エピソード652『温故知新』


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エピソード652『温故知新』

ベーカリー楠にて・昼)からんころん

観楠
「いらっしゃいま……あ、かなみちゃん。おかえり(笑)」
かなみ
「ただいまっ。あのね父様、お店にふるいものある?」
観楠
「ふるいもの?」
かなみ
「んと、社会のしゅくだいなの」
観楠
「宿題で……古い物?」
かなみ
「いまつかってるいろんな道具と、むかしのふるいのを くらべて発表するの」
観楠
「あぁ、なるほどね。さて……古い物ねぇ……なにか あったかなぁ」
「おーぃ、かなみぃ」
智博
「かなみちゃーん」
観楠
「あれ、みんなと一緒だったの?」
かなみ
「うん。グループでふるいものさがししてるの」
「パン屋さんはなにかあった?」
大樹
「おれんち、ふつうの家だからなにもないし」
「パン屋だからってふるいものがあるとはかぎらんが」
「なにかあるかもしれないでしょー」
「……ねいの家ならなんでもあるような気がするんだ がなぁ……」
「ちょっとそれ、どーゆー意味よっ(汗)」
観楠
「グループって……なるほど(笑)」
かなみ
「父様、なにかない?」
観楠
「うーん……お店にはなにもないんじゃないかなぁ」
かなみ
「うちにはなにかないの?」
観楠
「家……あ、古い型のゲーム機があるなぁ(笑)」
かなみ
「そんなのだめなのっ!」
「かなみの父ちゃん、まじめに考えてくれよぉ」
観楠
「(……なんで俺が?)しかし、古い物って言っても、 あれだろ? 昔の生活道具ってやつ」
毅・大樹
「そうでーす」
観楠
「みんなが生まれる前の道具なんて、もう何処にも売っ てないし……」
「どこかそういうのがあるところ知りませんか?」
観楠
「図書館とか、民俗資料館なんかにいけばわかるんじゃ ないかなぁ(笑)あ、学校の図書室は調べたかい?」
「そんなところ他のグループがとっくに使ってるわよ。 あたしたちはもっと違う所から攻めたいのよね」
観楠
「(……だからってうちに来るか)うーん……となると ……はて(考え中)」
かなみ
「父様、どこかふるいものあるところ、ない?」
観楠
「えーと……あ!」
「知ってるの?」
智博
「どこに?」
観楠
「みんな、松陰堂って知ってる?」
毅・大樹
「しょういんどう?」
「通りのずっとむこうのこっとう屋さんですか?」
観楠
「うん(笑)」
「……あんた、なんで骨董屋なんか知ってんの?」
「たまにいくのだ」
「……なにしに?(汗)」
かなみ
「こっとう屋さんってなあに?」
観楠
「古い道具や貴重品なんかを売ってるお店だよ。あそこ なら珍しいものたくさんあるんじゃないかな(笑)」
「あのねおぢちゃん。珍しい物じゃなくて古い生活道具 探さなきゃなんないんだけど?」
観楠
「……その他はもう知らないよ」
かなみ
「ねいちゃん、行ってみよっ!」
「そーだな。面白そうじゃん(笑)」
「ふむ、こっとう屋……ふむふむ」
「そーと決まったら!」
大樹
「すぐにいこーぜ!」
「……仕っ方ないわねー」
観楠
「道、わかるかなぁ……地図描いてあげようか?」
「お願いするわ」
観楠の描いた地図を受け取り、子供達ぞろぞろとベーカリーを出て行く。

観楠
「……子供達がいきなり押かけたら訪雪さん困るかなぁ。 ……困るよな普通(汗)TEL入れとこ……」
松蔭堂。

SE
「ぢりりりりりん」
黒電話のベルのけたたましい音で、板敷で居眠りしていた訪雪は文字どおり飛び上がった。

訪雪
「うひゃあっ(どびくう)……ほえ? んぁ、電話かぁ……
がちゃ)はい、こちら松蔭堂でございます」
観楠
『もしもし、ベーカリー楠の湊川ですが』
訪雪
「あ、こりゃどうも…… しかし、店長がこちらに電話を下さるとは、珍しい」
観楠
『確かに(笑)……で、用件ですが。 うちのかなみが、友達を連れてそちらへ伺いましたので、済みませんがよろしくお願いします』
訪雪
「ま、それは構わんですが……『伺いました』?」
観楠
『いまこっちを出たところです。なんでも学校の宿題で、 昔の暮らしについて調べるんだそうで(笑)……それじゃあ、ご迷惑お掛けします』
訪雪
「あ……はいはい。それじゃあ」
受話器を置いた訪雪は、おもむろに小机の引き出しを開けて、いくつにも折り畳んでしまってあった大きな紙を引っ張り出す。紙の上には、ランク分けされた膨大な量の商品リスト。

訪雪
「……とりあえず、店頭と母屋二階の在庫だけはこれで判る はずだが……はて、ニンベン民俗系の品物なんて、いまうちにあったかなぁ……」
板敷いっぱいにリストを広げて、しばらく考え込んでいたが、やがてその表のあちこちに、赤鉛筆で猛然と線を引きはじめる。

訪雪
「これ……と、これと、このふたつと、あとこいつと…… このへんのもんは蔵へ避難させにゃ駄目だな。で、(店を見回して)空いたとこにこいつを出しておく、と……どっちにせよでかいもんまでは移動できんな」
リストを懐に、ばたばたと店の中のものを移動して、冷蔵庫の中身を確認したところで、表のガラス格子を叩く音がした。

かなみ
「こーんにーちわぁ、だれかいますかぁ」
訪雪
「お、来たな……はいはい、いらっしゃい」



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