- 本宮和久
- もとみーこと不幸をしょってたつ男、本宮家の末っ子
- 本宮麻須美
- 本宮の母、良妻賢母だが少女趣味なのが玉に傷
- 本宮久弥
- 本宮の父、おおらかな父
- 本宮史久
- 本宮家の長男、のほほんとしたのんびりお兄さん
- 本宮友久
- 本宮家の次男、四年前に死んだことになっている
- 本宮幸久
- 本宮家の三男、どちらかというと元気で軟派なお兄さん
土曜日の午後、本宮家。
父も長兄も週休二日で仕事は休み、次兄(幸久)も本宮本人も授業は午前中で終り。家族一同水入らずの時を過ごしていた。そのなかで、なぜかひときわ機嫌のいい母。両手に袋を抱え嬉しそうに家族を呼ぶ。
- 麻須美
- 「ねーえ、父さん、史ちゃん、幸ちゃん、和ちゃん!」
- 久弥
- 「なんだい母さん」
- 史久
- 「機嫌いいねぇ」
- 幸久
- 「なんだ、突然」
- 本宮
- 「嬉しそうだね」
母の呼びかけに、わらわらわらと集まってくる父と兄弟たち。
- 麻須美
- 「あのね、今日バーゲンでとぉってもいいお買い物したの
よ」
- 幸久
- 「いい買い物?」
- 本宮
- 「何買ってきたの」
- 麻須美
- 「ふふ、これっ」
ばばばっと、母が家族一同の目の前に広げたものは……
- 本宮
- 「こっ」
- 幸久
- 「こっ」
- 史久
- 「これは……」
赤、青、黄、緑、ピンクの色違いでお揃いのねこちゃんプリントパジャマ。可愛らしいパステルカラーの生地、大きく描かれたねこちゃんがぷりてぃ。
- 久弥
- 「ほぉ(感心) よくまあこれだけ」
- 史久
- 「これまた戦隊物仕様な」
- 幸久
- 「まっ……まさか」
- 本宮
- 「……母さん……ひょっとして……」
そう、そのひょっとして……
- 麻須美
- 「家族全員お揃いなのよ、好きなの選んでね」
にっこりと屈託なく笑う母。
- 幸久
- 「いっ(ひくひく)」
- 本宮
- 「いっ(ぴきぴき)」
- 二人
- 「いやだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
思わず絶叫の次兄と本宮。しかし……叫びは虚しく響くだけ……本宮家において母の権威は絶対である。
- 史久
- 「はぁ(嘆息) また始まったねぇ……父さん」
- 久弥
- 「まぁ……可愛らしくて……いいじゃないか」
諦め顔の長兄と父。さすが年季が違う……あったからどうという話でもないが。こうして……兄弟の叫びも虚しく、お揃いパジャマは決定になった。
そして、テーブルの上。所せましと色とりどりのパジャマが広げられる。
- 麻須美
- 「やっぱり、私がピンクね」
- 幸久
- 「主人公はレッドだよな、燃える熱血野郎で決まりだな」
- 史久
- 「うーん、イエローはカレー好きのでないといかんしなぁ」
- 本宮
- 「ブルーはクールで冷静な奴だったな」
- 久弥
- 「グリーンか……一番影が薄い……」
- 幸久
- 「たまにグリーンの代りにブラックの時もあるよな」
- 史久
- 「いやいや、ブラックはジョーでなければいけない」
- 本宮
- 「史兄……ジョーって誰だよ(汗)」
- 幸久
- 「でも、最近はイエローに女が増えてるよな」
- 史久
- 「いかんぞ、イエローはカレー好きの三枚目でないと」
なんだかんだいいつつ真面目に選んでる一同。お人好しの本宮家たる所以か。
- 本宮
- 「あれ? これ……」
本宮が手にした袋……並べられたものとは別に置かれた紙袋、ビニールに入ったパジャマ一組。グレー地に黒のねこちゃんパジャマ……
- 本宮
- 「母さん、これは?」
- 麻須美
- 「あ……ああ、これはいいの」
- 本宮
- 「そう……」
微妙に表情を変えて紙袋をしまう母。その間……
- 久弥
