エピソード1010『野菜炒めの調理法』


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エピソード1010『野菜炒めの調理法』

登場人物

布施美都(ふせ・みと)
過去の記憶、記録の無い少女。グリーングラスの居候。
紫苑(しおん)
金属生命体。最近芽生えた「感情」に戸惑っている。

昼食前、グリーングラス

美都
「おわったぁ……。とりあえず休憩」

店番をしていた美都が、背中までの髪を束ね、汗を拭きながら台所に現れる。これから自分の昼食を作らねばならないのだ。

紫苑
「♪〜(じゃじゃー)」

鮮やかな手つきで炒め物をしている紫苑がいた。当然、ネコの姿でなく、美形の男性体を取っている。普段は美都が作るわけだが、手つきが明らかに違う。
 横から見ていても、十分さまになっているのだ。

美都
「紫苑ちゃん……うまいね……」
紫苑
「ええ、料理するのって好きですから」
美都
「……あたし……そのフライパンで物飛ばすのやりたい」

発現は興味本位のようだが、目は真剣である。

美都
「紫苑ちゃん、教えて!」
紫苑
「ええ、いいですよ、それじゃ交代しましょう」
美都
「うん……」(フライパンを受け取る)
 
 そういって、フライパンを受け取る美都。真剣な顔をして炒め始める。
美都
(ぢゃー)
紫苑
「こう、手だけでなく、腕全体を使ってやるんです」

後から美都の手を取ってレクチャーする紫苑。美都の手を包むように自分の手を置き、フライパンを動かす。

美都
「うん、分かった……えいっ」(いきなりフライパンを跳ね上げる)

中の野菜が飛び散らなかったのは、幸運といえるだろう。

紫苑
「それではダメです、もっと腕全体を使って……こう!です」

紫苑の手を借り、フライパンの中の野菜は、奇麗に弧をを描いて直火を浴び、またフライパンへと戻る。

美都
「やったぁ……」
紫苑
「うまいですよ、その調子です」

振り向く美都。ちょうど、背中から紫苑にぴったりと寄り添われていることに、たった今気がついたらしい。

美都
「あ……紫苑……ちゃん?(どきどき)」
紫苑
「どうかしましたか?(顔をのぞき込む)」
美都
「……」

そのまま動かないため、結果的に見詰め合う格好になってしまう。
 美形の男女が見詰め合っている様は、横から見ても絵になるのだが、場所と時期が悪い。
 台所に、野菜の焼ける音とこげるにおいだけが漂っていた。

美都
「なんか……焦げ臭い?」
紫苑
「あ、ああ焦げてますよ」
美都
「ええっ……ああああぁぁぁぁ……。また……失敗したぁ……もうっ、紫苑ちゃんのせいだからねっ!」

ただの八つ当たりをする美都。体を離し、こげた野菜を皿に移す。……まあ、食べられるところが無くも無い。

紫苑
「え、私のせいですか?すみません」

彼が冗談を理解するのには、もう少し時間がかかりそうであった。
 美都は、照れと自己嫌悪で、それからしばらく紫苑の顔を見れなかった。

美都
「……ばか……」

解説

料理の得意でない美都が、実は料理どころか、家事全般得意な紫苑に料理を教わる話。



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