- 御剣司(みつるぎ・つかさ)
- トライの社員2人のうちの一人。電操士。
- 社長
- ゲーム会社トライの社長。大学を出て会社を設立したため、
まだ若い。
- 先輩
- 専門学校の先輩。社長とは高校の同期。グラフィック・
サウンドを担当。
- 堀川祐司(ほりかわ・ゆうじ)
- 帯電体質の歴史学者。
- 社長
- 「司。飯行くぞ」
- 司
- (キーボードを叩きながら)
「あ、先輩、社長、先行っててください」
- 先輩
- 「あ? どうした?」
- 司
- 「プログラムのバグが取れなくって、もう少しなんでやっ
ちゃいます」
- 社長
- 「そうか、まかせた」(先輩とともに出てゆく)
あまり広くない事務所に、司が一人だけ。
- 司
- (バグのあるまま、実行型ファイルとしてFD(フロッピィ
ディスク)に保存する)「さすがに、先輩たちの前では出来ないもんなぁ」
FDを手に持ち、目を閉じる。)
- 先輩
- (バタン!)「司!」
- 司
- (ビクッ。パシィ!)「は、はい!(振り向く)」
- 先輩
- 「カギ、頼むな! 1時間で戻る」
- 司
- 「分かりました」
- 先輩
- 「じゃあ」(バタン)
- 司
- 「ふぅー。びっくり。……あ」(手の中のFDをみる)
「やっちゃったか?」(FDを差し込み、中身を見る)
中身は、もはや意味のないでたらめな数字となっていた。
- 司
- 「あーあ、まだまだ集中力が足りないな」
再び、FDを取り出して目をつぶるが、すぐにあきらめてFDを机の上に置く。
- 司
- 「だめだ。疲れた。ゲーセンにでも行って、頭ひやそ」
カギをかけ、トライの事務所を出る。)
- 司
- 「ふう。ようやくついた。やっぱあの交差点を右か」
司が会社のビルを出てから50分。食事の時間を含めても、30分程は迷っていた事になる。
- 司
- 「(アナログ時計を見て) あと10分しかないか。ゲームの
確認だけして帰ろう」
扉を開けた瞬間、ものすごい騒音。十数種のゲーム機の効果音やBGMが交じり合っている。
- 司
- 「うわっ!」
突然、司の頭に騒音以上の物が流れ込んで来る。普段の仕事で感じている数十倍の膨大な量のゲームのデータ。そしてその意志。
破壊、戦闘、落下、射撃、使命、生、死。
- 司
- 「ま、まずい……」(扉を手におき、閉めようとする)
- SE
- パシィ!(扉の上にある看板の蛍光燈が破裂する)
- 司
- 「せい……ぎょ、でき……な……い」
そのまま、通りに出て、ゲーセンから離れる。
- 男
- (司と肩が振れる)「痛っ!」(司をにらむ)
- 司
- 「あ……」
何も言わず、走り出す司。人のいないところを探すが、駅前に人のいない所など無い。司は、逃げ込むように裏路地に入り込んだ。
- 祐司
- 「……?」
吹利市内の目抜き通りを買い物がてら散策していた堀川祐司は、突然妙な気配を感じて足を止めた。
- 祐司
- (気のせい……? いや……)
そのまま何かに耳をすますように辺りに感覚を漂わせていたが、ふと何やら思いついたように近くの公衆電話に歩み寄った。
- SE
- パ、ポ、パ、ペ、ポ、プ、プ、ピ、ペ、パ、ポ
- 祐司
- 「……あぁ、もしもし。伽耶子? お兄さんですが。今ど
こ? ……田辺? そーかー……いや、今吹利やねんけどな。
伽耶かと思うような“感触”があってなぁ。……んー、まぁ、見に行ってみるわ。気にしやんといて。そしたらな。ばいばい」
受話器を置き、再度集中する。“その存在”の位置は、今度は比較的容易に特定できた。先ほどは動いていたのだ。祐司にとってそんな存在は、実の妹の伽耶子以外にお目にかかったことはない……高圧電線級の電磁場を抱えながら動き回るような存在は。
- 祐司
- 「何かの事故……で済む話のわけがないわなぁ」
君子危うきに近寄らず。
あるいは、虎穴に入らずんば虎児を得ず。
さて、どちらを選ぶべきか?
- 祐司
- 「……まぁ、見に行くだけならいいやろ」
この場合、後者の興味の方が勝ったようである。祐司は手回りの持ち物の絶縁を確認すると、“その存在”のいる方へと向かった。
一方。
- 司
- (全身の痛みに耐えながら)「おちつけ……おち……つけ」
- 祐司
- 「この辺、かな? ……?!」
祐司は自分の目を疑った。いや、自分の感覚を疑った。
あるいは、少なからず期待していたかも知れない。
“その存在”が、人間だったとは!
