エピソード691『唐突』


目次


エピソード691『唐突』

登場人物

平塚花澄
書店瑞鶴店員。女の子好き。
富良名裕也(フラナ)
神出鬼没な男子高校生。無邪気。
無道千影
バンパイアハーフな女子高校生。銀の髪と青い目。
平塚英一(店長)
書店瑞鶴店長。平塚花澄の兄。

本文


 某日、瑞鶴。
 硝子戸が開いて。
 

フラナ
「こんにちはっ」
花澄
「こんにちは、フラナ君……と?」
千影
「こんにちは」
花澄
「ええと……夏にお会いしましたよね?」
千影
「はい(にこっ) 無道千影です、よろしくっ」
 
 言葉と一緒に、元気よく頭を一つ下げる。
 銀の髪がふわり、と舞う。
 
花澄
「こちらこそ。平塚花澄と申します……フラナ君のお友達、なのね?」
フラナ
「うん!」
 
 広くも無い店内に、天井にくっつきそうな本棚が幾つも並んでいる。
 千影は少し首を傾げてそれを見やった。
 
花澄
「で……どんな本を、お探しですか?」
千影
「えっと……フラナ君から、面白いところに面白い本があるって聞いたんですけど」
花澄
「あ、じゃ、ゆっくり探していって下さいな(にこにこ)」
千影
「はい。っと、あの脚立借りていいですか?」
花澄
「どうぞ……お兄……店長」
 
 かなり長い脚立を、丁度店のほうに出てきた店長が掴み、千影に渡した。
 
 フラナは音楽関係の雑誌のほうに向かう。
 千影は脚立に上り、上の段の本を眺めている。
 時折本の背表紙を読んでいるらしく、微かに口元が動く。
 どこか生真面目な、そして、凛とした表情である。
 しばらくの沈黙の後、ふと、花澄が口を開いた。
 
花澄
「……千影ちゃん…って……」
千影
「はい?」
花澄
「ほんっとに……綺麗ねえ(しみじみ)」
 
SE
ばさどさっ。
 
 雑誌の整理をしていた店長の手から、雑誌が数冊落っこちた。
 丁度引っ張り出そうとしていた本が、千影の手から落下した。
 
フラナ
「そーだよねっ(にぱっ)」
花澄
「フラナ君も、そう思うでしょ(にこにこ)」
 
 天衣無縫、もしくは傍若無人の見本が二人。
 
店長
「…………花澄」
花澄
「はい?」
店長
「…………お前って奴は」
花澄
「……何?」
 
 きょとん、とされて、店長は大きな溜息をついた。
 
花澄
「だって私、別に変なこと言ってないもの……ねえ?」
フラナ
「うん」
 
 溜息が二つ、返事の代わりになった。

時系列

1997年秋頃の話。

解説

無道千影嬢、瑞鶴初来店エピソード……なんですが。
 正直であることと世間体って、ずれるものですね。



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