エピソード1029『守る為に』


目次


エピソード1029『守る為に』

登場人物

紫苑(しおん)
金属生命体。布施美都という少女を守る意志を持ち、最近感情も目
覚めてきた。
布施美都(ふせ・みと)
過去の記憶、記録の無い少女。天津神の神剣を復活させる要素の一
つである事から、国津神を信ずる一派に狙われている。
小滝ユラ(こたき・ゆら)
グリーングラスでバイトをしている大学生。美都を引き取った。
植物、動物との意思疎通が可能。

昼、襲撃

「布施……美都だな?」

町外れの森の中、人気はない。美都は、再び最初にいた場所に探索に来ていた。そこに向かって歩いて来る黒いスーツ、サングラスの男。
 既に独鈷杵を構えている。

美都
「そうだけど……あなたは?」(紫苑に寄り添う)
「そこの男。その娘を置いて行けば命は助けてやる。去れ」
紫苑
「お断りいたします」
「なら……お前も殺す」

そういうと、真っ直ぐ向かって来る男。今の紫苑は背こそ高いが、どちらかというと細面で強そうには見えない。
 当然ながら、丸腰である。男が油断するのも無理はない。

美都
「紫苑ちゃん……」
紫苑
「大丈夫です。排除します」
美都
「そうじゃなくって……殺さないでね?」
「何だと?」
紫苑
「そう言う事ですか……逃がせ……と?」
美都
「うん……」
紫苑
「分かりました。……では、戦い方を考えねばなりませんね……」
「ふざけやがって!」(殴り掛かって来る)
紫苑
「貴方のような素人では、この無数のパンチを躱せません」
「なにっ」

男には、無数のパンチが同時に迫って来るように見えたのだろう。
 2発程度は躱すが、残りの全ては命中する。
 後ろに吹っ飛び、背中をしたたかに木に打ち付け、呼吸が出来なくなる。

紫苑
「終わりです」
美都
「なんか……ずるい……」
紫苑
「普通に戦った結果です」
美都
「そうだけど……」

紫苑は既に腕を1本に戻している。実際に増えていたのは一瞬だ。

紫苑
「さて……」(男の方へ寄って行く)
美都
「どうするの?」
紫苑
「なに、事情を聞くだけです。起きてください」(男の腹を蹴る)
「ぐっ……げほっげほっ」
紫苑
「貴方の所属と、命令された人間を答えなさい」
「ぐ……話すと、思うか?」
紫苑
「話さなければ、骨の2,3本は覚悟しなさい」
SE
カチッ
美都
「? ……(何の音?)」
「命ごとくれてやるよ! 御魂も道連れだけどなぁっ!」(身体の前に手榴弾を持って来る。ピンは既に抜かれている)
紫苑
「(しまった!)……」

一気に形態を液状化させ、男の持っている手榴弾を包み込む紫苑。
 紫苑の中で爆発した手榴弾は、外の世界には全く効果を発揮することはなかった。

美都
「紫苑ちゃん……大丈夫?」

見ると、紫苑はちゃんともとの人間の形態へと戻ってはいるが、膝をついた状態で動けるようには見えなかった。

紫苑
「(50%のマシンが機能停止か……)すみません……すこし、休まなければなりません」
美都
「そんな!……紫苑ちゃん!まだ誰かいる!」
紫苑
「まずいですね……わたしを置いて逃げてください」
美都
「そんな事出来ないよっ……」
紫苑
「わたしはもうすぐ動けなくなります……」
美都
「紫苑ちゃん、武器になって。逃げるのに使うから」
紫苑
「わかりました……武器化したまま休むことにします、またあいましょう(自己修復モードへ移行)」

そういうと、銀色の光沢はそのままに、剣の形へ姿を変え、硬化する。

美都
「紫苑ちゃん、ありがとう」(2、3回素振りする)

思ったより剣は重くない。しかも、構えていると落ち着く。

美都
「(やった事無い筈だけど……からだが覚えてるの?)」

両刃でなければ、峰の部分を肩に担ぎ、腰を落とす。両刃の剣なので、余り押し付けると傷付いてしまうが、美都に自覚はない。
 幸い、刃引きはされているため、傷付く事はないが……。

美都
「(いけそう……とりあえず人の目があるところまで逃げる……)」
「く……逃がすか……」(立ち上がる)
美都
「あ……」

手榴弾を前に放った男は、足取りこそふらついているが立ち上がる。
 目の前も一人の男。黒いスーツに身を包み、サングラスまでかけている。手に持っている武器は法具一つ、独鈷杵。
 実際の攻撃力など、ナイフにも及ばないが、おそらく美都にだけ効果のある法力がかけられているのだろう。食らってみるわけには行かない。
 結局、男二人に挟まれた形となる。

「くっ……まだ足が……」
美都
「遅いよっ」(男に切り付ける)

肩に担いだ剣を肩を支点にして振り下ろす。相手との距離は1m。刃の長さは1m長。手を伸ばして振る、通常の剣道や剣術なら充分間合いに入っている。
 しかし、美都の振り方では届かない。

「うわっ……ととっ」(かろうじて躱す)
美都
「あれっ?」
黒服2
「素人かっ」(独鈷杵を突き出す)
美都
「うわっ」
SE
キィン!

