相変わらずの松蔭堂。
- SE
- 「がらがらっ」
- 配達員
- 「こんにちは、こちら松蔭堂様ですか?」
- 凍雲
- 「(客間から) おおい、訪雪……何だ、またおらんのか。
出てきながら) はいはい、何の御用ですかな」
- 配達員
- 「お荷物のお届けに上がりました。(伝票を出して)
こちらにハンコお願いします」
- 凍雲
- 「うむ、ちょっと待ってくれんか」
奥に戻っている間に、配達員は板敷に荷物を運び入れる。
- 凍雲
- 「はい、と。(印鑑を押す) ……おお。こりゃよいものを」
- 配達員
- 「少々お待ちください。いま、残りを持ってきますから」
- 凍雲
- 「残り?」
- 配達員
- 「ええ。あと4箱あるんです」
その日の夕方。ママチャリを裏庭に置いた訪雪は、台所から上がってきた。
- 訪雪
- 「只今帰りました、先生……」
茶の間に足を踏み入れて、そこに積み上げられた箱に目をむく。
- 訪雪
- 「……何ですか、この箱の山は」
- 凍雲
- 「中身は箱の通りじゃよ。送り主はお前の実家じゃ」
- 訪雪
- 「まぁ、箱の通りならそうでしょうね(苦笑) ……季節だ
から、そろそろ送ってくるとは思っとったんですが、まさかこんなに沢山とはね」
- SE
- 「とてとてとて」
- 凍雲
- 「ふむ。今日は随分遅いお出ましだの」
- 訪雪
- 「階段から来たところをみると、おおかた上でタイチ達と
遊んどったんでしょう」
- 譲羽
- 「ぢいっ(こんにちはっ)」
- 訪雪
- 「こんにちは、ゆずさん。今日は何をして遊ぶかね?」
その晩早く。花澄が松蔭堂の戸を叩こうとするのと同時に、中から訪雪が出てきた。
- 花澄
- 「大家さん、こんばんは。いつもゆずがご迷惑かけてしまっ
て、すみません」
- 訪雪
- 「いいんですよ。たまにはこちらから、ゆずちゃんを瑞鶴
まで送っていこうと思っとったところです」
作務衣の左腕には、いつもの如く譲羽がしがみついている。右腕には、まるいものをいくつか入れたポリ袋がひとつ、ぶら下がっている。
- 花澄
- 「あの……その袋、一体何なんでしょうか」
- 訪雪
- 「ああこれ? 梨ですよ。郷里から沢山送ってきたので、
ゆずちゃんにお土産に持たせてあげようと思いまして」
- 譲羽
- 『でも、重いから、ゆず持てなかったの』
- 花澄
- 「それでわざわざ、持ってきてくださるつもりで(くす)
でも……こんなに、よろしいんですか?」
- 訪雪
- 「全然構いませんよ。もっと欲しかったら、お好きなだけ
持ってって下さい。なにしろ、あと40キロ以上残ってるんですから(苦笑)」
- 花澄
- 「40キロって……最初はどれだけあったんですか?」
- 訪雪
- 「10キロ箱が5つ、合わせて50キロ、180個。いままでに消
費した分と、いま差し上げた分を引いても、あと160個以上あるんです(げっそり)」
翌日。
- 豊中
- 「こんにちは。若大家、いまお暇ですか」
茶の間の障子の向こうから、答えが返ってくる。
- 訪雪
- 「や、豊中君こんにちは。こっちゃいつもどおり暇だよ。
茶を飲みに来たのかい」
- 豊中
- 「まあ、そんなところです。このところ、お邪魔しても行
き違いになることが多かったから」
- 訪雪
- 「ま、色々あってね。旨いもんが冷えてるよ」
がらり、と障子を開けた豊中の鼻腔に、甘い匂いが漂ってくる。
- 豊中
- 「そういえば、今がシーズンだったか……しかし、えらい
量の梨ですね。品種は『幸水』かな」
- 訪雪
- 「うむ。郷里から送ってきたんだが、流石に50キロもある
と食べでがある。さ、冷えてるうちにどうぞ」
- 豊中
- 「いただきます」
しゃりしゃり。
しゃくしゃく。
しゃくしゃくしゃくしゃくしゃくしゃくしゃくしゃく……
- 豊中
- 「(数本目の楊枝を手にして) なかなかなくなりませんね」
