- 小松訪雪
- 松蔭堂店主。子供好き
- 平塚花澄
- 書店瑞鶴店員。四大による情報収集が可能。
- 譲羽
- 少女人形。実は木霊
- タイチ
- 踊る埴輪、その一。松蔭堂にいる。
- シュイチ
- 踊る埴輪、その二。松蔭堂にいる。
夕暮れ時。松蔭堂。
- 花澄
- 「ごめんください」
- 訪雪
- 「ああ、こんにちは」
- 花澄
- 「あの、ゆずは……」
言いかけたところで、花澄の耳にもぢいぢいという声が届く。
- 花澄
- 「うちわ?」
- 訪雪
- 「花澄さんには分かるんですか」
- 花澄
- 「言ってることは解りますけど……何やってるんです、あの子?」
- 訪雪
- 「今、タイチ達としりとりをやっているところ、だそうですよ」
- 花澄
- 「……しりとり?」
- 訪雪
- 「儂にはさっぱりわからないんですがね……とにかくゆずちゃんはしりとりをしとる積りらしい」
ぢいぢいと言う声に続いてしばらくの沈黙、そしてまたぢいぢいと譲羽の声。
- 花澄
- 「あの……見てみていいですか?」
- 訪雪
- 「ああ、どうぞどうぞ」
襖をそっと開けると、床の間の二体の埴輪の前に、譲羽がちょこんと座り込んでいた。
神妙な顔をして、相手の言っている……だろうことに耳を傾ける。
勿論と言うか何というか、花澄には何も聞こえてこない。
- 花澄
- 「大家さんには、タイチ君たちの言葉は分からないんですか?」
- 訪雪
- 「残念ながら、儂にはさっぱり」
と、ぢいっと一声譲羽が叫んで振り返った。
- 花澄
- 「わかんないのったって……私がゆずに教えたら、反則でしょ?」
- 譲羽
- 「ぢいぢいっ(でもタイチもシュイチもふたりだもんっ!)」
- 花澄
- 「でも、最初にそうやって決めたんでしょ?」
- 譲羽
- 「ぢい……(そうだけど)」
ぷっとふくれたまま、譲羽は花澄の腕に飛び込んだ。
- 花澄
- 「じゃ、帰るけど……ゆず、ほら、ちゃんと二人に挨拶して」
ひょい、と向き直らされて、譲羽はまたぢいぢいと何やら言った。
埴輪がゆらゆらと動く。
- 花澄
- 「……あ、そうか……(小声で) 通訳、出来る?」
- 土
- 『勿論』
埴輪は、土より生まれたもの。
- タイチ
- 《明日、マタ遊ボウネ》
- 譲羽
- 『しりとり、また、するの?』
- シュイチ
- 《サア、ドウシヨウネ》
- タイチ
- 《ユズチャン、シリトリガ、ニガテダモンネ》
- 譲羽
- 『ちがうもんっ』
- シュイチ
- 《ジャ、明日モヤルカネ?》
- 譲羽
- 『……やだもん』
そこまで聞いたところで、花澄がくすくすと笑い出した。
埴輪が大きく揺らぐ。
- シュイチ
- 《花澄サン、ボクラノコトバガ、ワカルノ?》
- 花澄
- 「通訳してもらってるから、今ならわかりますよ」
え、と、背後で声がした。
- 花澄
- 「……あの?」
- 訪雪
- 「花澄さん、こいつらの言うこと、解るんですか(汗)」
- 花澄
- 「直接じゃないですけど……あの?」
- タイチ
- 《聞カレタラ困ルコト、イッパイアルモンネ》
- シュイチ
- 《聞キタイ?》
- 花澄
- 「聞きたくない」
埴輪たちは暫し黙った。
- 花澄
- 「タイチ君、シュイチ君、いいこと教えてあげましょうか?」
- シュイチ
- 《ナニ?》
- 花澄
- 「秘密っていうのは、知っている人が少なければ少ないほど知っている人にとっての力になるんだってこと」
埴輪たちは、またしばらく沈黙した。
- 花澄
- 「そしたら、またね」
襖をそっと閉めてから、花澄はまたくすくすと笑った。
- 花澄
- 「秘密漏洩、少しは止まるといいんですけどね」
- 訪雪
- 「……助かります」
木霊がことん、と、小首を傾げた。
1997年秋頃の話。
お喋りな埴輪の二人と、花澄と。
松蔭堂での一風景です。
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