かろうじて剣で受けた。切っ先をほとんど動かさずに柄の部分ではじく。

美都
「(なんか勝手が違うっ)」
黒服2
「死ねっ」
美都
「やだってばっ」

腰を支点にして剣と同時に回転。独鈷杵を避けると同時に横薙ぎにするつもりだが、長さは足りない。

美都
「刃が短いのっ?」
黒服2
「自分の得物の把握もしてないかっ」
美都
「だったらそれなりのっ」

拳が届くほどに肉薄し、肩口からの振り下ろし、そのまま自転しての横薙ぎ、残りの半回転でまた肩に背負い直す。

黒服2
「ぐぅっ」

横薙ぎは肺の下部、横隔膜に命中し、呼吸を止める。
 痛みで同時に意識も奪う。
 美都の方はそのまま半回転。空振りではあるが、もう一人の突進の動きを止める。

「このぉっ!」
美都
「しつこいっ」
SE
ギッ……ゴッ

根元で受け、そのまま滑らして柄を跳ね上げる。さすがに手を切られる事はなかったが、跳ね上げた柄は鼻と上唇の間に的確に命中する。人体の急所の一つだ。

「!!っっっ」

男は、声も出せずに後ろに倒れこむ。

美都
「おわった?……」

美都は、一瞬立ち止まって男を見下ろしていたが、すぐに後ろを向けて走っていった。

夕方、時を待つ

ユラに簡単に事情を説明し紫苑の覚醒を待つ。

ユラ
「美都ちゃん、一眠りしたら?紫苑ちゃんが起きるのって、夜中でしょう?」
美都
「そうですね……」

しばらく眠る事にする。いつまでも、紫苑やユラに頼ってはいられない。そのためのマリカのバイトである筈だが、経済力ではなく、身にかかる火の粉の払い方を習うのが先のようだ。

美都
「あたしが……つよくならなきゃ……」

夜、それぞれの決意

紫苑
「(システム起動。稼動状況80%)」(猫になる)
美都
「あ、紫苑ちゃん、良かったぁ……」(紫苑を抱きしめる)
紫苑
「にあぁ……(美都……)」
美都
「ごめんね、あたしがしっかりしていれば……。あたし、強くなるね」
紫苑
「にぃ……(強く……強くならねばならないのは、わたしの方です)」
美都
「もう、真夜中なんだよ。一緒に寝よ?」
紫苑
「にぁ(はい……)」

美都に抱かれるままに、布団に入った紫苑であった。

紫苑
「(強く……)」

朝、踏み出す一歩

美都
「ん……あ!」(がばっ)

外はまだ暗い。

美都
「えーと……外出歩くのは危ないから……」

着替えながら、今日の予定を模索する。ジョギングに行きたいが、外に行くのは危険だろう。紫苑が起きるまでは待った方が良い。だったら、ユラの力の及ぶ範囲内で訓練するしかない。
 グリーングラスの周囲の木には、美都への襲撃に備えての対処が、ユラによってなされている。

美都
「この前の剣術はなんかいい感じだったな……素振り……って、木刀なんか無いや……取りあえず今日は箒でいいか……」
紫苑
「ふあぁ……おはようございます、美都、今日は早いですね」
美都
「うん、少し鍛えようと思って。あ、丁度良かった、紫苑ちゃん、手伝ってくれない?」
紫苑
「すみません、これから出かけようと思うんです。今日は、夕方のマリカまでは店番ですよね?」
美都
「うん、そうだけど……」
紫苑
「マリカが終わる頃には迎えに行けるように帰ってきます」
美都
「……うん。どこ行くか、聞いてもいい?」
紫苑
「わたしを作った人の所です」
美都
「あ……そうか……まだどこか悪いの?」
紫苑
「そういう訳ではありません。なに、一応念のためです」
美都
「そっか。じゃあ、何かあったら電話してね」
紫苑
「はい。それでは行ってきます」
美都
「行ってらっしゃーい」

それぞれ、前へと歩き出した。
 美都が自分を探し当てるには、まだまだ長い道程が必要そうであった。

解説

美都の襲撃が再び行われた。
 紫苑が負傷したものの、かろうじて事無きを得るが、両人とも新たな強さを身につける事を決意する。



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