雨が降っている。
切れかけた街灯が滲む深夜、美樹は研究室の買いだしの帰途を辿っていた。街は既に寝静まって、所々に点在するコンビニの皓々とした照明さえ、いやに寂しく見える。
サンダルと素足の間で、生ぬるい雨水が音を立てる。
暗い路肩の水たまりに、さっき足を突っ込んだばかりだった。
サンダルの上の素足が歩くたびに横滑りを起こす。
このうそ寒い雨の中、流石にいつまでも外にいる気はしない。
人影すら途絶えた大通りに、雨音ばかりが大きく……
桐下駄の歯がアスファルトを噛む音が近づいてくる。
美樹は顔を上げて、足音のする方に目をやる。
右手に唐傘を差し、左の腕に風呂敷包みを抱えた着流しの人物。
見覚えのある歩き方のその相手に向かって、美樹は声をかけた。
その人物、訪雪が、ぴたりと足を停めて、目深に差していた傘を上げる。
何故か少しだけ、ばつの悪そうな笑み。
左の袖をぱらりと振って、傘の縁から垂れた滴を払う。
美樹の視線の先、自分の抱えた風呂敷包みに目をやって。
細長い包みは、中身が瓶だとひと目でわかるかたちをしている。
答えを返す美樹にかるく片手を挙げて、訪雪は雨の中を遠ざかっていった。少しの間、その背中を見送って、美樹は再び、早足に歩き始めた。
同じ女性を思う、二人の男の邂逅。真実を知った後、彼らはなにを思うのだろうか。