エピソード728『松の葉』


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エピソード728『松の葉』

登場人物

平塚花澄
書店瑞鶴店員。四大の護りのもとにある。
譲羽
少女人形にとりついた木霊。花澄の擬似娘。

本文

某日早朝、瑞鶴に向かう道すがら。

花澄
「そんなに昨日、雨、ひどかったかな」
譲羽
『葉っぱ、いっぱい落ちてるね』

濡れてお互い同士べたりとくっついた落葉が、道の脇にわだかまっている。
 街路樹の根元に盛り上がるように溜まっている落葉を、花澄はしばし立ち止まって眺めた。

花澄
「流れもあえぬ紅葉なりけり、よねえ」
譲羽
「ぢ?」
花澄
「なんでもない(笑)」

歩いてゆく途中に、松の木が並ぶ一角がある。
 細い松の葉が、道中に波を描いている。
 きしきしと、踏む足に妙な感覚が伝わってくる。

花澄
「……何だか、女の髪みたい」
譲羽
「ぢ?」
花澄
「細くって、波みたいで、でも抜け落ちたら邪魔なばっかりで、そのくせあちこちに絡み付いて、抜き取ろうとすると、きしきしいう」
譲羽
「……ぢい(何か、怖い)」

御免ね、と呟くと、花澄は不安げにしがみついてきた譲羽の頭を一つ撫でた。

花澄
「何かね、思いついた、だけ」

靴の裏に付いた松の葉を、とん、と一つ足踏みして払うと、
 花澄はまた歩き出した。

解説

1997年晩秋から初冬にかけての頃の、話です。
 松の葉って、なかなか腐らないですから。



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