- 狭淵美樹(さぶち・みき)
- 本好きの医大生。男。
- 小滝ユラ(こたき・ゆら)
- ハーブショップグリーングラスの店員
- ユラ
- 「いらっしゃいませぇ……、あら、狭淵さん」
- 美樹
- 「あ、ども。お久しぶりです」
- ユラ
- 「お久しぶりって……そういえば、三日ぶりですね」
- 美樹
- 「えぇ。この夏は実家に帰らなかったもんで、ちょっとばかり墓参りをしに帰ってきました。で、これですけど……」
美樹が、和紙の包装紙に包まれた手のひらに乗る程度の箱を差し出す。
ユラが受け取ると、少しだけ、重みが感じられるほどの感触。
- ユラ
- 「……これは?」
- 美樹
- 「えと、まぁ、実家に帰ったときの土産物です。少々時期はずれですが」
- ユラ
- 「開けて、かまいませんか?」
- 美樹
- 「えぇ、どうぞ」
ユラが、ていねいに包み紙を外していく。紙箱の中には……
- ユラ
- 「風鈴……、ですか?」
- 美樹
- 「えぇ。秋風には合わないかもしれませんが……」
- ユラ
- 「へぇ……」
黒い銅の飾り気のない風鈴。ぶら下がった短冊には何も書かれていない。
ユラが風鈴を持ち上げると、澄みきった音が響く。
- ユラ
- 「いい音……でも……なんだか寂しい感じですね」
- 美樹
- 「もう、秋ですからね……すいません、来年の夏にでも使って下さい」
- ユラ
- 「せっかくですから、少しだけ、飾っておきますわ」
- 美樹
- 「あちゃ……かえって、気を使わせてしまったみたいですね」
- ユラ
- 「いえ、そんな事……このあたりがいいかしら?」
ユラが、風鈴の釣り紐を持って軒先にかけようとする。
- 美樹
- 「わたしがかけましょう。わたしの方が背が高いですし。どのあたりです?」
- ユラ
- 「あ、そしたらそのあたりで……」
ユラが指差したあたりに刺さっている釘に引っかける。
- 美樹
- 「これで、よろしいですか?」
- ユラ
- 「えぇ……」
その途端に風鈴が、音を立てる。
- ユラ
- 「もう、秋なんですね……」
1997年秋。
恋する相手に送る帰省の土産が、風鈴だなんてのは、美樹らしいといえば、らしいのかな。
「音の聞こえるたびに、私を思い出してください」
そんなところなのかも知れない。
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