- るりるり
- 真っ白な毛と瑠璃色の瞳を持った小さな鉱物猫。
- 向坂次郎(さきさか・つぎお)
- 世話好きのおっさん。電波を受信することもあるらしい。
- 佐久間拓巳(さくま・たくみ)
- 霊体化能力者にして人外と意志疎通できる大学生。
- 湊川観楠(みなとがわ・かなみ)
- ベーカリー楠の店長
ベーカリーのすぐそばの路地を歩いていると。
ふと目の前を通るのは、白い物体。
瑠璃色の瞳が、印象的だった。ちいさなちいさな猫。
- るりるり
- 「にゃ〜〜〜」
- 佐久間
- 「おや、猫だ」
- 観楠
- 「ねこ…………」
- 向坂
- 「ねこーねこ〜〜、か」
- るりるり
- 「ふにゃあ〜(向坂さんの方にとてとてっ♪)」
- 佐久間
- 「ふむ……人に向かっていく猫とは珍しい」
- 向坂
- 「この猫は特別だ」
向坂は一度ならず、この小猫に餌をやっているという仲であるらしい。
もうすっかり顔なじみなようで。
- 向坂
- 「腹へってるだろ、今日は猫缶をもってきたやったぞ」(ごそごそ)「あ……缶切りが……ない(汗)」
- 観楠
- 「缶切りならありますけど〜〜 ここではちと、マズイんで……はい、缶切り」
- 向坂
- 「すまんのぅ」(きこきこ)
- 佐久間
- 「なんだ、餌をねだりに来たのか…」
一瞬、るりるりの動きが止まった。
それは言われても仕方のないことだけれど……。
でも、えさの入手が困難なのは、決してるりるりのせいではない。
るりるりとしては、いろいろ思うところはあったけれど。
今は、聞こえない振り。
- 向坂
- (かぽっと紙皿の上に中身を出す)「まあ、そういうなよ佐久間青年」
- 佐久間
- 「もちろん、悪いとか言うつもりはありませんよ」
- 向坂
- 「ほら、猫缶だぞー」
- るりるり
- 「にゃ〜(にこっ♪)」
- 向坂
- 「お、今、笑ったぞ、こいつ」
- 佐久間
- 「そうですか?」
- 向坂
- 「うむ。確かに笑ったように見えた」
- 佐久間
- 「まぁ、喜んでるみたいですけど」(るりるりを見て)
- 観楠
- 「名前、なんていうんです?」
- 向坂
- 「んー……シロ、かな(なんとなく……)」
- 観楠
- 「……竜胆ちゃんとこと同じですねえ」
- 向坂
- 「そうだな、あそこのはシロぴょんだったなぁ」
- 佐久間
- 「まぁ、猫なんていろんな人がいろんな名前付けてるもんですからねぇ」
- 向坂
- 「……」
- るりるり
- 「ふぎゃあっ(しろはいやらしい)」
- 向坂
- 「瑠璃色……」
その瞳の色は瑠璃色。
吸い込まれるように、深い色。
- 向坂
- 「るり」
- 観楠
- 「はあ?」
- 向坂
- 「こいつは、るり、だ」
- 観楠
- 「るり………… てーと…………(考えちう) ……」
- 向坂
- 「るりるりでもいいかもな(天啓から醒めたように)」
- 観楠
- 「……『ばかばっか』?(ぼそっ)」
- 佐久間
- (あ、同じこと考えてる…(汗))
- 向坂
- 「……いや、今なんとなく電波を受けたような気がする。 だから、るりるりでいい」
- 観楠
- 「よりにもよって『るりるり』……(苦笑)」
- 佐久間
- 「るりるり……まぁ、いいんじゃないですか? 覚えやすいし。 まぁ、後は彼……彼女かな? がこの名前を気に入ってくれるかどうか、ですけど」
- 向坂
- 「いや、名前なぞこっちの呼びかけの為の符号に過ぎないから………」
- 佐久間
- 「いやいや、それでも本猫の意思は尊重しないと」
- 向坂
- 「愛情を持って呼びかけるなら、恐らくこいつにとってはなんでもいいのだ」
そこまで言ったところで、向坂の口調が、ふっと変わる。わずかに凛とした響きすら帯びて。
- 向坂
- 「だから、おまえはるりるりだ。俺がそう決めた」
- るりるり
- 「にゃ〜〜♪」
ようやく、わたしに名前ができた日。
「るりるり」、何かのキャラの名前でもあるようだけど……
でも、わたしの名前……。わたしのもの。
ちょっと嬉しかった。
秋も深まりつつある日のこと。
1999年10月半ば。
ようやく、鉱物猫に名前がついた日のお話。
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