- 平塚花澄
- 書店瑞鶴の店員。四大に護られている。
- 譲羽
- 少女人形に取り付いた木霊。花澄の擬似娘。
某日、丑の刻。
まっとうな人々は眠っていてしかるべき時間であるし、そうでなくとも
普通は家の中にいる筈の時間……なの、だが。
- 花澄
- 「こういう時に、一人って楽よね」
- 譲羽
- 『……ゆずは?(ちょっと心配)』
- 花澄
- 「ゆずは、付き合ってくれるもの」
あまりまっとうでない二人づれが歩いていたりする。
明日は、休み。
こんな日でないと安心して夜更かしが出来ない……というのが理由である。
- 譲羽
- 『花澄、かーすみっ』
- 花澄
- 「なあに?」
- 譲羽
- 「ぢい(天を指差す)」
小さな指を辿って、花澄が視線を上げる。
- 花澄
- 「……あ、オリオンだ」
- 譲羽
- 『おりおん?』
- 花澄
- 「三つ並んだ星、あれとそのまわりの四つ」
町中とはいえ、深夜。
夜の大気は空に向かって、深く澄んでいる。
- 花澄
- 「もうオリオンの季節なのねえ……早いなあ」
オリオンが見えはじめると、冬は近い。
- 花澄
- 「で、ほらゆず、あの下の明るい星、わかる?」
- 譲羽
- 『うん』
- 花澄
- 「あれがシリウス。天狼星。その横のがムルズィム、だったかな」
- 譲羽
- 『ふうん』
流石に満天の星、とはいかない。しかしその分、周囲の闇は深く、濃い。
- 花澄
- 「この星を見ずして終わることは、人として生まれた幸運をむざと捨てること……だったかな?」
- 譲羽
- 「ぢ?」
- 花澄
- 「野尻抱影さんって言う人の、文章。うろ憶えだけどね」
偶然家にあった、旧仮名遣いの本。ぼろぼろになるまで読んだのは
あれはまだ小学生の頃だったろうか。
シリウス。オリオン。
以来、口にする度、目の前が明るくなるような言葉である。
- 花澄
- 「……もすこし、見てから帰ろっか」
- 譲羽
- 「ぢい(賛成)」
腕の中でひょこひょこ動く木霊の少女を抱えて、夜道を歩いてゆく。
晩秋の、贅沢の一つかもしれない。
1997年晩秋の一幕。
毎度夜歩く親子です。
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