エピソード1041『その名はるりるり』


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エピソード1041『その名はるりるり』

登場人物

るりるり
真っ白な毛と瑠璃色の瞳を持った小さな鉱物猫。
向坂次郎(さきさか・つぎお)
世話好きのおっさん。電波を受信することもあるらしい。
佐久間拓巳(さくま・たくみ)
霊体化能力者にして人外と意志疎通できる大学生。
湊川観楠(みなとがわ・かなみ)
ベーカリー楠の店長

ねこかん

ベーカリーのすぐそばの路地を歩いていると。
 ふと目の前を通るのは、白い物体。
 瑠璃色の瞳が、印象的だった。ちいさなちいさな猫。

るりるり
「にゃ〜〜〜」
佐久間
「おや、猫だ」
観楠
「ねこ…………」
向坂
「ねこーねこ〜〜、か」
るりるり
「ふにゃあ〜(向坂さんの方にとてとてっ♪)」
佐久間
「ふむ……人に向かっていく猫とは珍しい」
向坂
「この猫は特別だ」

向坂は一度ならず、この小猫に餌をやっているという仲であるらしい。
 もうすっかり顔なじみなようで。

向坂
「腹へってるだろ、今日は猫缶をもってきたやったぞ」(ごそごそ)「あ……缶切りが……ない(汗)」
観楠
「缶切りならありますけど〜〜 ここではちと、マズイんで……はい、缶切り」
向坂
「すまんのぅ」(きこきこ)
佐久間
「なんだ、餌をねだりに来たのか…」

一瞬、るりるりの動きが止まった。
 それは言われても仕方のないことだけれど……。
 でも、えさの入手が困難なのは、決してるりるりのせいではない。
 
 るりるりとしては、いろいろ思うところはあったけれど。
 今は、聞こえない振り。

向坂
(かぽっと紙皿の上に中身を出す)「まあ、そういうなよ佐久間青年」
佐久間
「もちろん、悪いとか言うつもりはありませんよ」
向坂
「ほら、猫缶だぞー」
るりるり
「にゃ〜(にこっ♪)」
向坂
「お、今、笑ったぞ、こいつ」
佐久間
「そうですか?」
向坂
「うむ。確かに笑ったように見えた」

その名は………

佐久間
「まぁ、喜んでるみたいですけど」(るりるりを見て)
観楠
「名前、なんていうんです?」
向坂
「んー……シロ、かな(なんとなく……)」
観楠
「……竜胆ちゃんとこと同じですねえ」
向坂
「そうだな、あそこのはシロぴょんだったなぁ」
佐久間
「まぁ、猫なんていろんな人がいろんな名前付けてるもんですからねぇ」
向坂
「……」
るりるり
「ふぎゃあっ(しろはいやらしい)」
向坂
「瑠璃色……」

その瞳の色は瑠璃色。
 吸い込まれるように、深い色。

向坂
「るり」
観楠
「はあ?」
向坂
「こいつは、るり、だ」
観楠
「るり………… てーと…………(考えちう) ……」
向坂
「るりるりでもいいかもな(天啓から醒めたように)」
観楠
「……『ばかばっか』?(ぼそっ)」
佐久間
(あ、同じこと考えてる…(汗))
向坂
「……いや、今なんとなく電波を受けたような気がする。 だから、るりるりでいい」
観楠
「よりにもよって『るりるり』……(苦笑)」
佐久間
「るりるり……まぁ、いいんじゃないですか? 覚えやすいし。 まぁ、後は彼……彼女かな? がこの名前を気に入ってくれるかどうか、ですけど」
向坂
「いや、名前なぞこっちの呼びかけの為の符号に過ぎないから………」
佐久間
「いやいや、それでも本猫の意思は尊重しないと」
向坂
「愛情を持って呼びかけるなら、恐らくこいつにとってはなんでもいいのだ」

そこまで言ったところで、向坂の口調が、ふっと変わる。わずかに凛とした響きすら帯びて。

向坂
「だから、おまえはるりるりだ。俺がそう決めた」
るりるり
「にゃ〜〜♪」

わたしの名前

ようやく、わたしに名前ができた日。
 「るりるり」、何かのキャラの名前でもあるようだけど……
 でも、わたしの名前……。わたしのもの。
 ちょっと嬉しかった。
 秋も深まりつつある日のこと。

時系列

1999年10月半ば。

解説

ようやく、鉱物猫に名前がついた日のお話。



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