- 訪雪
- 「実は10個ばかしいっぺんに剥いて、始末がつかなくなっ
ていたところでね」
- 豊中
- 「これだけあると、流石に飽きてきませんか」
- 訪雪
- 「確かに、うちだけでは消費量にも限界がある。そこでだ」
手回しよく袋詰めしてあった、10個ほどの梨を卓袱台の下から取り出して。
- 訪雪
- 「お裾分けだ。よかったら貰っていってくれないかね」
- 豊中
- 「今日の分は十分頂きましたが……これくらいなら、旨い
うちに食べられるでしょう。頂いておきます」
- 訪雪
- 「そうしてくれると有り難い。欲しかったらもっと持って
いっていいよ」
- 豊中
- 「いえ……遠慮します(汗)」
梨の袋をぶら下げて帰りながら、豊中が呟く。
- 豊中
- 「茜を連れていったら、双方とも喜ぶかもしれないな……」
昼下がり、ベーカリー楠。荷台に箱を括った藤色のママチャリが、店の前の歩道に停まる。
- SE
- 「ききいいいっ、がたん」
- 訪雪
- 「よっこいせ……っと」
- SE
- 「がらんっ」
大きな平たい箱を両手で抱えた訪雪が、足でドアを押す。
- 観楠
- 「いらっしゃいませ……どうしたんですか、その箱」
- 訪雪
- 「や、こんにちは(どさ)」
喫茶コーナーの、入り口に近いテーブルに、箱をどっかりと置く。
- 訪雪
- 「郷里から、梨を送って来ましてね。ここなら食べる人も
多かろうと思って、ちょいとお裾分けを。10キロばかし、ね」
- 観楠
- 「しかし……こんなに、いいんですか」
- 訪雪
- 「うちにはあと100個近く残ってるんですよ。いくら三人
前食べる人間がいたって、味のいいうちには捌き切れやしません。常連の皆さんと召し上がるなり、新作パンの材料にするなりしてください。よろしければもっと持ってきますよ」
- 観楠
- 「は……はぁ(汗)」
観楠が箱を奥に運び入れている間に、訪雪はトレイにパンを選んで、レジに載せる。
- 訪雪
- 「これと、あとミルクティを(大きな溜息)」
- 観楠
- 「大家さん。どうか、しましたか」
- 訪雪
- 「久しぶりに……梨以外の甘いものが食えると思いまして」
しばらく後。ベーカリーを出た訪雪は、停めてあった自転車の篭から袋をふたつとって、"Flower Shop MIKO"へと足を進める。
- 訪雪
- 「こんにちは、如月さん」
- 尊
- 「いらっしゃいませ……じゃなくて、こんにちは、かな?
夏の海行き以来ですね、訪雪さん」
- 訪雪
- 「そういえばそうだ。(笑) ……これ、郷里から送ってき
た梨なんですが、よかったらご家族と召し上がって下さい」
- 尊
- 「わぁ(袋を受け取って) ……ありがとうございます。
あたし、梨大好きなんです(にこ) でも、こんなにいいんですか?」
- 訪雪
- 「出来ればもうすこし貰って頂けると有難いんだが……
(もうひとつの袋を出して) そうそう。こっちは、御影さんに渡しといて頂けますか。一君がいつもお世話になってますんで」
- 尊
- 「あの……どうして、たけ……御影さんの分を、私に?」
- 訪雪
- 「最初は一君に持っていって貰おうと思ったんですがね。
一君が、御影さんへの届け物なら、如月さんに託すほうが確実だって言うもんですから(悪意のない笑い)」
- 尊
- 「そんな……(赤面)」
- 訪雪
- 「ご無理でしたら、一君に託すんですが?」
- 尊
- 「いえ……お預かりします」
- 訪雪
- 「じゃあ、お願いしますよ」
袋ふたつを抱えた尊をあとに、訪雪は自転車のほうに戻る。
グリーングラス。訪雪は右手で自転車のハンドルを握り、左手を危なっかしく伸ばして、細く開けたガラス戸の隙間から頭を突っ込む。
- 訪雪
- 「……こんにちはぁ。済みませんが、外階段の下に自転車
置かして下さい」