- 司
- 「あ……」
- 祐司
- 「君か。すごい電磁場を出してるのは……」(近づこうと
する)
- 司
- 「来るな!」
- 祐司
- 「?」
- 司
- 「危ないから……来ないで、下さい」
- 祐司
- 「何が、危ないんかな?」(一歩近づく)
- 司
- 「でん……き……が……うわっ!」
- SE
- バリッ!(司の全身から一瞬だけ放電。司の服が焦げる)
- 祐司
- 「くっ!(一瞬立ち止まる) ……最初がこういう出会いと
は(苦笑) まあ、雷に比べたら、たいしたことあらへんな」
平然と近寄る)
- 司
- 「な……ぜ?」(放電中)
- 祐司
- 「体質なんや。たぶん、君と同じカンジやろ」(手をかざす)
- 司
- 「な?」
- 祐司
- 「とりあえず、放電はとめとかなぁな」
司の身体に祐司の指先が一瞬触れたとき、司の体を走っていた電気が、ものすごい勢いで祐司の身体に吸い取られてゆく。大電力を発している司の身体も、これに抵抗して電気を維持するには、かえって暴走状態があだになった。
- 司
- 「力が、抜ける……」
- 祐司
- 「たいした量や。伽耶以上か?」
- 司
- 「……」(気絶)
- 祐司
- 「ようやくおさまったか。やれやれ……」
- 司
- 「……」(気絶中)
- 祐司
- 「こりゃあ、ほっとけへんわなぁ」
路地裏で司が気絶してから、数分が経っていた。祐司は、彼の傍らに座り、本を繰っている。
- 司
- 「ん……」(目を覚ます)
- 祐司
- 「あ、気ぃつきましたか?」
- 司
- 「あ……えーっと?」
- 祐司
- 「覚えてますか? もう、暴走はしてへんみたいやけど……
……」
- 司
- 「あ!(自分のからだを確かめる)俺……」(立ち上が
る)
- 祐司
- 「大丈夫みたいですね」
- 司
- 「あ……貴方が助けくれたんですね?」
- 祐司
- 「覚えてます?」
- 司
- 「はい。記憶はあります。どうもご迷惑をおかけしまし
た」
- 祐司
- 「いえいえ、私が勝手に首突っ込んだだけですから」
- 司
- 「あ、僕、御剣 司っていいます」(名刺を取り出そうと
する)
- 祐司
- 「ああ、堀川 祐司といいます。紅雀院大で講師をやって
ます」(名刺を出す)
- 司
- (名刺を出して)「あ……」
司の手の中には、先程の放電現象によって黒焦げになった名刺があった。
- 祐司
- 「(くすっ) 黒焦げですね」
- 司
- 「すみません……(名刺を受け取る)」
- 祐司
- 「……(どうしよ、根掘り葉掘り聞くわけにもいかんし
なぁ)」
- 司
- 「(名刺を見ながら) 堀川祐司さん」
- 祐司
- 「はい?」
- 司
- 「……少しお時間よろしいですか?」(じぃっ)
- 祐司
- 「ええ(よかった、話してくれはるみたいやわ)」
- 司
- 「じゃあ、どこか…… (腹がなる)……あ……」
- 祐司
- 「あはは、じゃあ飯の食えるとこにでも行きますか」(歩
き出す)
- 司
- 「はい(おかしいな? 昼飯食ったよな……昼休み!)」
既に、ゲーセンに行った時点で10分ほどしか無かった昼休みは、完全に終っている。
- 司
- 「すみません。会社に電話を……(携帯電話を取り出す)」
- 祐司
- 「あ、ええ……(壊れとるんやないかな)」
路地から出たところで、携帯電話を手にとり、操作をするが、携帯は何も応答しない。
- 司
- 「あれ?」
- 祐司
- 「壊れとるんや無いですか? すごい電磁場やったし」
- 司
- 「そうですよね。はぁー(ため息)。公衆電話に行ってきま
す」
- 祐司
- 「ええ」
公衆電話で会社に電話をかける。電話は、1回鳴っただけでつながった。
- 社長
- 「はい。トライ製作事務所です」
- 司
- 「あ、司です」
- 社長
- 「おう、司か。どうする?」
- 司
- 「どうするって……。早退しても良いですか?」
- 社長
- 「一人なのか?」
- 司
- 「? 。何のことです?」
- 社長
- 「一人なら、早退を許すわけにはいかない。誰かと一緒な
のか?」
- 司
- 「はい。……知り合いと一緒です」
- 社長
- 「納期を遅らす。気にするな」
- 司
- 「駄目です! 納期は守ります。明日にはあげますよ」
- 社長
- 「……分かった。任せる」
- 司
- 「(なんなんだ?) はい。それじゃあ、お先に失礼します」
電話をおろし、祐司の元へと戻って来る。今は、社長の不可解な言動を気にしている場合ではない。
