もう……昔のこと。四年前の十一月半ば過ぎ。20になった冬の日のこと。
……夕暮れがもう薄闇に消えかけてる。どことなく……ふてくされた顔でぶらぶらと一人歩く瑞希。
思わず悪態をついてしまう。悪態をつきながらも……どうしても思い描いてしまう……男の顔。
別れた男。もう何度もくっついて別れてを繰り返してる男。今回で二度目の別れ……それでもあきらめられない男。
ぶちぶちと……つぶやきながら歩いている瑞希。そこへ……
ヴォォォォォン。鋭いエンジン音を響かせ、バイクが走ってくる。
思いっきり顔をしかめて、そっぽむく瑞希。
バイクはうなりをあげながら瑞希の手前で止まり。のっていた男がヘルメットを取る。短い黒髪に端整な顔立ち、不自然に青い双眸の男。
それは昔からの知り合いで、二つ年下の後輩、本宮友久だった。
気安く声を掛けてくる、年下だが遠慮が無い。顔立ちで見ると、どちらかというと瑞希より年上のようにさえ見える。
バイクを誉められ、嬉しそうに笑う友久。笑うと結構子供っぽい顔になる。
かっ飛ばしたい……何もかも……あいつこと……
がきんちょのごとくお願いっ! する瑞希。肩を竦め、あきらめたように笑う友久。
がさがさと予備のメットを瑞希に放る。
メットをかぶり、ひょいとバイクの後ろにまたがる。
ヴォォ……ン。うなりをあげて走るバイク。風を切って……景色をすり抜けて……疾走する。
めまぐるしく通り過ぎていく景色。まるで景色だけが動いていて……自分だけが止まっているような錯覚をうける。
感じるのは……体を切り裂くような冷たい風と、しっかりと腕を回した背中の温もりだけ。しがみつく腕に力を込めて……目を閉じる。
頭の中が真っ白になる、まるで自分がただの点になったような……そんな感覚。叩き付ける風さえ、寒さのあまり感じなくなってしまう、暖かい背中も……いつしかその感覚を見失ってしまう……
そこだけ、すべての世界から切り離されている……そんな感覚。このまま……点になってしまうのも、悪くないような気がした。
しかし……徐々にバイクはスピードを落とし、止まる。
名前も知らない、どこかの小さな公園。丘の上、柵の向こうに……薄闇がかかりはじめた街が見える。
バイクから降り、寒さで冷え切った頬を両手でこする瑞希。
ぽん……と、近くの自販で買ったホット紅茶を放る友久。
ベンチに座り、缶を頬にあてる……熱さが頬に伝わってくる。同じく缶コーヒー片手に友久が隣に座る。
少し遠慮がちに話し掛けてくる友久。理由はとうにわかってるんだろう。
そのまま、口を閉ざす友久。心持ち友久によっかかりながら……やっぱり無言の瑞希。しばらく……そのまま無言の時間が続く。
冷たい風が木々をざわめかせながら、瑞希の長い髪を揺らし、吹き抜けていく。寄り添って座っている友久の頬がほのかに赤いのは……どうやら寒さだけのせいでもなさそうだ……
友久のセリフにきょとんとした顔になる瑞希。
指摘されてはじめて、自分のセリフの意味の深さに気がつく瑞希。
瑞希のぬけまくった答えにあやうくこけそうになる友久。
心底疲れきった顔になる友久。
可愛いの発言に一気に腰砕けになる友久。
ぴょんとベンチから飛び上がる瑞希。
くるっと振り向き……くす……っと笑う瑞希。いつものチャシャ猫笑い。
編集しているのが1998年1月22日だったりしますので、とりあえず25歳おめでとう、と言っときます。瑞希の誕生日は21日なので。登場人物では旧姓の富良名にしておりますが、現在は結婚しており斎藤瑞希となっております。
で、この話は典型的な過去の話……人物の過去の一シーンを描くことで、今のその人の生きざまを浮き彫りにするというか、深めるための話だと思います。狭間では基本的に現実と同期させて話を進めていますが、このように過去の話題を振り返って書くというのも、良いものですね。
本宮友久のほうですが……。06で本宮といえばスナフキン愛好会の苦労人、和久(かずひさ)君となるのですが、その兄です。1997年時点では死亡したことになっております。……が、狭間14『霞ヶ池の影』にて活躍しております。これもクロスオーバーと言えば言えるのでしょうかね。