午前十時、松蔭堂。
- SE
- ととととと……
- 訪雪
- 「はい、ゆずさんだね」
- 譲羽
- 「ぢい」
ぺこり、と、木霊は頭を下げた。
- 訪雪
- 「でも、今日はどうしたの、玄関から」
- 譲羽
- 「ぢいぢい(あのね、これ、持って来たの)」
手に持った平たい箱を、木霊はぶんぶん、と上下に振った
- 訪雪
- 「これは?」
- 譲羽
- 「ぢい……(ええと……)」
もうそろそろ電話が必要らしい。
- 訪雪
- 「じゃこっちおいで」
- 譲羽
- 「ぢい……ぢ!」
よいしょ、と玄関を登った木霊は、そこで方向転換した。
- 一
- 「あれ、ゆずちゃんか……あ?」
ズボンの裾の辺りを、譲羽がしっか、と握り締めている。
- 譲羽
- 「ぢい(キノエちゃんとキノト君は?)」
- 一
- 「若大家さん、なんて言ってるんです?」
- 訪雪
- 「儂じゃわからんよ」
- 譲羽
- 「ぢい(キノエちゃん、いる?)」
呼び声に答えて、キノエとキノトがするり、と現れた。
- キノエ
- 「キイ(なに?)」
- 譲羽
- 「ぢい(持って来たの)」
- キノエ
- 「?」
- 譲羽
- 『あのね、花澄がね、持っていっていいって言ったの』
- キノエ
- 『で、何を』
返事の代わりに譲羽は、箱の蓋をよいしょ、と持ち上げた。
- キノト
- 『わ』
- キノエ
- 『リボン?』
くるくるとまとめられたリボンが、箱一杯に入っている。
- 譲羽
- 『あのね、お礼なの。この前ゆず、落ちなかったから』
どうやらこの前のお茶会のことを言っているらしい。
- キノエ
- 『お礼って……別にいいのに』
- 譲羽
- 『でもね、花澄が、それはいいことですって。で、一番い
いのゆずが選んであげてって』
キノエとキノトは顔を見合わせた。譲羽の方はもうすっかりリボンの方に集中してしまっている。
箱の中のリボンは、あっという間に廊下一面に散らばった。
- 譲羽
- 『キノエちゃんは赤なの。でも、赤じゃなくて……これは?』
細い、少し黒の混ざったような落ち着いた色合いのリボン。
- キノエ
- 『ええっと』
- 譲羽
- 『キノト君は風なの。だからこれ』
透き通るような、淡い青色のリボン。
- キノト
- 『あのねゆずちゃん、僕らは人になるでしょう? だから』
- 譲羽
- 『人もリボンつけるよ。ゆずもつけるよ』
確かに譲羽のおかっぱの一房に、細い紅のリボンが結んである。
- 譲羽
- 『花澄がね、つけてくれたの。それでゆず嬉しかったから
キノエちゃんとキノト君にあげるって言ったの』
ここまで言われては、断れまい。
- キノエ
- 『それは……ありがとう』
- 譲羽
- 『つけたげるね』
かちかち、と小さな音を立てる腕をオコジョの首の周りに廻す。存外器用に、譲羽はリボンを結んだ。
濃い紅の細いリボンはキノエに。淡い青のふんわりしたリボンはキノトに。
- 譲羽
- 「ぢい(得意)」
- 訪雪
- 「……何か判らんが、その為に来たのかね、ゆずさんは?」
- 譲羽
- 「ぢい(こっくり)」
- 一
- 「……(何だったんだろう)」
視線の先で、二匹のオコジョは、少し照れたように首を傾げた。
シーン的にはエピソード605『和菓子』の直接の続編となりますか。組み込んじゃっても良かったのかな?
譲羽の、なんというか幼い少女らしさみたいなものが出ている話ではないかと思います。
連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部