しばらくしてから戻ってきて、こんどはごくまっとうにドアを押す。両手には、ひとつずつ袋をぶら下げている。
- ユラ
- 「いらっしゃいませ、松蔭堂さん。今日は随分と大荷物で
すね」
- 訪雪
- 「ええ。まだ積んである分に、陽が当たってあったまって
きそうなんで、階段下の日陰をお借りしました。郷里から送ってきた梨ですが、よろしかったらどうぞ」
- ユラ
- 「(片方の袋を受け取りながら) ありがとうございます。
暑い中をわざわざ、届けに来てくださって……奥で冷たいものでも召し上がりませんか?(にこ)」
- 訪雪
- 「そりゃ有難い。喜んで御馳走になります」
一般客の来ない奥のテーブルで、冷たいハーブティを飲みながら。
- ユラ
- 「さっきから気になってたんだけど……そのもうひとつの
梨の袋は、誰の分?」
- 訪雪
- 「ああ、これね。これはちょいと頼みもの」
- ユラ
- 「頼むって、わたしに?」
- 訪雪
- 「うむ。君は……確か、果実酒を作っとったね。さっきも
カウンターの奥に並んでるのを見たが」
- ユラ
- 「……で、梨酒を仕込んで欲しいわけね、それで。果実酒
なら自分も造るって、まえ見せてくれなかった?」
- 訪雪
- 「梨は、去年やって、ふた瓶まるまる腐らせちまってね。
他の材料の費用は払うし、うまく出来たら君が飲んでくれても構わんよ。ただし、味を見るぶんくらいは残しといとくれ」
- ユラ
- 「ま、いいわ。味が落ちないうちに仕込んどく。出来るま
でに預けたこと忘れないでよ」
- 訪雪
- 「ありがとう。努力はするよ」
訪雪が危なっかしく自転車で梨を運んでいる時。
いつもの草原で……
- 佐古田
- 「じゃじゃじゃぁぁん」
- フラナ
- 「決まったねっ」
- 本宮
- 「ほら、お前も合わせるぞ」
いつものごとくギターの練習に励んでいる三人組だった。
ちりりりん。自転車のベルが鳴る。
- フラナ
- 「あれ? ……訪雪さんだっ、おーいっ」
土手の上、山のように袋を積んだ自転車を押しながら手を振る訪雪。
- 訪雪
- 「おうい、君たち。いいものがあるんだが、こっちへ来ん
かね」
- フラナ
- 「いいもの〜すぐ行くっ」
- 佐古田
- 「じゃじゃぁぁん(わぁーいっ)」
ばたばたばたと走り出すフラナと佐古田。後からゆっくりと本宮がついていく。
- 本宮
- 「いいもの……何だろ?」
土手道の真ん中に自転車を停めた訪雪は、袖で汗を拭きながら三人を待つ。
- フラナ
- 「こんにちはっ。いいものって、何ですか?」
- 訪雪
- 「うむ。(ぐら) ……っとっと。見ての通りだよ。山ほど、
ある」
荷の重みでふらつく自転車の周囲には、甘く水っぽい匂いが漂っている。
- 佐古田
- 「じゃじゃんっ(この匂いは)」
- 本宮
- 「梨、ですね? でもどうして、こんなにいっぱい」
- 訪雪
- 「大量に貰ったんで、お裾分けに回ってたんだよ。この陽
気の中を運んできたから、決して冷えちゃいないが、味は儂が保証するよ。君達も、食べんかね?」
- フラナ
- 「わあい、いただきまーす」
陽の当たらない篭の底のほうから、袋をひとつ、引っ張り出して、訪雪は土手の縁に腰掛ける。その両側に、三人がばらけて座る。
- 訪雪
- 「あ……こりゃいかんな」
- 佐古田
- 「ぼろん(何か?)」
- 訪雪
- 「まさか外で食べるとは思わなんだから、ナイフを持って
来るのを忘れたよ。誰か切るものを持っとらんかね?」
- 本宮
- 「十徳ナイフでよければ、俺持ってますけど」
- フラナ
- 「じゃ、もとみー剥いてね」
- 訪雪
- 「うむ、頼むよ(梨を手渡す)」
- SE
- 「しゃりしゃり」
- フラナ
- 「ありがと、もとみー(しゃく) わ、おいしい」
- SE
- 「しゃりっ」
- 佐古田
- 「(しゃく、もぐもぐ) じゃんっ(うまいぞ〜)」
- 訪雪
- 「食べながら弾くとギターが傷むよ」
