某日、朝。瑞鶴。
もう八時はまわっているのに、天気のせいで薄暗い。
CDラジカセを手渡されて、花澄はきょとんとした。
何か思い当たったように、花澄は頷き、コンセントをさし込む。
アカペラのクリスマスソングが、狭い店内に広がってゆく。
曇りの空は低い。
硝子戸で区切られた閉鎖空間内に、和音が重なる。
さほど大きくも無い店内に、音が満ちる。
ゆっくり、ゆっくりと。
クリスマスを、染み込ませる作業。
ワインを一本買って、ケーキを買って、本を買って、一晩かけて、クリスマスを染み込ませる。
しんしんと。
星が見えれば重畳。見えずとも雲の流れるのを飽きもせず眺めれば、一晩などすぐ過ぎる。
そんな事いつでも出来るだろう、と、良く言われる。
が、そう言う人に限って、そんな事やったことも無い、という。
クリスマスを染み込ませる……狭い瑞鶴の中に。
クリスマスが沁み込む……自分の中に。
クリスマスまであと少し。
1997年、冬、クリスマス前の風景です。
日本ではすっかり、商業ベースに乗ってしまったクリスマスですが。
まあ……のんのんと過ごすも良しということで。