- 小松訪雪
- 松蔭堂の店主。最近和菓子作成に凝っているらしい。
- 長沢凍雲
- 松蔭堂の先代。ご隠居。
- 狭淵美樹
- 医学部の学生。栄養状態恒常的に悪し。
- 狭淵麻樹
- 美樹の双子の妹。研修医。
- 平塚花澄
- 書店瑞鶴店員。
- 譲羽
- 少女人形にとりついた木霊。花澄の擬似娘。
某日、夕刻。
松蔭堂の茶の間には、五人と木霊一人が顔を揃えている。
- 訪雪
- 「つまらんもんですが……食べてみてください」
- 譲羽
- 「ぢい……(わあ……)」
生成り色の皿に載せられた、様々な花をかたどった和菓子。
同色の茶碗に、濃い緑色の茶の色が映える。
- 花澄
- 「これ、大家さんが作られたんですか?」
- 訪雪
- 「はあ」
- 花澄
- 「……凄いですね」
椿、薔薇、菖蒲、紫陽花、等等。
- 譲羽
- 「ぢいぢいぢい(綺麗なのっ(嬉々))」
- 訪雪
- 「どうぞ、召し上がって下さい」
頂きます、と、和する声。そして…………
- 凍雲
- (……甘い(汗))
砂糖に何かを加えただけならば、砂糖を越す甘さになる筈はないのだが。
……が。
…………かろく砂糖を凌駕するこの甘さ。
- 花澄
- 「……(この甘さ……あちらの国独特のものかと思ったけど、 和菓子でもこういうのあるのかぁ……) …………(お茶をすする)」
ああ、渋茶が美味しい……とも言えず。
何となく無言になってしまった花澄の横で。
- 麻樹
- 「もぐもぐもぐ(ふむ。栄養にはなる) 大家氏。もう一個頂こう(お茶をすする)」
- 訪雪
- 「ささ、もひとつ。(鳴呼、はじめておかわりしてくれる人に出会った(感涙))」
- 譲羽
- 「ぢいぢいっ(やっぱり大家さんってすごいなあ)」
感嘆の眼差し。
……沈黙は誤解の温床かもしれず。
- 美樹
- 「もぐ(……………) ずずずずずずずずずずずずずずず(お茶を一気のみ) えと、お茶をもう一杯と……あ、お菓子ももう一つ頂きましょう。(お手製ですし、残したら悪いですしね)」
- 訪雪
- 「はいはい、どうぞどうぞ(満面の笑み)」
お代わり、二人目、という事実に安堵しつつ、訪雪は自分の分を口に入れる。
- 訪雪
- 「ふむ(ぱく) ……(うげ甘い、儂んとこだけ砂糖が固まっとったか)」
現実認識が多少(?)偏っているような気が……
ってそもそも。
……作っている最中に、味見をしたのだろうか、大家氏は。
- 花澄
- 「……(お茶をゆっくり飲んで) …… (本当に綺麗なんだけど……ここまで甘くなかったらいいのに) ……あの、大家さん、お茶頂けますか?」
- 麻樹
- 「もぐもぐもぐ(これだけ甘いと携行食向きかもしれん。いや、水がないときは不向きか) ずずずず(茶の消費量が多くなるな) あ、もう一個頂こう」
お代わりをする狭淵兄妹をじっと見ていた譲羽が、一言。
- 譲羽
- 「……ぢいぢいっ?(花澄はおかわりしないの?)」
- 花澄
- 「え?(汗)」
そして追い討ちのように。
- 訪雪
- 「花澄さん、よかったらもうひとつ如何ですか(にこにこ)」
- 花澄
- 「え……(汗) ……あ、はい、頂きます(にこにこ)」
- 訪雪
- 「ちと作りすぎましてね、まだこんなにありますからご遠慮なく(重箱いっぱい)」
- 花澄
- 「あ、はあ……(汗) ……はい、有難うございます(ぺこり)」
- 譲羽
- 「ぢいぢい(あのね、花澄、これ、紫陽花みたいのがいいのっ)」
白餡に半透明の花を植え込んだ形の和菓子。
綺麗なのだが……つやつやと光る具合が。
- 花澄
- 「………(甘そう(汗))」
ぽつぽつと、花を一輪一輪ほぐすように食べはじめた向かいでは。
- 美樹
- 「(作りすぎたのでしたら仕方ないですねぇ) この、薔薇のかたちのを頂きましょう(お茶がもう少しいりますねぇ)」
- 花澄
- 「………(何でお代わり出来るんだろう)」
もしかしたら自分の食べているのが、格別甘いのだろうか、と、首をひねった、その矢先に。
- 凍雲
- 「ほ、訪雪……今日は、晩飯は要らんぞ(げふぅ)」
御隠居、渋茶を飲みすぎたらしい。
- 花澄
- (やっぱり甘いよね、これ……狭淵さんと大家さんって、余程の甘党なのかなあ)
思案も、声にはならない。
何とも……話の弾まないお茶である。
沈黙のうちに、菓子が減り、お茶がそれに倍する勢いで減る。
- 花澄
- 「………(しかし、あれだけあるということは、これ食べ終わると、次がくるのね……食べ終わると困るかも(汗)) ……(お茶をすする)」
- 美樹
- 「(これだけ食べれば夕食は要りませんから、助かりますなぁ) ずずずず………もぐもぐ 」
……胃を壊すぞ。
- 麻樹
- 「(ふむ。まだ余っているか……)」
- 麻樹のポケット
- 「電話だ電話だ電……」
- 麻樹
- 「はい。狭淵。……判った。今行く」
- 花澄
- 「……え? 麻樹さん、どちらに……(蒼白)」
- 麻樹
- 「うむ。病院の方でまた面倒が起こったみたいでな」
さっと立ち上がって。
御隠居はリタイヤ、残った面々でどうやってかたづけようか、と蒼白になった花澄に気付いた……わけでもないのだが。
- 麻樹
- 「という訳で今から病院にいくが…残った分、持って行って構わないか?」
- 花澄
- 「…………(安堵)」
- 訪雪
- 「ええ、どーぞどーぞ(二段重ねの重箱ぎっしり)」
- 麻樹
- 「(ふむ、これだけあれば看護婦も含めて一晩持つな) 有難く頂こう。では。(重箱持って走り去る)」
- 花澄
- 「………(た、助かったあ……) ……(お茶を飲み干して) ……ご馳走様でした(ぺこり)」
麻樹の差し入れを食べた看護婦さん達が、どのような感想を抱いたか、とか、あまりの砂糖の量の為、その後結構長いこと和菓子が無事に残っていた、とか、麻樹が携帯食代わりに重宝していたらしい、とか、色々な風聞が残ったものだが……取りあえず、松蔭堂の和菓子はその後も健在(?)らしい。
1998年、夏
もともと譲羽に頼まれて作り出した訪雪さんの和菓子ですが……
なかなか及第点に届かないようで。
連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部