司が派遣に出ている情報サービス会社の昼休み。
こんな会話を、昼休みの時間に何とはなしに聞いていた。
不安はない。大予言など信じていないし、惑星が十字に並んだところでどうにかなるわけではないのだから。
盆と正月くらいは休みたい……と言うが、今年は盆も、来年正月も休めそうにない。
情報サービス業の年末は、休んでいる暇はないのだ。
吹利市にサーバがあると言う事で、たびたび顔を出しているIRCサーバに接続を行う。
最近、会話が途切れがちであるが、身のある話が出る事もあるのだ。
IRCにつなぎ、簡単な挨拶をした後にメールのチェックを始める。
数十件のメールだが、それほど1件毎の行数は多くないため、読むのに時間はかからない。
IRCでのニックは、“katana(カタナ)”我ながら、安直だとは思う。
数十分後、会話が動き始めた。
23:55:40 <#trpg:A> ほう、今は流星群の季節なのか… 23:56:38 <#trpg:ft> ペルセウス流星群だっけ 23:57:16 <#trpg:A> です。 ちょうど今日明日辺りが見頃だそうで。 23:58:45 <#trpg:A> よく見えるのが明け方らしいので、たぶん見ることは ないと思いますけど…(笑) 23:59:34 <#trpg:A> …ってそれ以前に雲が出てるか。 1999/08/11 00:00:00 00:00:29 <#trpg:katana> #明日はグランドクロスですな(笑) 00:00:40 <#trpg:B> あしたか〜 00:00:44 <#trpg:katana> #さらに、誕生日なのです(笑) 00:01:28 <#trpg:A> おお。それはおめでとうございます。 00:01:32 <#trpg:C> おー 00:01:40 <#trpg:katana> どもども 00:01:47 <#trpg:katana> って、もう今日やん(笑) 00:01:47 <#trpg:D> おめでとうです(パチパチパチパチ) 00:01:56 <#trpg:B> おめでとうですい(ぱちぱち) 00:02:30 <#trpg:ft> めでたく地球の封印が解ける日だ(地球伝承爆) 00:03:59 <#trpg:E> クカカカカ 00:04:01 <#trpg:katana> ええ、なんか、特別らしいです(笑)
体の中で、何か熱いものが沸き上がる。
この感覚、以前能力を暴走させた時の状態に似ているが、能力が勝手に発動する事はない。
むしろ感覚はすっきりしている。体温が上昇しているためか、汗は出ているが……。
ふ……と、パソコンに目をむける。線のつながり、電子の流れすら明確に読み取れ、一定量の情報が電話線を伝って流れて行くのまで見て取れた。
電話線を伝い、先へ進む。現実の感覚はそのままに、別に芽生えた意識がネット内を動き回る。
会社のアドレスの方へ向かう。いつもはファイアウォールにはばまれているのだが……。
いとも簡単に突破する。自分のパソコンの能力だけでは不可能な行為だ。そこから先は、会社のLAN環境。電源の落ちたパソコンだけがある筈……。
ヴンッ
自分の電源を遠隔操作で入れる。これで、パソコン内のデータを自由に……。
我に返る。明日会社に行けば、嫌でもしなければならない仕事である。しかも、作業量は少なすぎて暇を極めているのだ。
他のところに足跡を残さぬように戻って来る。
時計を見ると、ネットに意識の一部を飛ばしてから1分と経っていない。
ベッドの隣にパソコンがあるため、電源を切って横になればそのまま眠れてしまう。
少し、考えを改めた司であった。
1999年8月11日、御剣司の誕生日なのだが、その日は「グランドクルス」という特別な日であった。
何か起こるという噂を信じていない司であったが、能力の劇的増幅を体験する。
ちなみに接続していたサーバは、狭間世界におけるTRPG.NETです。