- SE
- 「しょりしょりしょりしょり」
- 訪雪
- 「あ、済まんね(しゃく) ふむ……外で食べるのもいいな」
袋の梨がなくなりかけた頃。
- フラナ
- 「そういえば、もとみーまだひとつも食べてないじゃん。
駄目だよ、遠慮しないで食べなきゃ」
- 佐古田
- 「じゃじゃあん(せっかく御馳走になったのに〜)」
- 本宮
- 「あのなあ……おまえらが、剥いたはじから食っちまった
んだろうが!」
夕方の瑞鶴。全身汗だくの訪雪が、袋を提げて入ってくる。
- 訪雪
- 「すいません。ここが……瑞鶴で、よろしいんですよね?」
- 店長
- 「確かにそうですが……(不審そうな眼で) 本をお探しで
すか?」
- 花澄
- 「あ、こんにちは、大家さん。昨日は結構なものを、有り
難うございます」
- 店長
- 「(花澄に) 知り合いか?」
- 花澄
- 「松蔭堂の大家さん。ゆずがいつもお世話になってる」
- 訪雪
- 「ああ、申し後れていましたね。私は小松訪雪。花澄さん
が仰有っておられた通り、松蔭堂の店主です」
- 店長
- 「こちらこそよろしく……で、今日お越し下さったのは」
- 花澄
- 「(訪雪の手の袋に目を留めて) 梨、ですね?」
- 訪雪
- 「ええ、まあ。本当は、もっと早い時間にお伺いするはず
だったんですが、道に迷ってしまいましてね」
汗で色の変わった作務衣を見やりながら、袋の梨にちょっと手を当てる。
- 訪雪
- 「おもての暑さで、すっかりあったまっちまってますが……
夜にでも冷やして召し上がってください」
- 店長
- 「これはどうも。いただきます」
店長は花澄にレジを任せて、受け取った袋を店の奥に置きに行く。聞き慣れた声を聞いたような気がして、訪雪はレジ席の中を覗き込む。思ったとおり、金色の丸い目と視線が合った。
- 譲羽
- 「ぢ(こんにちは)」
- 訪雪
- 「……(黙って微笑)」
- 花澄
- 「(小声で) お客さんを驚かせないように、ここを居場所
にしてるんです」
- 訪雪
- 「なるほどね。
じゃ、いつまでも営業妨害をしとるわけにもいきませんので、私はこのへんで。(出てきた店長に)それじゃあ、お邪魔しました」
錆びた自転車のスタンドを軋ませて、訪雪は元来た道を帰っていく。しばらくして、ふと客の途切れたとき、譲羽が花澄に話しかけてきた。
- 譲羽
- 『花澄』
- 花澄
- 「(店内を見回して) なあに?」
- 譲羽
- 『大家さん、いい匂いだった』
- 花澄
- 「あんなに、汗をかいてたのに?」
- 譲羽
- 『汗だけじゃないの。違う、匂い』
- 花澄
- 「……なんの、匂いでしょうね(微笑) ……いらっしゃい
ませ」
入り口が開いて、熱気といっしょに客が入ってくる。譲羽はまた、口を噤んだ。
松蔭堂にて
- 直紀
- 「こーんにっちはぁー」
- 訪雪
- 「お、柳さん。良いところに来たね」
- 直紀
- 「あー梨だぁ。いっぱいありますね」
- 訪雪
- 「色々お裾分けしたんで、これでも大分減ったんだよ」
- 直紀
- 「でも、この梨おいしー(しゃくしゃく)」
- 訪雪
- 「(しゃくしゃく) そうだ、一君の所に持ってくかい?」
- 直紀
- 「あ、そですね。んじゃあ、これもってっていーですか?」
と、ガラスの器に盛られてる梨の皿に手をかける。
- 訪雪
- 「いやいや、やっぱり剥きたてが一番旨いからねぇ。はい、
果物ナイフとまな板」
- 直紀
- 「んー。でもあたし、皮むき遅いんだもん(しゅん)」
- 訪雪
- 「なぁに、そんときは一君が剥いて食べさせてくれるだろ
う?」
- 直紀
- 「ほ、ほーせつさーん(汗)」
- 訪雪
- 「さぁさ、早く行った行った(笑)」
- 直紀
- 「……はぁい(真っ赤)」
とてとてと梨の袋と果物ナイフと小さいまな板を抱え、蔵の方に歩いてゆく。
