エピソード649『男の匂い』


目次


エピソード649『男の匂い』

登場人物

富良名瑞希(ふらな・みずき)
年下(男)に敬われる(恐れられる)おねーさん。
本宮友久(もとみや・ともひさ)
瑞希の後輩。魔性の瞳をもつ。

本編

四年前……吹利。夕焼けが街を紅く染めていた。近所の公園にて、瑞希と友久はただ黙って暮れなずむ街を眺めていた。
 微妙な関係。付き合っているわけでもない、でもただの知り合いで終れない。お互いつかず離れずの仲。
 しばらく黙ったきりの二人、瑞希がつぶやくように口を開く。

瑞希
「友久……」
友久
「ん?」
瑞希
「背中……貸して」

こっちを振り向こうともせず、うつむいたままの瑞希。肩を竦め溜息をひとつつく友久。そのまま瑞希に背を向け、優しい声で答える。

友久
「いいぜ」

ぽすっ
 長い髪をなびかせ転がるように抱き着いてくる。がっしりとした両肩を掴む細い手、首筋に頬があたり、背中がじん……と暖かくなる。しばらくお互い黙ったままで……ただ過ぎる時間。

瑞希
「……匂いがする」
友久
「匂い?」
瑞希
「男の匂い」

友久の背中に抱き着いたまま、もごもごとつぶやく瑞希。

瑞希
「あんまし、いい匂いじゃない」
友久
「悪かったな」
瑞希
「でも……嫌いじゃない」
友久
「そうか」

……再び沈黙が続く、また、遠慮がちに瑞希が口を開く。

瑞希
「わけ……聞かないの?」
友久
「なんとなく、だろ」
瑞希
「ごめん、なんとなく……さみしかった」
友久
「さみしい時くらい素直に甘えろよ」
瑞希
「だって……そういうわけにもいかないじゃない」
友久
「じゃ、あんたは何してる」
瑞希
「……ごめん」
友久
「謝るなよ」

空を仰ぐ友久、背中に抱き着いたままの瑞希。夕焼けは……もう宵に消えていた。

解説

エピソード635『男って可愛い?』と同時期の話ですね。
 恋愛感情というものは良く分からないんですが、こういった振る舞いってのは、ありがちなんでしょうかね?



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