- 「なかなかいいな。全員着てポーズとってみるか?」
- 幸久
- 「父さぁんっ!」
- 史久
- 「家族戦隊ねこプリダー(笑)」
- 本宮
- 「史兄貴まで……」
意外とノッてる父と長兄……結構好きなのかもしれない。
- 史久
- 「ねこプリレッドにねこプリブルーに……ねこプリイエロー」
- 久弥
- 「ねこプリグリーンとねこプリピンク」
- 本宮
- 「好きなのか……二人とも」
- 史久
- 「赤、青、黄でねこバルカンもできるなぁ」
- 幸久
- 「史兄……すっごく楽しそうだぞ」
- 麻須美
- 「ふふふ、よかったみんな気に入ってくれて」
にこにこと嬉しそうに笑う母。のってる長兄と父、諦め顔の次兄と本宮。こうして本宮家の夜は暮れていった。
そして……翌日、日曜日の昼過ぎ。
- 本宮
- 「幸兄貴、母さんは?」
- 幸久
- 「さあ、さっきどこか出かけたみたいだぞ」
- 史久
- 「買い物じゃないか?」
- 本宮
- 「(母さん……まさか)」
思い当たる節はある。ばたばたと玄関へ向かう。
- 本宮
- 「史兄貴。俺、ちょっと出かけてくる」
- 史久
- 「雨降りそうだぞ。傘持ってけよ」
- 本宮
- 「うん」
傘を二本抱え、走り出す本宮。
その頃、吹利の墓地にて。墓石の前に、佇む女……本宮の母。本宮家代々の墓……墓前に花を手向け、祈っている。
- 麻須美
- 「友久……」
傍らに置いていた袋を開ける、中からでてきたのは……
- 麻須美
- 「買っちゃった……あなたの分も」
ビニール袋に入った……グレー地に黒のねこちゃんプリントパジャマ。
- 麻須美
- 「馬鹿ね、もう……あなたがこれを着ることはないのに。
でも……ね、黒は友ちゃんに着て欲しかったのよ」
そっとビニールに入ったパジャマを墓前に置き、手を合わせる。
- 麻須美
- 「もう……四年も経つのにね……」
空を見上げる……今にも雨が降りだしそうな空。
- 本宮
- 「母さん!」
両手に傘を持った本宮がかけてくる。
- 本宮
- 「やっぱりここか」
- 麻須美
- 「和ちゃん……来てたのね」
- 本宮
- 「雨、降りそうだったから……」
湿気を含んだ前髪を払い、傘を手渡す。
- 麻須美
- 「そうね」
- 本宮
- 「そのパジャマ……やっぱり友兄貴の」
- 麻須美
- 「やっぱり、家族で……お揃いだから」
- 本宮
- 「そうだね……」
墓前に置かれたパジャマ……着る者のいないパジャマ。だんだん、天気が崩れ……ぱらぱらと雨が降り始める。
- 本宮
- 「帰ろう、母さん。風邪引くよ」
- 麻須美
- 「そうね……じゃあね、友ちゃん」
傘を差し、連れ立って歩いていく二人。
完全に歩き去っていった後……
がさっ。木の影から……男が現れた。短い黒髪に青い双眸の男。
- 友久
- 「やれやれ、たまに来たら……ばったり出くわしたもんだ
な……」
墓に視線を移す……供えられたビニール袋入りのねこちゃんプリントパジャマ。
- 友久
- 「らしいな……母さん。変ってないよ……」
頭を振り肩を竦めて笑い、そのまま踵を返す。振り向きざま、指を弾き手にしていた小さな花を自分の墓前に放る。そのまま……静かに立ち去る……友久。
- 友久
- 「家族で……お揃い……か、俺は……もう一緒になれない」
歩き去っていく……反対方向へ……家族に背を向けて。
本宮家の紹介エピソード……になるのかな。
友久だけはコード14『霞ヶ池の影』の登場人物ですが、彼は自分を死んだことにして家族との縁を切り、闇の世界に身を投じているわけです。そのあたりと、今も日常サイドの06に残っている家族との対比によって、互いの立場というか思いを描こうとしたんだと思います。
連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部