長月も去るとて、流石に涼しい風の吹き始めた頃。
瑞鶴の表で、店長が雑誌を並べている。
並べた手元を、微かに風がかすめる。
すう、と雑誌の上を手で撫でる。
薄い空気の皮膜が、雑誌を包む。
今日は、唯一の店員が休暇を取っている。
故に……閑古鳥がいつもより盛大に鳴いている。
店内の片隅にある時計は、二時半を示している。
学校が終わる4時頃になると、客も増えるのだが。
どこからか一筋差し込む光の中で、埃がちらちらと舞っているのを、店長は座り込んで眺めている。
光の筋を辿るとも無しに辿って、硝子戸まで行き着いた時。
ぶちゃんとした、白地に大きな黒の斑点の猫が、入り口のマットの上に座り込んでいる。
見やった店長を堂々と見返した猫は、一つ欠伸をして、そっぽを向いた。
お客さんの邪魔だから退け、と、言うのも莫迦らしい。
だからぼんやり眺めている。
閑古鳥と天使が、手を組んで瑞鶴内を飛び回っている。
視界がセピアの色に染まる。
しいん、と…………
時計の短針が、かちり、と歩を進める。
その音が、やけに響く。
しいん、と…………
たんたんと、店に近づいてくる足音。
他人事のように、それを耳にする……
ふうっと、猫が息を吐いて立ち上がった。
お愛想のように一声鳴くと、猫はのそのそと河岸を変える。
その声に、ゆるゆると店長は覚醒する。
からからと、硝子戸が開いて。
1998年9月下旬
書店瑞鶴の、いつもの風景です。
瑞鶴の猫の、初登場エピソードでもあります。