夜分遅く、花澄の部屋。
一通り片付けを終えて、花澄が溜息をつく。
出来るだけ文庫本を選んで買っているとはいえ、恐ろしいほどの増殖率である。
それでなくても古いアパートの畳は、歩く度にきしむのだ。
片付けの間、『おてつだいー』と騒ぐ譲羽を、なだめすかして天袋の中に入れておいたのだが。
諸手を挙げて賛成する木霊の少女を袋に入れて、花澄は外に出る。
夜半を過ぎる頃ともなると、流石に人通りが無い。
譲羽が何時の間にか袋から抜け出し、花澄の肩に移る。
と。
首を傾げると同時に、花澄の髪を一房引っ張る。
応じながらも、花澄は目を凝らす。
さわさわと、気配だけが感じられる。
さわさわと。
何だか気ぜわしくなるような。
とととと、と、走ってくるのは、せいぜい譲羽程度の背丈しかない、これは少年。
白絹の着物と袴をつけて、手には箒とちりとりを抱えて。
呟いたつもりが、走っていた少年が足を止めた。
言いかけた少年の後から、とととと、と、何人もの子供たちが駆けてくる。
やはり箒やちりとりを持つ者、そして大きな頭陀袋を持つ者。
こらさぼるな、いそがしいんだぞ、と、高い声がかかる。少年は慌てて走っていった。
穢れ。
昔読んだ文章を思い出す。
古事記だったか日本書紀だったか。
沢山のヒメだのヒコだのの神々が、繰り返し繰り返し呑み込んでは捨て、呑み込んでは捨て、ようよう遥か彼方に放つもの。
お前たちの穢れも、消す事が出来よう、と。
続けたのは誰だったか。
部屋の掃除をして。
年忘れの為の様々な行事を重ねて。
自分たちはその年を過ぎこしてゆく。
残ったものを、いつのまにか忘れて。
少年たちが駆けていった方角に一つ礼をして、花澄はまた歩き出した。
1997年、年の瀬。
大掃除、というならば。
年に溜まった穢れを清め……というところでしょうか。
吹利だと、結構これは大変そうだなあ。