店番をしていた美都が、背中までの髪を束ね、汗を拭きながら台所に現れる。これから自分の昼食を作らねばならないのだ。
鮮やかな手つきで炒め物をしている紫苑がいた。当然、ネコの姿でなく、美形の男性体を取っている。普段は美都が作るわけだが、手つきが明らかに違う。
横から見ていても、十分さまになっているのだ。
発現は興味本位のようだが、目は真剣である。
後から美都の手を取ってレクチャーする紫苑。美都の手を包むように自分の手を置き、フライパンを動かす。
中の野菜が飛び散らなかったのは、幸運といえるだろう。
紫苑の手を借り、フライパンの中の野菜は、奇麗に弧をを描いて直火を浴び、またフライパンへと戻る。
振り向く美都。ちょうど、背中から紫苑にぴったりと寄り添われていることに、たった今気がついたらしい。
そのまま動かないため、結果的に見詰め合う格好になってしまう。
美形の男女が見詰め合っている様は、横から見ても絵になるのだが、場所と時期が悪い。
台所に、野菜の焼ける音とこげるにおいだけが漂っていた。
ただの八つ当たりをする美都。体を離し、こげた野菜を皿に移す。……まあ、食べられるところが無くも無い。
彼が冗談を理解するのには、もう少し時間がかかりそうであった。
美都は、照れと自己嫌悪で、それからしばらく紫苑の顔を見れなかった。
料理の得意でない美都が、実は料理どころか、家事全般得意な紫苑に料理を教わる話。