エピソード640『家族お揃いで』


目次


エピソード640『家族お揃いで』

登場人物

本宮和久
もとみーこと不幸をしょってたつ男、本宮家の末っ子
本宮麻須美
本宮の母、良妻賢母だが少女趣味なのが玉に傷
本宮久弥
本宮の父、おおらかな父
本宮史久
本宮家の長男、のほほんとしたのんびりお兄さん
本宮友久
本宮家の次男、四年前に死んだことになっている
本宮幸久
本宮家の三男、どちらかというと元気で軟派なお兄さん

本編

土曜日の午後、本宮家。
 父も長兄も週休二日で仕事は休み、次兄(幸久)も本宮本人も授業は午前中で終り。家族一同水入らずの時を過ごしていた。そのなかで、なぜかひときわ機嫌のいい母。両手に袋を抱え嬉しそうに家族を呼ぶ。

麻須美
「ねーえ、父さん、史ちゃん、幸ちゃん、和ちゃん!」
久弥
「なんだい母さん」
史久
「機嫌いいねぇ」
幸久
「なんだ、突然」
本宮
「嬉しそうだね」

母の呼びかけに、わらわらわらと集まってくる父と兄弟たち。

麻須美
「あのね、今日バーゲンでとぉってもいいお買い物したの よ」
幸久
「いい買い物?」
本宮
「何買ってきたの」
麻須美
「ふふ、これっ」
ばばばっと、母が家族一同の目の前に広げたものは……

本宮
「こっ」
幸久
「こっ」
史久
「これは……」

赤、青、黄、緑、ピンクの色違いでお揃いのねこちゃんプリントパジャマ。可愛らしいパステルカラーの生地、大きく描かれたねこちゃんがぷりてぃ。

久弥
「ほぉ(感心) よくまあこれだけ」
史久
「これまた戦隊物仕様な」
幸久
「まっ……まさか」
本宮
「……母さん……ひょっとして……」

そう、そのひょっとして……

麻須美
「家族全員お揃いなのよ、好きなの選んでね」

にっこりと屈託なく笑う母。

幸久
「いっ(ひくひく)」
本宮
「いっ(ぴきぴき)」
二人
「いやだぁぁぁぁぁぁぁっ!」

思わず絶叫の次兄と本宮。しかし……叫びは虚しく響くだけ……本宮家において母の権威は絶対である。

史久
「はぁ(嘆息) また始まったねぇ……父さん」
久弥
「まぁ……可愛らしくて……いいじゃないか」

諦め顔の長兄と父。さすが年季が違う……あったからどうという話でもないが。こうして……兄弟の叫びも虚しく、お揃いパジャマは決定になった。
 そして、テーブルの上。所せましと色とりどりのパジャマが広げられる。

麻須美
「やっぱり、私がピンクね」
幸久
「主人公はレッドだよな、燃える熱血野郎で決まりだな」
史久
「うーん、イエローはカレー好きのでないといかんしなぁ」
本宮
「ブルーはクールで冷静な奴だったな」
久弥
「グリーンか……一番影が薄い……」
幸久
「たまにグリーンの代りにブラックの時もあるよな」
史久
「いやいや、ブラックはジョーでなければいけない」
本宮
「史兄……ジョーって誰だよ(汗)」
幸久
「でも、最近はイエローに女が増えてるよな」
史久
「いかんぞ、イエローはカレー好きの三枚目でないと」

なんだかんだいいつつ真面目に選んでる一同。お人好しの本宮家たる所以か。

本宮
「あれ? これ……」

本宮が手にした袋……並べられたものとは別に置かれた紙袋、ビニールに入ったパジャマ一組。グレー地に黒のねこちゃんパジャマ……

本宮
「母さん、これは?」
麻須美
「あ……ああ、これはいいの」
本宮
「そう……」

微妙に表情を変えて紙袋をしまう母。その間……

久弥
「なかなかいいな。全員着てポーズとってみるか?」
幸久
「父さぁんっ!」
史久
「家族戦隊ねこプリダー(笑)」
本宮
「史兄貴まで……」

意外とノッてる父と長兄……結構好きなのかもしれない。

史久
「ねこプリレッドにねこプリブルーに……ねこプリイエロー」
久弥
「ねこプリグリーンとねこプリピンク」
本宮
「好きなのか……二人とも」
史久
「赤、青、黄でねこバルカンもできるなぁ」
幸久
「史兄……すっごく楽しそうだぞ」
麻須美
「ふふふ、よかったみんな気に入ってくれて」

にこにこと嬉しそうに笑う母。のってる長兄と父、諦め顔の次兄と本宮。こうして本宮家の夜は暮れていった。
 そして……翌日、日曜日の昼過ぎ。

本宮
「幸兄貴、母さんは?」
幸久
「さあ、さっきどこか出かけたみたいだぞ」
史久
「買い物じゃないか?」
本宮
「(母さん……まさか)」

思い当たる節はある。ばたばたと玄関へ向かう。

本宮
「史兄貴。俺、ちょっと出かけてくる」
史久
「雨降りそうだぞ。傘持ってけよ」
本宮
「うん」

傘を二本抱え、走り出す本宮。
 その頃、吹利の墓地にて。墓石の前に、佇む女……本宮の母。本宮家代々の墓……墓前に花を手向け、祈っている。

麻須美
「友久……」

傍らに置いていた袋を開ける、中からでてきたのは……

麻須美
「買っちゃった……あなたの分も」

ビニール袋に入った……グレー地に黒のねこちゃんプリントパジャマ。

麻須美
「馬鹿ね、もう……あなたがこれを着ることはないのに。 でも……ね、黒は友ちゃんに着て欲しかったのよ」

そっとビニールに入ったパジャマを墓前に置き、手を合わせる。

麻須美
「もう……四年も経つのにね……」

空を見上げる……今にも雨が降りだしそうな空。

本宮
「母さん!」

両手に傘を持った本宮がかけてくる。

本宮
「やっぱりここか」
麻須美
「和ちゃん……来てたのね」
本宮
「雨、降りそうだったから……」

湿気を含んだ前髪を払い、傘を手渡す。

麻須美
「そうね」
本宮
「そのパジャマ……やっぱり友兄貴の」
麻須美
「やっぱり、家族で……お揃いだから」
本宮
「そうだね……」

墓前に置かれたパジャマ……着る者のいないパジャマ。だんだん、天気が崩れ……ぱらぱらと雨が降り始める。

本宮
「帰ろう、母さん。風邪引くよ」
麻須美
「そうね……じゃあね、友ちゃん」

傘を差し、連れ立って歩いていく二人。
 完全に歩き去っていった後……
 がさっ。木の影から……男が現れた。短い黒髪に青い双眸の男。

友久
「やれやれ、たまに来たら……ばったり出くわしたもんだ な……」

墓に視線を移す……供えられたビニール袋入りのねこちゃんプリントパジャマ。

友久
「らしいな……母さん。変ってないよ……」

頭を振り肩を竦めて笑い、そのまま踵を返す。振り向きざま、指を弾き手にしていた小さな花を自分の墓前に放る。そのまま……静かに立ち去る……友久。

友久
「家族で……お揃い……か、俺は……もう一緒になれない」

歩き去っていく……反対方向へ……家族に背を向けて。

解説

本宮家の紹介エピソード……になるのかな。
 友久だけはコード14『霞ヶ池の影』の登場人物ですが、彼は自分を死んだことにして家族との縁を切り、闇の世界に身を投じているわけです。そのあたりと、今も日常サイドの06に残っている家族との対比によって、互いの立場というか思いを描こうとしたんだと思います。



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