エピソード782『ま、そんなもん』


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エピソード782『ま、そんなもん』

登場人物

平塚花澄(ひらつか・かすみ)
書店瑞鶴店員。おおぼけ。
平塚栄一(ひらつか・えいいち)
書店瑞鶴店長。そこそこぼけ。

本文

日曜、瑞鶴。
 開店前。

花澄
「おはようございます」
店長
「誕生日だったなあ」

途端に眉間にしわが入る花澄である。
 

花澄
「……人の顔見た途端、それ?」
店長
「人が親切にも、ああめでたいな、と思って」
花澄
「ないくせに」
店長
「めでたいとも。還暦までの折り返し地点まで来たじゃないか」
花澄
「……自分はもうとっくに折り返し地点をまわってるくせに」

三十歳は、正直結構重い。
 若造、という言葉でけなされる事はあっても、若造、という言葉で
 逃げる事は出来なくなる歳。

花澄
「……この程度で三十歳、っていうと、文句でそう」
店長
「文句は出んさ。ただ、相手にされんだけだろう」

叩き潰された後に、立ち直る事も……無くなっていくのかもしれない。

花澄
「……立つ、んだよね」
店長
「そう、言うよな」
花澄
「ぐらぐらしそう」
店長
「まあ、四十までは迷ってもいいみたいだから」
花澄
「……そこまで、お兄ちゃんは後何年?」
店長
「……やかましい」

結局は、全て未知数。

花澄
「今まで何人が三十歳になってきたとしても、私がなるのは、これが初めて、なんだなあ」
店長
「…………で?」
花澄
「覚悟、決めないとね」

真っ正面から受けて立つのか、何となく引きずられてゆくのか。

店長
「ま、そんなもんだろうな。……で、そら、この雑誌」
花澄
「あ、はいはい」

時系列

1998年1月18日

解説

要するに、花澄の誕生日エピソードなんですけど。
 人間、還暦の半分くらいになると、誕生日もそんなもん、ってところです。



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