エピソード1015『グランドクルス』


目次


エピソード1015『グランドクルス』

登場人物

御剣司(みつるぎ・つかさ)
今年になって吹利市に越してきた青年。電気を操る異能者。

ある会社でのこと

司が派遣に出ている情報サービス会社の昼休み。

社員1
「結局、大予言はこなかったなぁ……」
社員2
「いや、どうやら旧暦扱いらしくて、8月に来るらしいですよ」
社員1
「あ、そうなん?」
社員2
「ええ、しかも、8月11日はグランドクロスって言う特別な日なんだそうです」
社員1
「それ……どこぞの少年誌の受け売り?」
社員2
「ええ……まあ」

こんな会話を、昼休みの時間に何とはなしに聞いていた。

「(グランドクロスねぇ……なんかあるのかな……)」

不安はない。大予言など信じていないし、惑星が十字に並んだところでどうにかなるわけではないのだから。

「どうせ、その日も仕事なんだよなぁ……」

盆と正月くらいは休みたい……と言うが、今年は盆も、来年正月も休めそうにない。
 情報サービス業の年末は、休んでいる暇はないのだ。

8月10日、テレホタイム

吹利市にサーバがあると言う事で、たびたび顔を出しているIRCサーバに接続を行う。
 最近、会話が途切れがちであるが、身のある話が出る事もあるのだ。

「さて……メールチェックを先にするか……」

IRCにつなぎ、簡単な挨拶をした後にメールのチェックを始める。
 数十件のメールだが、それほど1件毎の行数は多くないため、読むのに時間はかからない。
 IRCでのニックは、“katana(カタナ)”我ながら、安直だとは思う。
 数十分後、会話が動き始めた。


23:55:40 <#trpg:A> ほう、今は流星群の季節なのか…
23:56:38 <#trpg:ft> ペルセウス流星群だっけ
23:57:16 <#trpg:A> です。 ちょうど今日明日辺りが見頃だそうで。
23:58:45 <#trpg:A> よく見えるのが明け方らしいので、たぶん見ることは
          ないと思いますけど…(笑)
23:59:34 <#trpg:A> …ってそれ以前に雲が出てるか。
1999/08/11 00:00:00
00:00:29 <#trpg:katana> #明日はグランドクロスですな(笑)
00:00:40 <#trpg:B> あしたか〜
00:00:44 <#trpg:katana> #さらに、誕生日なのです(笑)
00:01:28 <#trpg:A> おお。それはおめでとうございます。
00:01:32 <#trpg:C> おー
00:01:40 <#trpg:katana> どもども
00:01:47 <#trpg:katana> って、もう今日やん(笑)
00:01:47 <#trpg:D> おめでとうです(パチパチパチパチ)
00:01:56 <#trpg:B> おめでとうですい(ぱちぱち)
00:02:30 <#trpg:ft> めでたく地球の封印が解ける日だ(地球伝承爆)
00:03:59 <#trpg:E> クカカカカ
00:04:01 <#trpg:katana> ええ、なんか、特別らしいです(笑)

「あっ!」

体の中で、何か熱いものが沸き上がる。

「(な……なんだ?)」

この感覚、以前能力を暴走させた時の状態に似ているが、能力が勝手に発動する事はない。
 むしろ感覚はすっきりしている。体温が上昇しているためか、汗は出ているが……。

「あれ?」

ふ……と、パソコンに目をむける。線のつながり、電子の流れすら明確に読み取れ、一定量の情報が電話線を伝って流れて行くのまで見て取れた。

「能力が……上がっている?」

電話線を伝い、先へ進む。現実の感覚はそのままに、別に芽生えた意識がネット内を動き回る。
 会社のアドレスの方へ向かう。いつもはファイアウォールにはばまれているのだが……。

「熱くはない……行けそうだ……」

いとも簡単に突破する。自分のパソコンの能力だけでは不可能な行為だ。そこから先は、会社のLAN環境。電源の落ちたパソコンだけがある筈……。

「電源ON」

ヴンッ
 自分の電源を遠隔操作で入れる。これで、パソコン内のデータを自由に……。

「何で、家に居て会社の仕事しなきゃ行けないんだ?」

我に返る。明日会社に行けば、嫌でもしなければならない仕事である。しかも、作業量は少なすぎて暇を極めているのだ。

「(馬鹿らしい……やめやめ)」

他のところに足跡を残さぬように戻って来る。
 時計を見ると、ネットに意識の一部を飛ばしてから1分と経っていない。

「さて、そろそろ寝よう」
00:26:47 <#trpg:katana> #さて、明日もあるので、そろそろおいとまします。00:26:57 ! katana (お先に失礼します〜)
 軽い挨拶を終わらせ、電源を切る。

「ふぅ……」

ベッドの隣にパソコンがあるため、電源を切って横になればそのまま眠れてしまう。

「グランドクルスかぁ……なんかあるのかもな……」

少し、考えを改めた司であった。

解説

1999年8月11日、御剣司の誕生日なのだが、その日は「グランドクルス」という特別な日であった。
 何か起こるという噂を信じていない司であったが、能力の劇的増幅を体験する。
 
 ちなみに接続していたサーバは、狭間世界におけるTRPG.NETです。



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