- 平塚花澄(ひらつか・かすみ)
- 書店瑞鶴店員。
- 平塚英一(ひらつか・えいいち)
- 書店瑞鶴店長。花澄の兄
年末の瑞鶴、閉店後。
コーヒーを飲みながらの会話である。
- 店長
- 「で、花澄、お前今年は年末どうする」
- 花澄
- 「二、三日は帰るつもり」
- 店長
- 「へえ」
- 花澄
- 「昨日、父上御自らお電話を下さいまして(笑)」
- 店長
- 「すね齧ってた期間、長かったからなあ、お前(しみじみ)」
- 花澄
- 「まあね。定年前に、お礼言っとかないと」
今は兄のすねを齧っている、と、突っ込まれたら終わりなのだが。
- 店長
- 「親父も60か」
- 花澄
- 「早いね……本当に」
時の流れを区間で区切る。そのうちに、一日で区切るようになり、今では一週間、一ヶ月で区切るようになっている。
- 花澄
- 「……冥土の旅の、一里塚、か」
- 店長
- 「何だ、急に」
年々、確実に。
死というものが、近くなる。
- 花澄
- 「でも、死ぬって事見据えないと、いい加減に生きてしまうから、私にはやっぱりめでたいな」
- 店長
- 「何を急に、哲学やってる」
- 花澄
- 「哲学じゃないって(笑) ……それにこの一月は、私でも哲学者になるよ」
- 店長
- 「へえ」
- 花澄
- 「クリスマスと新年と誕生日が、一ヶ月内に詰まってるものね。嫌でも時間を区切る事になる」
区切られる節ごとに、行く先を見る事になる。
行く末は、一つ。
間にある霧が、だんだんと薄くなるだけの事。
- 店長
- 「で、死ぬのが怖いな、とか思うわけか?」
- 花澄
- 「というか……今までの生ってのが、薄っぺらいって思い知らされる」
生きうるのは、現在。
生きうるという奇跡を、ごく当たり前のようにこなしている自分。
その重みを本当には知らないこと。
- 店長
- 「じゃ、来年はそやって生きろ」
- 花澄
- 「……そだね」
年々、新年を祝う。
ひたひたと近づく結末に、少し焦って。
そしてもう一度、昂然と頭を上げて向かってゆく為に。
- 店長
- 「そしたら年末年始、二日くらいは休みにするか」
- 花澄
- 「そうだね」
1997年年の瀬
恐らく、世の中の普通よりもゆっくりと時を過ごしている平塚兄妹ですが。
やはり……年の区切りにはそれなりの感慨があるようです。
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