- 司
- 「行きましょうか……って、僕、あまりこの辺の事知らな
いんですよ」
- 祐司
- 「まあ、駅前に出たら、なんかあるでしょ」
駅前のファミリーレストランに入る。平日の昼過ぎだけあって、あまり客はいない。『マリカ』。東京では聞かない店名だった。
- 店員
- 「いらっしゃいませ〜! 2名様でよろしいですか?」
- 司
- 「あ、はい」
- 店員
- 「お煙草は、お吸いになられますか?」
- 司
- 「僕は吸わないけど……(祐司を見る)」
- 祐司
- 「いや、僕も吸いません」
- 店員
- 「ご案内致します。こちらへどうぞ」
窓際の席へ通される。店内は日差しが差し込み、明るく、温かい。
- 司
- 「なんか、すごい制服ですね……スカート短いし……リボ
ンついてるし」
- 祐司
- 「ええ……」
目のやり場に困り(?)ながら、二人は注文を済ませた。しばらくして、料理が運ばれて来る。司はランチを頼んだが、祐司はコーヒーだけだ。
しばし、無言で箸を動かす司。祐司は、黙って待っていた。
- 司
- 「すみません。さっき食べたばかりだったんですが」
- 祐司
- 「いや、落ち着きましたか?」
- 司
- 「はい……じゃあ、改めて、有り難うございました」
- 祐司
- 「いえいえ……でも、どうしてあんなふうに?」
- 司
- 「実は……」
しばらくの沈黙が流れる。
祐司は、ただじっと待っていた。今までの事を思い返しながら。伽耶子が生まれる前の自分を、目の前の青年に重ねる。
司は、今までの事を思い出していた。事務所の崩壊。異能の覚醒。恋人との離別。彼は、東京から逃げてきたのだ。
- 司
- 「変な力だと……思いますか?」
- 祐司
- 「そんなことはありません。私も、他人の異能力を見るの
は初めてですけどね」
- 司
- 「数ヶ月前に、ビルの電流を受けまして、それからなんで
す」
- 祐司
- 「(生まれつきやないんか……)」
- 司
- 「まあ、フロッピィのデータやマシン語が理解できるよう
になりましたし、最初は戸惑いましたけど、今は何とか制御出来るようにしたんです」
- 祐司
- 「わずか数ヶ月で……それは大した物だ。しかも、データ
の内容まで読めるなんて」
- 司
- 「ゲーセンが、電子機器の巣くつだと言う事を、すっかり
忘れてて、軽い気持ちで心構えもせずにデータを受け取ってしまって……」
- 祐司
- 「それで……」
- 司
- 「ええ、元々、びっくりしたりすると静電気を発してしま
うので、それが暴走したんだと思います」
- 祐司
- 「なるほどなぁ」
- 司
- 「本当に、有り難うございました」
- 祐司
- 「いやいや、こちらこそ……私以外に、同じような能力者
がいるとは思ってなかったんで、これからも、よろしくお願いしますわ」
- 司
- 「あ、はい。ところで、堀川さんの能力って、僕の能力と
若干違うみたいですけど……」
- 祐司
- 「ええ、自分の体内の電位を変化させる事で、外部にも影
響を与える事が出来るんですわ」
- 司
- 「何と無く分かります。ものすごい電力を体内に溜めてお
けるんですね。しかも、外部への漏れは完全にシャットアウトしてる」
- 祐司
- 「そこまで分かるんですか?」
- 司
- 「はい。フロッピィディスクの磁気パターンも読めますか
ら」
彼らの会話は、夕日がビルにかかるまで続いた。今まで求めていた同類が、目の前にいる。そして、今まで話せなかった自分の能力を曇らぬ目で聞いてくれる。
- 祐司
- 「お、そろそろ帰らんと」
- 司
- 「そうですか。じゃあ、ここは僕が出しますよ」
- 祐司
- 「いや、そういうわけにもいかんです」
- 司
- 「助けてもらったわけですし……(財布を取り出す)」
たしか、1万円札が数枚入っていたはずだ。今日、ゲームソフトを買う予定だったのだから。
- 司
- 「(財布の中身を見る)……」
- 祐司
- 「……(どうしたんや? 固まったで)……御剣さん?」
- 司
- 「あ……すいません。お金貸してください……(涙)」
そう言って、彼の差し出した財布の中には、黒焦げになったお札の残骸が残っているだけだった……。
御剣司の登場エピソード。電気操作系能力者同士の出会いという感じになっております。
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