エピソード631『死者の眠る場所』


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エピソード631『死者の眠る場所』

登場人物

三河夏和流(みかわ・かわる)
高校生。
湊川観楠(みなとがわ・かなみ)
ベーカリー楠店長。

本編

夏和流
「こんにちは、店長さん」
観楠
「いらっしゃい(笑)」
夏和流
「……ふう……なんだか、四日ぶりくらいのはずなのに、 ずいぶんと懐かしいです」
観楠
「そういえばちょっと見かけなかったけど、旅行でも行っ てたの?」
夏和流
「……お盆、でしたから(微笑)」
観楠
「じゃあ、田舎に?」
夏和流
「東京なんですけれどね。お墓に行ってきたんですよ。二 泊三日で」
観楠
「へえ、東京かぁ(笑) どうだった?」
夏和流
「……色々と、よかったです……」
観楠
「やけに、しみじみしてるねぇ(苦笑)」
夏和流
「……ねぇ、店長さん。お墓って、何であるんだと思いま す?」
観楠
「え? ……と」
夏和流
「色々考えたんですよ。
今回ね、お墓に遅く出かけて……五時頃かな、全然誰もいないんですよ。……これが、いつものお墓なんだな、って思って。……人間って、死んじゃえばただの物になるじゃないですか。なのに、お墓作ったり。でも、たった一年に数回しか来なくって。
それに、先祖が生きていたって言われても、ピンときませんし。あんまりお爺ちゃんやお婆ちゃんと仲が良かったわけでもないですからね。あんまりわからなかったんですよ、今まで。
……でも、飼い犬が死んで……わかった気がするんです」
観楠
「お墓のあるわけが?」
夏和流
「(うなずく) お墓って……その人の事をずっと忘れない ためにあるのかなぁって……そう思ったんです。
いつまでも、いつまでも忘れないように……」
観楠
「……よかったね」
夏和流
「……はい」

解説

実話系エピソード……だと思います。
 酒場のマスターじゃないけど、ベーカリー楠の店長は、こうした打ち上げ話、内面を吐露する相手として多用されていますね。いつもの仲間と囲まれている時とは違う話題、違う態度。こうした一対一での語りは、人物の掘り下げのための手法としてけっこう使用されています。



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