エピソード757『夜想』


目次


エピソード757『夜想』

登場人物

平塚花澄(ひらつか・かすみ)
書店瑞鶴店員。ぬいぐるみ作りが趣味。
譲羽(ゆずりは)
少女人形に取りついた木霊。花澄の擬似娘。

本文

時計はもうそろそろ明日の時刻を示そうとしている。
 いつもならば夜更かしの木霊も、今日ばかりはさっさと眠っている。
 ワインの瓶を抱えて、花澄はその横に座っている。

花澄
「……大家さんの一言は、説得力あったな(苦笑)」

サンタから服を借りられるほどのお友達が『そうだねえ、早く寝ないと、サンタさんも来ないかもしれないね』と言うのである。
 おかげで部屋に帰った途端、押し入れの戸に取りついて『お布団!』と要求してくれたものだ。
 
 ぐっすり眠り込んでいる譲羽の枕元には、サンタの格好をしたクマと、赤いミトンをはめた手乗り羊が並べてある。

花澄
「私が作ったって、分からないといいんだけど」

不思議なもので、身動きしない今でさえ、譲羽は既に人形に見えない。
 触れてみれば胡粉を塗った肌は、ひんやりと少し湿ったように冷たく、固いのだが。
 
 大きな金色の目の、無類に素直な少女。
 木霊。
 
 サンタは本当に居て、花澄や訪雪はそのお友達で……などと言うことを、この少女は一体いつまで信じ続けるのだろうか。
 
 幼児から幼女へ、そして恐らくは少女へ。
 これから先、どんな風に成長するのか。
 それを思うと、少し怖くもある。

花澄
「……木霊の反抗期、なんてのも、あるのかもね」

口に出してから、自分でおかしくて、くすりと笑う。
 小さな笑いに反応してか、譲羽が一つ寝返りを打った。ぢ、と小さく声が漏れる。
 花澄は手を伸ばして、頭をそっと撫でた。

時系列

1997年12月24日深夜。

解説

譲羽とクリスマス。
 よく考えれば、彼女にとって、はじめてのクリスマスだったわけですが…………花澄にとっても、有る意味でははじめてのクリスマスです。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部