エピソード1006『吹利という街』


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エピソード1006『吹利という街』

登場人物

御剣司(みつるぎ・つかさ)
 電操士。最近吹利に越してきた。
前野浩(まえの・ひろし)
 人間コンバータ。
天方狼介(あまがた・ろうすけ)
 くらい過去を持つらしい具象化能力者。
蒼月かける(あおつき・かける)
 ねこみみふぇちな光使い。

ベーカリー楠

ベーカリーでのひととき、司は暇があるとここにきていた。
 珍しく人の少ない日曜日。いつもいるメンバーは、何やら怪しげな専門雑誌を読んでいるかける、眠っている狼介、前野。ふと、前野浩と目が合う。

前野
「ところで、どうです? 此処には慣れましたか?」
SE
 ゴンッ
狼介
「……」(テーブルに頭をぶつける)
「そう……ですね。昔を思い出しますよ」
かける
「……(^^;」(狼介を見る)
前野
「むかし?」
狼介
「……Zzz……」(それでも寝ている)
「高校のとき、放送委員でね、こういう雰囲気だったんで すよ」

そこまでいって、自嘲の笑みを浮かべる。

「昔を懐かしむなんて、年取ったなぁ……(苦笑)」
前野
「あぁ、いや……吹利には……。って事だったんです が……(苦笑)」

おおぼけである。先ほどまでコーヒーを飲んで雰囲気に浸っていたせいか、質問内容に疑いもせずにベーカリーのことだと決め付けていた。

「あ……そうですか(苦笑)こいつは失礼」

またも自嘲。

「そうだな……何とか、迷わないでここにこれるようにな りましたよ」

方向音痴の彼にとって、同じ所に1度や2度ほど到着ところで、道を覚えるわけではない。記憶力が無いわけではないが、記憶している方向が違うのである。

前野
「すぐに慣れますよ(笑)」
「社長が……あ、うちの会社の社長がですね。吹利に事務 所を移したのも、なんとなく分かる気がします」
前野
「へぇ……」
「そうだな……不思議な土地ですね。吹利って」
狼介
「……」
前野
「そうですな」
「事故があってからの孤独感とか、焦燥感とかは、今は感 じてません。それって『吹利に慣れた』って事なのかな?」
前野
「じゃないですかね(笑)」 「“風都”って、聞いた事在ります?」
「……いえ」
前野
「吹利の雅号でしてね。風の都と書くんです」
「風都……何か意味があるんですか? 
狼介
「……」(うつ伏せの状態で微動だにしない)
前野
「さぁ……? ただ、風が集うと考えると、なんとなくしっ くりきませんか(笑)」
かける
(ひまつぶしに某専門誌を読んでる)
「はい。たしかに。かぜ……か。風が集まる都……なんで すね。吹利は」
前野
「きっと、慣れるのは早いですよ」
「”慣れるのは”?」
前野
「あっ、別に意味はないですから、気にしないでください」
「そうですか。どうも、深く考えちゃうんですよね。悪い 癖だな……」
前野
「深く考えすぎない方が、身のためですよ(笑)」
「はい」

吹利は風都、狭間から吹く風は、吹利に集まる……。司もまた、風に乗って集まった一人なのかもしれない。

解説

狭間06の企画そのものに慣れつつあった心境と重ね合わせての、一話。



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