「そお?」

22畳ほどのワンルームの窓際に、4畳の畳がフローリングに直にしいてある。障子のスクリーンとい草色の木製のブラインド、蝦夷松で出来たシステムユニットといった和風な家具の中に、なぜか原色のラブソファとガラスのセンターテーブル、窓際の籐をあしらったシェルフには、薄いオーガンジーが掛かっている。

直紀
「おっまたせ! かなみちゃんも、準備いい?」
かなみ
「うんっ!」
「じゃ、ベーカリーに寄っていきましょうか」

ベーカリーにて

観楠
「あっつー……(汗) 早く帰ってシャワー浴びてさっぱり したいなぁ(汗)」

からんからんっ

かなみ
「父様っ!」
観楠
「あれ、かなみちゃん。どうしたの?」
かなみ
「あのね、直紀ねえさまと尊ねえさまといっしょにおふろ いきたいの。いってもいい?」
観楠
「御風呂、ねぇ?」
かなみ
「おっきいおふろなの!」
観楠
「あ、銭湯のことね(笑)うん、いっといで(笑)」
直紀
「観楠さん、こんちわっ」
観楠
「や、どーも直紀さん。お世話かけますね(苦笑)」
直紀
「いえいえどーいたしまして(笑)」
観楠
「あ、これかなみちゃんの入浴代と、牛乳代です」
直紀
「牛乳ですか?」
観楠
「ほら、こないだみんなで瑞希さんとこの温泉行ったじゃ ないですか。その時にですね……まぁいいや。わかると思います(苦笑)」
直紀
「はぁ」
かなみ
「ねえさま、はやくいこっ!」
観楠
「んじゃ、すみませんが宜しくお願いします。かなみちゃ ん、気をつけてね」

道すがら、お風呂セットを詰め込んだウサギさんリュックを背負い、直紀、尊に挟まれ、手を繋いで上機嫌で歩くかなみ。

かなみ
「直ねえさま、みこねえさま、かなみが背中ながしてあげ るねっ(にこ)」
「(くす) お願いするわね、かなみちゃん(笑顔)」
直紀
「じゃぁ三人で流しっこしよう(笑)」

3人が年の離れた姉妹にでも見えるのか、すれ違った老夫婦が微笑ましげに見送る。

かなみ
「直ねえさま、お風呂屋さんのえんとつ見えたよっ早く早 くっ(笑顔)」
「かなみちゃん、走らなくてもお風呂屋さんは何処にも行 かないわよ(笑)」

かなみに引っ張られるようにして風呂屋までたどり着く。

豊中のアパートにて

茜がドアを開ける音で、畳に伸びていた豊中が顔を上げる。

「ただいまぁ」
豊中
「……それを言うならさっさと帰れよ(苦笑)」
「えーっ、今日はもうジャンプできないよ。泊めてね」
豊中
「お前なあ(呆)。で、湯はどうだった? 銭湯は面白かったか」
「うん。壁のタイルがね、宇宙の絵だったよ」
豊中
「また珍しい絵だな」

ちらっと自分の本棚に目を走らせる豊中。文庫本専用の棚の一つには、早川文庫SFがずらっと並んでいた。ちなみに、その下の棚にはペリー・ローダンシリーズが全巻。そのさらに下には、外国人作家の書いた推理小説が。

「ただね、そこにどいういわけか巨大な銀色のマヨネーズ 入れが描いてあったんだよね」
豊中
「マヨネーズ入れ……(苦笑)」
「にしてはちょっとまるまっちい感じだったけど。こんな 感じかなあ」

そこらに散らかっていた紙とペンをとり、お絵描きをする茜。は、いいのだが、描きあがったのはちっとも涙滴型宇宙船に見えない絵。

「なんでマヨネーズ入れなんだろうね」
豊中
「涙滴型宇宙船と呼べ。こんな感じじゃなかったか?」

茜の描いた絵に描き足す豊中。

「うーん……同じような違うような……」
豊中
「描いてみろよ」
「うーん、と……あ、描く必要なんかないじゃん」

がしっと豊中の手を握り、見てきたタイル絵を思い出す茜。たしかに、涙滴型宇宙船である。が。それと一緒に視界に入っているのは……

『そーいえば、花屋の尊おねーさんも一緒だったんだっけ。 おねーさんのプロポーション、良かったなあ(憧)』

余分な事を思い出す茜。慌てて手をもぎ放す豊中。

豊中
「俺は他人様の彼女の裸を見る趣味はない!!」

赤面して言っても、あまり説得力はないぞ(笑)

解説

みんなノって書き進めた、典型的なコメディ系エピソード。
 直紀のことばづかいがいつもよりも幼くなってますけど、疲れてるせいですかね。尊と直紀は同学年のはずなんですが……。
 ……しかし、これって未完だったのか。



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