エピソード1020『筒抜け』


目次


エピソード1020『筒抜け』

登場人物

富良名 裕也 (ふらな・ゆうや)
  通称フラナ。大学に入学したが、どう見ても小中学生にしか見えない。
平塚 花澄 (ひらつか・かすみ)
四大の力を従え「春の結界」を身にまとう女性。
書店「瑞鶴」の店番にして欠食児童達の守護者、でもある。
堀川 祐司 (ほりかわ・ゆうじ)
静電気を操る、生きた電源装置。
紅雀院大学の考古学教室に助手で勤務。

本文

某日、瑞鶴。
 明るい音と共に、硝子戸が開く。
 入り口の猫がよいせ、と立ちあがる。

花澄
「いらっしゃいませ……ってあら(笑)」
フラナ
「お久しぶりっ(にぱっ)」

相変わらずの笑顔に、花澄もやはり笑顔で応じる。

花澄
「ほんとに……大学合格、おめでとうございます(にこにこ)」
フラナ
「ありがとーございますっ(ぺこっ)」

そういえば、と店長が少し驚いたようにフラナを見る。
 フラナのほうは……気がついていない。

花澄
「それでフラナ君、今、家から通ってるの?」
フラナ
「大学?ううん、アパートに一人暮しだよっ」
花澄
「…………え?(途端に心配顔)」

一十。狭淵美樹。八神敦。
 食糧難を如実に表す人々が、男子大学生一人暮し組に多すぎるのである。

花澄
「フラナ君」
フラナ
「なに?」
花澄
「あのね、御飯に困ったらいつでも来てね。こちら10時までお店開いてるからその後かも知れないけど……でも必ず何かご馳走するから(真剣っ)」
フラナ
「うんっ。花澄さんありがとう(にこっ)」
店長
「それで……富良名君はどこの大学だったっけ」
フラナ
「紅雀院大学文学部!」
店長
「へえ……で、その中の?」
フラナ
「国史学科」
花澄
「面白そうね……授業はどう?」
フラナ
「面白いよ。でも、一時限からあるとやっぱり眠いなー」
花澄
「それは寝たら駄目よ。先生だって眠いの我慢してるんだから(まじ)」
フラナ
「うん。それに一時限の授業面白いし(^^)」
花澄
「どんな?近代史か何か?」
フラナ
「ううん、堀川先生の考古学」
花澄
「……え?堀川?」
フラナ
「堀川……えと、祐司先生。まだ若い先生だよっ」

ホリカワユウジ……堀川祐司。
 漢字変換はごく容易だった。
 
 音による記憶力はろくでもないのだが、一旦活字と化した情報についての記憶能力は並み以上をゆく。
 本の予約をする際に書いてもらった名前は、そうそう忘れるものではない。
 まして、本が本である。
 すっと視線を店長に移すと、向こうも気がついていたらしく、微かに眉を動かした。

花澄
「若い……どんな人?」
フラナ
「背の高い人っ」

……ちょっと……比較対象に難があるかもしれない。

花澄
「考古学、で国史……ねえ……面白い授業、なんだよね?(にこ)」
フラナ
「うんっ」
花澄
「じゃ……ね、フラナ君。夕飯うちで食べるときにでも、その授業の話、してくれる?」
フラナ
「うん、勿論!」

悪党、と、店長の口元が動く。
 かろく無視して花澄はにこにこと笑う。
 猫が欠伸をして、背中を伸ばした。

解説

フラナを中心に、花澄、祐司、それぞれが顔見知りであることによる「情報漏洩」(笑)のヒトコマを描写したエピソードです。(^_^;
 フラナにまつわる「情報漏洩」シリーズの第1弾でもあります。
 時期としては、『そして始まりの春』より一ヶ月ほど後、フラナ君が大学や風見アパートに、それなりに馴染んだ頃だそうです。
 (『夕餉の図』は、大体同時期の少し後の出来事です)
 『「吹利史」』『そして始まりの春 '99』『到着!風見アパート』も、参照して下さい。
 (解説・文責:ごんべ)

初出
 1999/5/24 "[KATARIBE 13039] [HA06][EP] 「筒抜け」"
作者
 E.R



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