- 直紀
- 「にーのまーえさーん。こんちはー」
- 十
- 「直紀さん、ども。どーしたんです、それ?」
- 直紀
- 「へへー。ほーせつさんに梨貰っちゃった(笑) 一さん、
梨食べよっ(にこっ) 今剥くから、ちょっと待ってね」
- 十
- 「え、いや(汗) それくらい自分でしますよ」
- 直紀
- 「だって、ナイフ一個しか無いし。ちょっと剥くの遅いけ
ど待っててね」
- SE
- 「しゃ……り、しゃ……り、しゃ……り」
- 直紀
- 「……(目が真剣)」
- 十
- 「……(^^;」
- SE
- 「しゃ……り、しゃ……り、しゃ……り」
- 直紀
- 「……(目が真剣)」
- 十
- 「……あの、直紀さん(汗)」
- 直紀
- 「……」
- 十
- 「なおきさーん(^^;」
- 直紀
- 「ん? なに? 今、半分剥いたからもーちょっとなんだ
けど」
- 十
- 「俺、剥きますよ。貸して下さい」
- 直紀
- 「だめっ! あとちょっとだからやらせてっ!」
- 十
- 「はいはい(笑) じゃあ剥き終わるまで待ってます」
- 直紀
- 「うんっ!」
- SE
- 「しゃ……り、しゃ……り、しゃ……り」
- 十
- 「……(と、とろい(汗))」
そして、一個め撃破(核爆)
- 直紀
- 「ぜーは、ぜーはー……出来た」
- 十
- 「大丈夫ですか、直紀さん(^^;」
- 直紀
- 「なんか……時間掛かっちゃった、ごめんね」
- 十
- 「いいですよ(笑) 次から俺が剥きますから」
- 直紀
- 「うん(しゅん)」
- SE
- 「しゃりしゃりしゃり」
- 直紀
- 「(じーっっっ)」
- 十
- 「はい、直紀さん」
- 直紀
- 「(じーーーーーーーっっ)」
- 十
- 「どーしたんですか、直紀さん」
- 直紀
- 「手元見てるの」
- 十
- 「手元?」
- 直紀
- 「一さん、もー一回やってっ!」
- 十
- 「はいはい(笑) 親指は、刃に添えるようにして……こう」
- 直紀
- 「(こくこく、頷く)」
- SE
- 「しゃりしゃりしゃり」
- 十
- 「解りました?」
- 直紀
- 「んーーーーーー。も、いっかい!」
- 十
- 「……はい」
そして、日が暮れる(笑)
直紀がやっとまともに梨が剥けるようになるまでに、総計15個の梨が犠牲になったのだった(爆)
からからん。
- 御影
- 「よいせと、店長さんちょっと置かせてくれや。あと、ア
イスティ一つ」
- 観楠
- 「あれ? 御影さんも梨ですか? 訪雪さんの?」
- 御影
- 「ああ、そうらしい。もっとも、もらったのは……」
からからん。
- 十
- 「うーっす。あ、ダンナ。尊さんから連絡行きました?」
ゆっくりと振り返り、サングラスのまま唇の片方を歪めて笑う御影。慣れ始めた観楠ですら、「ひきぃいいっ」となるに十分な表情。
- 御影
- 「十、おまえちっとここに座って話しせんか?」
- 十
- 「……(冷汗) な、なにかあったの?」
- 御影
- 「ワシへの届け物、尊さんに渡す方が確実やそうやないか
にやぁり)」
- 十
- 「い、いや。だって、そうじゃないですか。ダンナの首根っ
こ捕まえてるのって今じゃ尊さんだし……」
- 観楠
- 「(ひそひそと) 一さん、御影さん照れてるんですよ」
- 十
- 「(ぽむ) なぁんだ、ダンナ。嬉しいなら嬉しいってそう
いえば……」
びしばしめかばきどかぼき。
- 十
- 「う、ううっ。ダンナってば照れ屋さんなんだから……。
がくっ)」
実話系日常譚を土台として、複数参加者が書いた各配達先との対話を加えて、まとめあげられた作品です。
しかし……げてものパンで有名なベーカリーですが、はたして梨パンは作成されたのでしょうかね。
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